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突発性難聴の東洋医学的解説



突発性難聴

Sudden_deafness




突発性難聴

突発性難聴に伴う耳鳴・耳聾の東洋医学的見解

耳は清陽が上昇する時に通過する清竅であるため、
小さな変化にも影響を受け、自覚症状が現れる。
耳鳴とは耳中にいろいろな声が聞こえるものをいい、
耳聾とは聴力の減退をいう。
耳鳴りに必ずしも耳聾を伴うとは限らないが、
耳聾には耳鳴を伴うことが多い。
「耳鳴は聾の漸(きざし)」といわれるように、
耳聾は耳鳴りより重いと考えられる。

風熱侵入

風邪、特に熱邪を伴う風熱の邪気が人体に侵入し、
清空の竅」である耳を塞ぐと耳鳴あるいは耳聾が発生する。
清空の「清」は反応を感じること、
「空」は音を分析できることを意味する。
「金(肺)は火の灼熱を受ければ耳聾となる」といわれており、
「耳聾は肺から施術する」。

肝火上擾

肝は将軍の官と呼ばれ剛臓である。
肝が憂鬱や怒りなどの感情的刺激によって傷つけられると
肝気は鬱結して肝火となって上逆し、
耳を犯すと耳鳴・耳聾が発生する。
肝火が上擾した場合、初期は耳鳴がし、
徐々に聞こえなくなっていくことが多い。

痰火上昇

酒や美食などの暴飲暴食によって生じた痰湿が、
徐々に熱をもち痰火が発生する。
痰火が上昇して耳の機能を乱して耳の症状が現れる。

腎精不足

腎は精を蔵し、精は骨髄に変化する。
髄は脳を満たし、耳の機能を維持する。
「腎は耳に開竅する」
虚弱体質あるいは病後の精血不足・性生活の不節生などによって
腎精・腎陰が消耗されると髄海である脳
または腎竅である耳の栄養が不足し耳鳴・耳聾が発生する。
腎虚によって生じる耳症状は、
聴力が徐々に減退していく耳聾が多い。
更年期には、
腎陰が不足して心火を抑えることができない「心腎不交」による
耳鳴・耳聾が現れることがある。

脾胃虚弱

脾は気血を生み出すと同時に、
清気を上昇させる機能がある。
脾気の運化機能が正常であれば、
体内の気血が全身に充足しているが、
減退すると気血の生成不足だけではなく、
清気が上昇できない状態となり、
耳鳴・耳聾が生じる。

 


 弁証論治

風熱侵入

銀翹散(ぎんぎょうさん)…疏散風熱・清熱解毒

・金銀花・連翹・牛蒡子・薄荷 …辛涼解表・疏散風熱
・桔梗・甘草 …利咽
・荊芥・淡豆豉 …解表・散邪
・竹葉・芦根…清熱・生津
・羚羊角 …瀉火・解熱

〔主治〕

風熱犯衛による突発性難聴
発熱・微悪風寒・無汗あるいは汗がすっきり出ない
頭痛・口渇・咳嗽・咽痛・咽の発赤・舌尖辺は紅
舌苔が薄白あるいは薄黄・脈が浮数など

〔方意〕

本法は辛涼解表の代表方剤の一つであり、
日本で市販されている。
風熱感冒は進行が速いので、
体表の邪気が熱毒邪に転化しないうちに、
早めに改善することが大切である。

主薬は辛涼の金銀花・連翹で
軽宣透表・清熱解毒の効能をもち、
辛散の荊芥・淡豆豉・薄荷が透熱達邪をつよめる。
辛温の荊芥・淡豆豉は、温であるが燥性はなく、
大量の清涼薬に配合することによって温性が消失し
辛散透邪をつよめることができる。
辛平の牛蒡子は祛風清熱・利咽に、
桔梗は宣肺利咽に、
生甘草は清熱解毒・利咽に働き、
肺系の風熱を除き咽痛を軽減する。
甘涼透解の竹葉は上焦の清熱に、
芦根は清熱生津に作用し、他薬を補佐する。
全体で辛涼透解し衛分の風熱の邪を除く。
本方中の金銀花と連翹は清熱解毒作用があるので、
風邪に起因する中耳炎の改善にも適している。
さらに桔梗は、清気を上昇させ、
耳竅を通じさせる役割を果たす。

 

荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)…疏散風熱・解毒・涼血

・黄連解毒湯(黄芩・黄連・黄柏・山梔子)…清熱・解毒
・四物湯(地黄・芍薬・当帰・川芎)…養血・和血
・防風・荊芥・薄荷・白芷・連翹・柴胡 …疏風・散邪
・桔梗 …上昇・通竅
・枳殻 …理気
・甘草 …調和

〔主治〕

風熱毒邪が肝胆三焦にびまんし、
遷延して耗血をともなった状態。

〔方意〕

本方は一貫堂の処方で、
「両耳の腫痛」を改善する方剤である。
風熱邪を疏散させる薬と清熱解毒の薬が多く配合され、
耳疾患の初期に使用することが多い。
柴胡清肝湯から牛蒡子・天花粉を除き
荊芥・防風・白芷・枳殻を加えたものに相当し
祛風と排膿に重点がおかれているので、
掻痒・化膿などがやや顕著な場合に適する。
また柴胡は肝胆に薬効を集中させる引経薬であり、
風熱感冒による耳痛・耳鳴・耳聾に効果がある。

 

防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)…疏風・解表・瀉熱・通便

・防風・荊芥・麻黄・薄荷 …疏風・解表
・石膏・黄芩・連翹・山梔子・滑石(利水)…清熱・瀉火
・大黄・芒硝 …瀉火・通便
・桔梗 …宣肺・上昇・通竅
・当帰・芍薬・川芎 …養血・活血
・白朮・甘草・生姜 …健脾・和胃

〔主治〕

悪寒・発熱・目の充血・鼻閉
口が苦い・口乾・咽痛・胸が苦しい
咳嗽・粘稠な痰・尿色が濃く少量・便秘

〔方意〕

本方は「銀翹散」よりも清熱瀉火の効能が強く、
特に尿と便の通利によって体内の熱毒を下から除去する。
風熱邪の上衝によって起こる、
耳痛・耳塞・耳鳴・耳聾などの症状に用いられる。
本方の作用は主として体内の邪気を取り除くことにあり、
疏風解表・清熱・攻下の効能をもつが、
清熱が主体で解表は補助的あり、
攻下は清熱をつよめる目的である。
疏風解表の防風・荊芥・麻黄・薄荷は、風邪を汗として除く。
瀉下の大黄・芒硝は熱邪を通便によって泄下し、
清熱の石膏・黄芩・連翹・桔梗は肺胃の熱を宣泄し
清熱利湿の山梔子・滑石は熱邪を小便として排除し、
いずれも裏熱を清解する。
さらに養血活血の当帰・芍薬・川芎、
健脾燥湿の白朮と和中緩急の甘草が配合されているので
正気を維護することができ、
「汗して表を傷らず、清下して裏を傷らず」といわれる。
熱邪の内蘊による赤顔・便秘などの実証に適する。


 

肝火上擾

竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)…瀉肝・利湿

・竜胆草・黄芩・山梔子 …瀉肝・利湿
・車前子・木通・沢瀉 …利湿・清熱
・生地黄・当帰 …養血
・甘草 …調和

〔主治〕

(1)肝胆実火
いらいら・怒りっぽい・はげしい持続性の頭痛・
めまい感・目の充血・眼痛・耳鳴・耳痛・突発性難聴・
口が苦い・胸脇痛・舌の尖辺が紅・舌苔が黄・脈が弦数で有力など。

(2)下焦湿熱
排尿痛・排尿困難・尿の混濁・残尿感、陰部の瘙痒・
腫張・発汗、悪臭のある黄色帯下、インポテンツなど。
舌苔は黄膩・脈は滑。

〔方意〕

本処方は急性の耳鳴と耳聾、
特に突発性難聴を改善する主方である。
肝火を瀉する作用と利湿作用がある。
肝経の熱邪は尿から取り除かれ、
すみやかに効果が現れる処方である。
『医方集解』に肝胆の実火湿熱・脇痛・耳聾・
胆汁が溢れる口苦を改善するとある。
苦寒の黄芩・山梔子は瀉火・清熱するとともに
三焦を通利して、竜胆草を補助する。
清熱利湿の沢瀉・車前子・木通は湿熱を小便として排除し、
また上部の火熱を下泄する。
柴胡は諸薬を肝胆経に引導し、
肝気を疏通して化火を防止する。
なお肝経の火熱は陰血を消耗しやすく、
苦寒燥湿薬も傷陰しやすいので、
滋陰養血の生地黄・当帰を配合して
陰血に損傷が及ばないように防止している。
全体で「瀉中有補、利中有滋」の配合になっており、
上部の火熱を清瀉すると同時に、
下部の湿熱を清泄することができる。
できれば肝経の引経薬である柴胡を加えるか、
「四逆散」を併用したい。

 

四逆散(しぎゃくさん)+香蘇散(こうそさん)…疏肝・散邪・通竅

・四逆散(柴胡・枳実・芍薬・甘草)…疏肝・通鬱
・香蘇散(香附子・柴蘇・陳皮・甘草)…散邪・理気・通竅

〔主治〕

四逆散

(1)少陰病四逆
四肢の冷え・咳嗽・動悸・尿量減少・腹痛・下痢・裏急後重

(2)肝脾不和
抑うつ感・ゆううつ感・いらいら・胸脇部が脹って苦しい
腹満・腹痛・下痢・脈が弦など

香蘇散

風寒表証に気滞をともない、
悪寒・発熱・頭痛・無汗・胸苦しい・腹満・食欲不振
などを呈するもの。

〔方意〕

本方は疏肝理気解鬱の「四逆散」と
散邪理気通竅の「香蘇散」を併用して、
肝経の邪気を発散させ、耳の閉塞感を取り除く。
特に柴胡は肝経の引経薬であると同時に肝経の熱邪を取り除く。
香蘇散は香りによって、耳のつまりを通じさせる。
両処方の作用はともに穏やかで飲み易い処方であり、
苦味の強い「竜胆瀉肝湯」を苦手とする人に応用できる併用である。

 

加味逍遙散(かみしょうようさん)…疏肝・解鬱

・柴胡・薄荷 …疏肝・清熱・散邪
・当帰・芍薬・牡丹皮 …養血・活血・涼血
・白朮・茯苓 …健脾・滲湿
・山梔子 …清熱・利水

〔主治〕

肝鬱血虚・化火で、イライラ・怒りっぽい・顔面紅潮・
口乾・脈が弦数などをともなうもの。

〔方意〕

本方は肝気鬱結を改善する基本処方である。
肝鬱血虚で化したために、イライラ・怒りっぽい・
口乾などの心肝火旺の症候をともなうので、
逍遙散に血熱を清し心肝の火を瀉す牡丹皮と、
三焦の火を瀉す山梔子を加えて、
導熱下行するとともに水道を通利する。
感情的・精神的な原因から生じた
耳鳴・耳聾に対して用いることが多い。
効能が穏やかなので、耳鳴症状が強い場合は
「竜胆瀉肝湯」あるいは他の処方を併用することが可能である。


痰火上昇

温胆湯(うんたんとう)…清熱化痰

・二陳湯(半夏・陳皮・茯苓・甘草)…燥湿化痰
・竹茹 …清熱・化痰
・枳実 …理気・化痰

〔主治〕

肝胃不和・痰熱内擾
悪心・嘔吐・イライラ・口が苦い・不眠・驚き易い・
動悸・多痰・胸苦しい・めまい・てんかん発作・
舌苔が微黄膩・脈が滑あるいは弦でやや数など。

〔方意〕

本方は痰熱による諸疾患を改善する基本方剤である。
痰熱を除去して胆気を舒暢させ、
胆胃不和・痰熱内擾を消除する。
燥湿化痰・降逆和胃の半夏が主薬で、
清化熱痰・止嘔除煩・清胆の竹茹が補佐し、
降気・行気の枳実を配合することにより
胆気を舒暢させ痰を下行させる。
理気燥湿の陳皮と健脾滲湿の茯苓は、
除湿消痰をつよめると同時に、
甘草と健脾和胃に働いて生痰を防止する。
全体で理気化痰・清胆和胃の効能が得られる。

 

半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)…化痰・止眩

・二陳湯(半夏・陳皮・茯苓・甘草)…燥湿化痰
・白朮 …健脾・燥湿
・天麻 …熄風・止眩

〔主治〕

風痰上擾
めまい・頭痛・悪心・嘔吐・胸苦しい・舌苔は白膩・脈は弦滑など。

〔方意〕

本方は痰湿あるいは風痰(動いている痰)
による諸疾患を改善する処方である。
化痰の「二陳湯」に健脾・燥湿の白朮、
熄風・止眩の天麻を加え、臨床では主として
メニエール症候群の眩暈を改善する。
天麻は内風をしずめて眩を止める作用があり、
すべての眩暈に効果がある。
天麻は処方の中で重要な役割を果たしている。
「二陳湯」と併用することで、ムカムカして舌苔膩の痰湿による
眩暈・耳鳴を改善する。


 

腎精不足

六味地黄丸(りくみじおうがん)…滋陰・補腎

・熟地黄・山茱萸・山薬…滋補肝腎(三補)
・牡丹皮・茯芩・沢瀉 …利水清熱(三瀉)

〔主治〕

腰や膝がだるく無力・頭のふらつき・
めまい感・耳鳴・聴力減退・盗汗・遺精・
消渇・身体の熱感・手のひら足のうらのほてり

〔方意〕

本方は腎陰を補益する基本処方で、
長期的な使用が可能である。
腎・肝・脾を併補しつつ、
補腎陰が主体となっている。
また、陰虚火旺に対して、滋陰を主とし清熱を補助した
「水の主を壮にし、もって陽光を制す」の配合である。

甘・微温の熟地黄は滋補腎陰・填精補髄に働き主薬である。
酸温の山茱萸は養肝益腎・渋精に、
甘平の山薬は滋腎補脾・渋精に働いて、
脾・肝・腎の陰を滋補するとともに陰精の漏出を抑止する。
三陰を併補することにより滋補腎陰の効果をつよめることができる。
以上が三補である。

甘寒の沢瀉は利水滲湿・清熱に働き、
腎陰虚による水液代謝失調により生じた
湿濁を除き、熟地黄の滋滞を防止し、内熱を下泄する。
甘淡平の茯芩は健脾利水により山薬を補佐し、脾湿を除く。
辛苦・微寒の牡丹皮は清熱涼血に働き、
内熱・肝火を清泄し、山茱萸の温性を制する。
この三薬が「三瀉」あるいは「三開」である。

耳には、味が濃い補腎薬を与える必要があるので、
動物性の薬が入っている市販の
「海馬補腎丸」などを併用するとよい。
耳鳴が生じて不安症状が強い場合には、
重鎮安神作用のある「柴胡加竜骨牡蛎湯」か
「桂枝加竜骨牡蛎湯」を併用することも可能である。

 

耳聾左慈丸(じろうさじがん)…補腎・滋陰・潜陽

六味地黄丸 …滋陰・補腎
五味子 …補腎・納気
磁石 …潜陽・降火・止鳴

〔方意〕

補腎の基本処方「六味地黄丸」に、
腎の精陰の流失を防ぐ性質(収歛性)のある五味子と、
耳鳴の専門薬である磁石を加えたもので、
耳鳴と耳聾を改善する専門処方である。
磁石は重みによって上部の耳症状を安定させる効能が優れ、
耳鳴りの症状に必ず選ばれる薬物である。
本処方は日本にないが、
市販されている「耳鳴丸」はこれと組成が似ている。


 

脾胃虚弱

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)…補中・益気・昇陽

・黄耆・人参・白朮・甘草 …補中益気
・陳皮 …理気・和胃
・当帰 …養血・和血
・升麻・柴胡 …昇陽
・生姜・大棗 …調胃

〔主治〕

(1)脾虚下陥
元気がない・疲れ易い・動くと息切れする・四肢がだるく無力・
物を言うのがおっくう・立ちくらみ・頭痛・めまい・下腹部の下墜感・
脱肛・子宮下垂・慢性の下痢・尿失禁・排尿困難・不正性器出血・
皮下出血・舌質は淡・脈は沈細で無力など

(2)気虚発熱
発熱・身体の熱感・自汗・悪風・頭痛・
口渇があり熱い飲物を欲する・物を言うのがおっくう・
息切れ・元気がない・脈は浮大で無力・舌質は淡など

〔方意〕

「脾胃虚すれば即ち九竅不通」と
強調した李東垣の処方で、気虚の代表処方である。
主薬は益気・昇発陽気の黄耆であり、
補肺気・実衛のも働き、大量に用いている。
人参・白朮・甘草は健脾益気に働いて黄耆を補助しており
利気醒脾の陳皮を加えることにより膩滞の弊害がない。
柴胡は肝気の疏達・昇発をつよめ、升麻は脾陽を昇挙し、
いずれも黄耆の昇発を補助する。
升麻と柴胡は陽気を上昇させ、脾胃の昇清機能を回復させ
長期的な使用が可能である。
当帰は補血によって益気をつよめ、さらに柔肝により肝気の昇発を高め、
間接的に他薬の効能を補佐する。
李東垣も陽気不足による耳聾に「補中益気湯」を用いると述べている。
脾気の昇清機能が減退して、清陽が上達できないだけではなく、
逆に下降すべき濁気が上逆して、頭痛の症状を加重させることもある。

 

益気聡明湯(えききそうめいとう)…益気・昇陽

・黄耆・党参・炙甘草 …健脾・益気
・升麻・葛根・蔓荊子 …昇陽・通竅
・芍薬 …滋陰・養血
・黄柏 …降火

補気を中心とする方剤で、
上昇薬の升麻・葛根・蔓荊子によって頭部の清竅を通じさせる。
頭・目・耳がすっきりする処方なので、「聡明湯」と名付けられた。
方中の黄柏は苦味をもち、上昇した痰火と陰濁を下へ降ろす作用があり、
処方の昇降のバランスがとれている。

 


●治法・処方

疏風通竅法

配穴処方
風池・外関・翳風・聴宮

主治証候
突発的な耳塞感と脹痛。聴力減退。
音が重なって聞こえる。耳鳴りや突発性の眩暈。悪心や嘔吐。
立位が不安定など。
悪寒と発熱・鼻づまり・鼻水などの症状を伴うことが多い。

適応範囲
本法は外感の風邪が耳窮を上犯した証に適用される。
急性非化膿性中耳炎・聴神経炎・前庭神経炎などはいずれも
本法を参照して改善できる。

配穴処置の意義
風池:
足少陽胆経に属し、陽維脈との交会穴である。
陽維脈は陽と表を主るので、
瀉法の刺針は疏風解熱・開閉宣竅の効能がある。

外関
手少陽三焦経の「絡」穴であり、陽維脈に通じている。
瀉法を施すと疏経通路と清解表裏の効果を現す。

聴宮・翳風
聴宮は別名「多所聞」
という手太陽小腸経の兪穴で手・足少腸経の交会穴である。
翳風は手少陽三焦経の兪穴で、
手・足少陽経との交会穴であり、
耳内の風邪をとり除くのにすぐれた効果がある。
手太陽小腸経と手・足少陽経の3経は
いずれも耳に循行していて、
聴宮は耳の前に、翳風は耳の後ろに位置している。
歴代の医家は、この2穴を耳疾患の要穴として扱ってきた。
効能は、耳部の経絡の気血の流れを疏暢することによって、
開竅聡耳にすぐれた効果をあげることである。


通絡利竅法

配穴処方
耳門・聴宮(または聴会)・翳風・瘈脈・外関

主治証候
感情が鬱屈したり突発的な怒りの後に、
突然、両耳が聞こえなくなる。
あるいは大音量を聞いたり、
気圧の急変を受けた後に、突然聴力を失う。
これらの証候には
眩暈・悪心・嘔吐などの症状を伴うことが多い。

適応範囲
本法は気滞血瘀によって耳竅が阻塞されるために起こる、
耳鳴りや耳聾に適用される。
内聴動脈の痙攣や血栓・耳管の急性閉塞・
外傷性耳聾・ヒステリー性耳聾
薬物性耳聾などは、本法を参考にして施術できる。

配穴処方の意義
耳門・翳風・瘈脈・聴会・聴宮

これらの兪穴はそれぞれ
手少陽三焦経・足少陽胆経・手太陽小腸経の3経に属する。
針で瀉法を施すことで、耳の経絡を疏通させ、
気血の運行を調節することができる。
また瘈脈の点刺出血を加えることによって、
行気活血と化瘀利竅の効果がいちだんと高まる。

外関
遠隔取穴として取穴される。
手少陽三焦経の「絡」穴で、陽維脈に通じている。
瀉法を施すことで、疏経活路と開竅啓閉の効果を得ることができる。


化痰利湿法

配穴処方
風池・翳風・太陽・陰陵泉・三陰交・豊隆

主治証候
耳鳴り。眩暈(天地がぐるぐる回るような感覚があって
眼を開くとひどくなり、動くともっともその症状が悪化する。)
顔色蒼白。悪心や嘔吐。冷や汗。食欲減退と水様便。

適応範囲
本法は痰と湿が結合して
清竅を阻塞し蒙閉したために起こる、
内耳の疾患に適用される。

配穴処方の意義

陰陵泉
足太陰脾経の「合」穴で、運脾利水の効能がある。

三陰交
足三陰経の交会穴であり、
三陰を調補して、水湿を運化する効能がある。

豊隆
足陽明胃経の「絡」穴であり、
足太陰脾経に別走する。
健脾和胃と滌痰降濁の効能がある。

風池・翳風
瀉法を施すと、少陽経の経気を疏調し、
風邪を祓い、頭目を清め、耳竅を宣する効能がある。

太陽
経外奇穴で、頭痛や眩暈の経験穴である。

補益肝腎法

配穴処方
肝兪・腎兪・三陰交・翳風・聴宮

主治証候
聴力低下。両耳のかすかな耳鳴り
(進行すると聴力を失うこともある)。
めまいや記憶力低下。不眠や多夢。腰や膝のだるい痛みと脱力感。

陰虚―五心煩熱の外、男性では遺精と早漏、
女性では過少月経などの症状を伴う

陽虚—男性ではインポテンスや滑精〔夢を見ないで遺精すること〕
女性では無月経などの症状を伴う。

適応範囲
本法は肝腎不足によって起こる
耳鳴り・難聴に適用される。
耳硬化症・老人性難聴・騒音性難聴・薬物中毒性難聴などで
肝腎不足の証候が見られる場合は、
いずれも本法を参考にして施術できる。

配穴処方の意義

肝兪・腎兪
肝と腎の「背部兪穴」である。
鍼で補法を施すと、補肝養血と益腎聡耳の効果がある。

三陰交
三陰を調補する効能があるので、
精気を増強して血脈を和すという効果を得ることができる。

翳風・聴宮
局所取穴。
経気を疏通し耳竅を通じさせる効果がある。


益気養血法

配穴処方
心兪・脾兪・気海・足三里・聴宮・翳風

主治証候
耳鳴りや重聴〔軽度の難聴〕
が強まったり軽くなったりし、過労で増悪する。
長時間続くと、聴力の低下をまねき、聴力を失うこともある。
顔色に艶がない・頭がふらついたり眩暈がする・不眠症・記憶力低下
心身の疲労脱力感・食欲低下や腹脹などの症状を伴うことが多い。

適応範囲
本法は気血両虚が起こる
耳鳴り・難聴・頭のふらつき感や
眩暈などに適用される。
鼓室硬化症・騒音性難聴・老人性難聴・薬物中毒性難聴などで
気血両虚証の証候が見られるものは、
本法を参考にして改善できる。

配穴処方の意義

脾兪・足三里
脾胃は後天の本であり、気血生化の源である。
このため、脾兪・足三里の両穴には、脾胃の運化の働きを促し、
生化機能を盛んにする効能がある。

気海
「元気の海」と言われている。
元真の不足と臓腑の虚ケイを補益する効能がある。

聴宮・翳風
いずれも耳のまわりにある兪穴である。
耳部の気血を調和し、通竅聡明の効果を現す。
心兪や脾兪などの全体取穴〔遠隔取穴〕と
局所の両者を結び合わせることで、聴力回復の効果がいっそう顕著になる。


●西洋医学的見解

原因不明に突然発症する感音難聴を総称して突発性難聴という。

〔疫学〕
年間に約2万人が突発性難聴の診断を受けている。
男女差はなく、青壮年に多い。
本疾患は1973年より厚生省特定疾患に指定されている。

〔成因〕
突然の感音難聴の原因として、
頭部外傷、気圧外傷、ウイルスや細菌の感染、
内耳血流障害、聴神経腫瘍などがある。
またスキューバダイビングによる耳気圧外傷による
急性感音難聴が増加している。

〔症状〕
突然に難聴が発生し、高度の感音難聴である。
耳鳴・眩暈(めまい)・耳閉感・平衡障害を伴うこともある。
通常一側性である。

〔診断〕
詳細な問診のあと、耳鼻咽喉の観察、聴力検査、画像検査を行う。
流行性耳下腺炎(ムンプス)で急性の高度感音難聴が起こることがあり、
血清ムンプス抗体値検査が有用な場合がある。

〔治療〕
安静と内耳の循環改善を目標とする。
安静は身体だけでなく、心の安静と音に対する安静が必要である。
ステロイド、循環改善薬の投与、
抗ウイルス薬や高気圧酸素治療なども試みられる。

〔経過・予後〕
発症から2週間以内に治療を開始すれば聴力改善の可能性がある。
1ヵ月を過ぎると改善の可能性は低い。


参考文献:
医学書院
『医学辞典』

南山堂
『医学辞典』

医師薬出版株式会社
『臨床医学各論』

東洋学術出版社
『いかに弁証論治するか』
『中医弁証学』
『中医病因病機学』
『針灸学 〔経穴篇〕』
『針灸学 〔臨床篇〕』
『中医針灸学の治法と処方』

神戸中医学研究所
『中医臨床のための方剤学』
『中医臨床のための中薬学』


 

この症状の治療体験談

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