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潰瘍性大腸炎の東洋医学解説


【東洋医学からみた潰瘍性大腸炎】

東洋医学では、
腹痛・粘血便・濃血を含む便・
裏急後重(リキュウコウジュウ・急激な腹痛、常に便意があるがすっきりでない、肛門の下垂感等を伴う)
があるものを痢疾(リシツ)と称しており、
潰瘍性大腸炎もこの範疇に入る。

古典においても様々な名称で記されており、

『素問(ソモン)
・通評虚実論篇(ツウヒョウキョジツロンヘン)(第二十八)
腸澼便血(チョウヘキベンケツ・熱性の下痢症状に血が混じるもの)

『難経(ナンギョウ)』(第五七難)
  大瘕泄者、裏急後重、数至圊而不能便、茎中痛。
  (訳:大瘕泄(ダイカセツ)は、腹中がひきつれて痛み、
     肛門が下がるような感覚になり、トイレに何度も行くが便は出ない。
     その結果、陰茎(インケイ・男性外生殖器)まで痛くなる。)

『傷寒論(ショウカンロン)
・弁少陰病脈証併治(ベンショウインビョウミャクショウヘイチ) 三〇六章
   少陰病、下利便膿血者、桃花湯主之。
   (訳:少陰病に罹って、下痢して大便に膿血が混じる場合は
      桃花湯(トウカトウ・下記に述べている虚寒痢の症状に作用する)で治療する。)

・弁厥陰病脈証併治(ベンケツインビョウミャクショウヘイチ) 三七一章
   熱利下重者、白頭翁湯主之。
   (訳:熱性の下痢で裏急後重する場合は、
    白頭翁湯(ハクトウオウトウ・熱を冷ます作用をもつ)で治療する。)

他にも
『諸病源候論(ショビョウゲンコウロン)痢疾諸侯篇』には
  赤白痢(セキハクリ)・血痢(ケツリ)・膿血痢(ノウケツリ)・熱痢(ネツリ)

『千金方(センキンポウ)』には 熱痢など多数の記載がある。

『景学全書(ケイガクゼンショ)』には、
 「痢疾の治療には、まずその虚実・寒熱を見分けることが、
  最も重要なポイントである。」
と記されている。

原因として、
①季節の邪気
 自然界の気候変化を、風・寒・暑・湿・燥・火という六種類に分けて
 「六気」といい、これが人体に影響し、病の原因となった場合は、
 六淫(リクイン)または六邪と呼ばれる。
 痢疾は、夏から秋の季節の変わり目に起こりやすいとされており、
 その季節の邪である「暑」と「湿」が胃腸に影響を及ぼす。

②飲食不節(インショクフセツ・食事量や内容に偏りがあること)

これらのどちらか一方、もしくは両方が影響して発症するが、
その程度は個人それぞれの状態によって異なる。
また、ストレスなどによる精神的負担は
肝の気を巡らせる疎泄(ソセツ)機能が滞るため、
大きな要因と成り得る。

下記に、病因病理と治療法をあげていく。

① 湿熱痢(シツネツリ)
脂濃いものや、甘味の過食、飲酒は熱を生じやすく、
消化・吸収の働きをする脾胃への負担が大きいため、
余分な水が循環せずに体内に停滞してしまい
湿という病理産物を生む。
湿の性質は粘滞性があり、重く下に降りやすいため
湿と熱が結びつき、下降して大腸に集まることで腸を損傷する。
熱のため臭いの強い下痢便、肛門の灼熱感、
尿は赤みを帯び、少量となる。
気が巡らず滞るために腹痛・裏急後重も伴う。

◎治法:
清熱解毒(セイネツゲドク・熱を冷まし停滞してるものを解く)
調気行血(チョウキコウケツ・気を調節することで血を巡らせる)

②寒湿痢(カンシツリ)
冷たいものの飲食などで脾を損傷して
湿を生じ、そこに寒邪が侵入するなど、
寒と湿の邪をうけることで生じる。
どちらも動きを停滞させる性質をもつため
気が滞り、腹痛・裏急後重となる。
脾の運化機能(栄養物質を運ぶ機能)が失調し、
胃の中が満腹のように詰まった感じや、
食欲不振、味を感じ辛くなるなどの症状がある。
粘液が多く、出血が少ない水様の下痢が特徴。

◎治法:
温化寒湿(オンカカンシツ・温めることで寒湿邪をとる)

③陰虚痢(インキョリ)
慢性の下痢で体内の水分が消耗され、
熱を抑えられず、腸管を損傷してしまう。
熱の影響で血は粘り気を帯び、鮮血を下す。
(へそ)に灼熱感を伴う痛みがあり、
潤いがないために排便しづらくなる。
胃にも潤いがなくなり、空腹感があっても食べられず
口や咽頭の乾燥がみられる。

◎治法:
養陰清腸(ヨウインセイチョウ・陰を養うことで腸の熱を冷ます)

④虚寒痢(キョカンリ)
精は生命活動を支える基本物質であり、
脾胃で飲食物(水穀・スイコク)から作られた後天のものと
腎に貯蔵される、父母から受け継いだ先天のものがある。
脾と腎は互いに助け合い、協力しあう関係であり、
長期間の下痢で互いに養えなくなると、
やがて陽気という温める働きが失調するため、
冷え症状があらわれる。
肛門の灼熱感や便の臭いはなく、
薄い白いゼリー状のものが混じった下痢となる。
冷えることで腹痛を伴い、腰が怠くなる。

◎治法:
健脾温腎(ケンピオンジン・脾を助けることで腎機能を改善する)
益気統血(エッキトウケツ・脾腎の気を助けることで血が漏れないようにする)

⑤休息痢(キュウソクリ)
慢性の下痢から
正気(セイキ・邪に対する抵抗力や回復力)が弱ることで、
病源がなかなか解消しない状態。
脾が損傷することで食欲不振となり、
身体を栄養できないため横になることを好む、
倦怠感や寒がるなどの症状があらわれる。
症状が一度安定しても、過労や飲食の不摂生、
ストレスなどによって誘発され、再発と緩解を繰り返す。

◎治法:
発作期・清熱化湿(セイネツカシツ・熱を冷まし湿を除く)
休息期・健脾益気(ケンピエッキ・脾を助けることで正気を養う)



【西洋医学からみた潰瘍性大腸炎】

潰瘍性大腸炎は、直腸に始まり、
S状結腸、下行結腸など大腸粘膜を連続的に侵す
炎症性腸疾患である。
10代後半~30代前半の若年層で好発し
小児や50歳以上にもみられる。
再燃と緩解を繰り返し、慢性の経過をたどることが多く
難病疾患に指定されており、患者数は年々増加傾向にある。
全大腸炎型で発病10年を経過すると
大腸がんのリスクが高まるが、
症状が類似しているため早期発見がされにくく、
定期検査が重要となる。

◉症状
下痢・軟便・粘血便(粘液と血液が混じった便)や腹痛が大きな特徴。
肛門に近い場所での炎症ほど赤い血便が、遠くなるほど黒っぽい血便がでる。
便の回数は一日4~5回から、ひどくなると10~20回。
6回以上を重症とし、発熱・貧血・体重減少なども伴う。

◉原因
遺伝的要因や精神的要因、食生活などがあげられているが、
はっきりした原因は明らかではない。

◉患者数
平成25年度末の医療受給者証および登録者証交付件数の
合計は166,060人であり、人口10万人あたり100人程度。
(難病情報センターHPより)

◉西洋医学での治療法
・薬物療法
 サリチル酸塩製剤・副腎皮質ステロイドなどの抗炎症薬。
・血球成分除去療法
・重症で内科的治療が無効な場合、外科手術。

食事摂取は腸管を刺激するため、
重症度に合わせた食生活も重要である。

[記事]:小堀

参考文献:
『中医弁証学』
『中医病因病機学』
『標準中医内科学』
『中医基本用語辞典』
『中国傷寒論解説』
『現代語訳 宋本傷寒論』
『現代語訳 黄帝内経素問』東洋学術出版社

『病気がみえる①消化器』 メディックメディア

『鍼灸医学における実践と理論へパート4』 たにぐち書店

『基礎中医学』
『症状による中医診断と治療』 燎原書店