一鍼堂(いっしんどう) 大阪心斎橋本院

疾患別解説

メニエールの東洋医学解説



          メニエール病

           Meniere's Disease



◎眩暈 東洋医学的見解

中医学では、疾病を症状別に分類整理する。
メニエール、高血圧症、脳血管障害、貧血、
自律神経失調症、眼科疾患などにみられる眩暈の症状は、
すべて中医学の眩暈の弁証論治を適用することができる。

肝陽上亢

「諸風掉眩(風によって生じる、ふるえや揺れ)、みな肝に属す」
とされ、眩暈と関係の深い臓腑は肝である。
肝は風木の臓であり、肝気は常に春の樹木のように

上に向かって伸びていく性質がある。

この上昇傾向は、春風の勢いにあおられて

動きの激しいものに変わりやすい。

肝陽が風の性質をもって異常な勢いで上に亢進することを
肝陽上亢という。

本証は肝の「陰虚陽亢」として現れるもので、
陽亢を主として病理的な変化を起こす証である。
肝鬱・肝火から発展して起こることもある。
肝気鬱結から気鬱化火となり、そのため肝陰を損傷し、
陰の損傷が腎に波及すると肝腎陰虚となる。
肝腎陰虚のため肝陽が抑制できないと、
陽亢現象が現れる。

本証は陽亢を主とした症状・所見が現れ、
臨床的には実証のように見えるが、本証の本質は「陰虚」にある。
本証は、「本虚標実」証である。

肝は剛臓であり、昇じやすく動じやすいという特徴がある。
また肝陰は不足しやすく、肝陽は有余しやすいという特徴がある。
陽が亢進すればするほど陰は衰退する。
このため陽が亢進してまったく制御できなくなると
肝風を誘発して突然意識不明となる。これは肝陽化風証とみなされる。
肝陰不足が腎陰に波及すると、腎陰虚を引き起こす。

肝陽が上部で高ぶった場合には、
眩暈・耳鳴・頭痛・目が脹れる・胸脇苦満・
いらいらする・怒りっぽい・顔面と目の紅潮など。
下半身の陰血が枯渇した場合は、
足腰がだるくなり力が入らなくなる。
肝陽が激亢すれば、風を巻き起こし、気血が逆流して肝風内動となり、
痙攣・厥・抽搐などの転帰を迎える。

 

腎精不足

腎は精を蔵し、精は髄を生む。
この場合の髄は脊髄に属し、脊髄は脳につながって脳髄となる。
頭は「髄の海」といわれ、
髄が満たされておれば、脳は正常な活動を維持する。
しかし腎精が不足して髄海(脳)が空虚になると、
眩暈、精力の減退、物忘れ、耳鳴、足腰の痛み
などの症状が現れる。
腎精不足は、年とともに精力が衰えること、
早漏、遺精、夢精などの性的疾患や、性生活の
不節制、慢性疾患による消耗によって現れる。

腎精が不足すれば五臓六腑を滋養することができず、
主として腎の主っている発育の不良や生殖機能の減退として現れる。
本証は純粋な虚証である。

腎精は生命の根本である。
したがって本証が改善しないと生命(寿命)に影響し、
気血もひましに不足してくる。
または痴呆などの病になる。
本証が軽症の場合には、一般的に気血虚損による
諸証が現れたり、抵抗力が低下して外邪を感受しやすくなる。

 

気血不足

気が不足すると清陽の気が
脳を滋養することができないため、眩暈がおこる。
まず、眩暈は気虚によっておこる。
気は血を生む本であるため、気虚と血虚はつながりやすい。
気血が不足して栄養作用が減退すると眩暈がひどくなる。
さらに、血を蔵する肝の血が不足すると
肝の陰陽はバランスを失い、肝風が動きはじめ、
風陽の邪が上に昇って頭部を攪乱し眩暈がおこることもある。
「脾胃は後天の本、気血を生む源」といわれ、
気血不足のような主な原因は脾胃にあり、ついで
慢性疾患、出血性の病気が原因として考えられる。
脾胃虚弱は長年の生活習慣に依存するものであり、
患者がそれと気づいていることは少ない。

気虚が先にあり、生血機能が低下して
血虚が起こるケースと、血虚が先にあり、
血が気を養えなくなって気虚が起こるケースがある。
気虚症状と血虚症状には偏重があり、
気虚を主としているもの、
血虚を主としているものの両方がある。
本証は久病が治癒しなかったり、
長期の出血・虚弱体質・労倦傷神などを
要因として起こるケースが多い。

気血両方が虚せば、
温煦作用も濡養作用も機能しなくなるので
息切れ・懶言・力が入らない・自汗・
動悸・不眠・顔面蒼白か萎黄色・唇と舌が淡色になる・
脈細弱などの症状が現れる。

痰濁中祖


痰はベットリして、
見るからに不潔な物質であり、習慣的に痰濁と呼ぶ。
痰湿が経絡中の流れを阻害し、
気血が脳に届かない眩暈がおこる。
脳血管障害の患者で、発作後、
眩暈がおこり、咽がゴロゴロする、
舌苔が厚いなどの症状が加わったら、
痰を除去しなければ脳の症状は解決できない。
痰を生む源は、気血を生む源と同様に脾胃である。
油っこいもの、甘いものの過食、飲酒など
飲食の不節制によって、
脾の運化機能が失調して水湿が停滞し、
湿の停滞が長びいて固まると痰に化し、痰湿と化す。
湿の性質は比較的うすく、痰はそれよりも少し濃い。
痰を生む原因は肺にもある。
肺の宣発粛降機能が失調すると
津液の代謝は悪くなり、
体内に水湿が停滞し痰に変わる。
痰は脾と肺の機能失調によって発生する。



弁証論治

肝陽上亢

天麻釣藤飲(てんまこうとういん)…平肝鎮陽・清熱安神・補益肝腎

・天麻・釣藤・石決明…平肝熄風
・山梔子・黄芩…清肝熱
・益母草…活血
・牛膝・杜仲・桑寄生…養血・補腎・強骨
・夜交藤・茯神…養血安神

<主治>
肝陽上亢・肝風内動
頭痛・眩暈・耳鳴・振戦・ふらつき・
不眠・多夢・筋肉のひきつり・けいれん・
のぼせ・ほてり・目の充血
舌質が紅絳・脈が弦数など

<方意>
本方は陰虚があまり顕著でない
肝陽上亢の症状に対する代表処方である。
清肝・平肝・補肝腎・養血・安神と多くの作用があり、
眩暈に頭痛、腰痛、不眠をともなう時に適している。

天麻・釣藤・石決明は肝に帰経し肝風をしずめる。
特に主薬の天麻は眩暈、頭痛の専門薬である。

釣藤は涼性で、平肝作用より清肝作用の方が強い。
高血圧の患者は釣藤に直接熱湯を注いで
服用するほどで、釣藤は煎じ終る
15分前に入れるほうが効果が高い。

石決明はあわびの貝殻で明目作用があり、
目が暗く、物がはっきり見えない症状に効果がある。

山梔子・黄芩は赤ら顔、目の充血といった
肝熱の症状に用いる。黄連、黄柏にも清熱作用がある。
特に黄芩は肝に帰経するため多く用薬されている。

益母草は「母を益する草」の意で
婦人の活血薬に頻用され、肝に帰経する。
薬性はやや寒で肝火を制御できるので、
陰虚の高血圧によく用いる。

牛膝は下行の性質があり、
陽が上衝した症状を和らげる。

杜仲・桑寄生は養陰作用があるが、
本方は腎陰を補う作用は足りないので、
六味地黄丸類を併用するとよい。

夜交藤・茯神は養血安神薬で、
不眠、多夢の症状に効果がある。
茯神は松の根が入っている部分で、
安神作用が強く茯苓と同じく健脾作用もある。

本方は日本で入手できないため、
エキス剤を合方するようにしたい。
湯液を処方する場合、腰に痛みのないときは牛膝、杜仲を、
不眠がないときは夜交藤、茯神を除くようにする。

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釣藤散(こうとうさん…平肝解鬱

・釣藤・菊花…清肝・止眩
・石膏…清熱
・半夏・陳皮・茯芩…化痰理気
・生姜・甘草
・防風…去風・止痙攣
・人参…補気
・麦門冬…生津・清心

<方意>
本方も肝陽上亢に用いる処方である。
平肝・清熱・化痰・益気・養陰と多くの作用をそなえているが
各作用はあまり強くない。
益気養陰の作用があるので、
慢性高血圧安定期の眩暈に適している。

釣藤・菊花はともに涼性で清肝作用があり、
眩暈、高血圧に効果がある。
エキス剤の構成をみると残念だが薬量が少ないように思う。
菊花を使う場合、肝疾患には白菊、
カゼには黄菊、皮膚疾患には野菊を用いる。

石膏は、肺の高熱を除去できるが、
肝胆に帰経しないため、高血圧に用いられることは少ない。

半夏・陳皮・茯苓・甘草は二陳湯の成分で、
苔が厚く、痰が多い痰湿型の眩暈に適しているが、
肝陽上亢型には適していない。

防風は去風薬であり、眩暈が重く、顔がひきつる、
口がゆがむといった風の症状に対して効果がある。

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竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)…清瀉肝胆実火・清泄下焦湿熱

・竜胆草・黄芩・山梔子…清熱利湿
・車前子・木通・沢瀉…利水泄熱
・生地黄・当帰…養血柔肝
・柴胡…疏肝

<主治>
(1)肝胆実火
いらいら・怒りっぽい・はげしい持続性の頭痛・
めまい感・目の充血・眼痛・耳鳴・耳痛・突発性難聴・
口が苦い・胸脇痛・舌の尖辺が紅・舌苔が黄・脈が弦数で有力など。

(2)下焦湿熱
排尿痛・排尿困難・尿の混濁・残尿感、
陰部の瘙痒・腫張・発汗、悪臭のある黄色帯下、
インポテンツなど。舌苔は黄膩・脈は滑。

本方は肝胆の火旺あるいは湿熱に対する代表処方である。
強い肝熱による眩暈、頭痛、耳鳴、目の充血の症状に一時的に用いる。
本方の苦寒の薬性は胃を傷つけるため、
継続して使用することはできない。
使うとすれば、せいぜい2週間から1ヶ月間程度、
あるいは本方と他の処方を合方して使うようにする。

<方意>
本方は肝胆の実火を瀉し湿熱を清利する効能をもつ。
大苦大寒の竜胆草が主薬で、
上は肝胆実火を清瀉し下は湿熱を清泄する。
      
苦寒の黄芩・山梔子は瀉火・清熱するとともに
三焦を通利して、竜胆草を補助する。

清熱利湿の沢瀉・車前子・木通は
湿熱を小便として排除し、また上部の火熱を下泄する。

柴胡は諸薬を肝胆経に引導し、
肝気を疏通して化火を防止する。

なお肝経の火熱は陰血を消耗しやすく、
苦寒燥湿薬も傷陰しやすいので、
滋陰養血の生地黄・当帰を配合して
陰血に損傷が及ばないように防止している。

全体で「瀉中有補、利中有滋」の配合になっており、
上部の火熱を清瀉すると同時に、
下部の湿熱を清泄することができる。

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腎精不足

六味地黄丸(りくみじおうがん)…滋陰補腎・瀉火
・熟地黄…滋補腎陰
・山茱萸 …補肝渋精
・山薬…補腎益脾
・沢瀉…瀉腎利水
・牡丹皮…涼肝活血
・茯芩…利水滲湿

<主治>
腰や膝がだるく無力・頭のふらつき・
めまい感・耳鳴・聴力減退・盗汗・
遺精・消渇・身体の熱感・手のひら・足のうらのほてり・
歯の動揺・踵部痛・尿の淋瀝あるいは失禁・
舌質が紅絳・少苔・脈が細数など
あるいは小児の発育不良。

<方意>
本方は滋補肝腎の代表処方である。
高血圧患者で、ほてり、舌紅、苔少、陰虚火旺傾向の人に使用する。
本方は清熱作用がないので、
熱証がみられるときは「杞菊地黄丸」か「知柏地黄丸」に変方する。
おだやかで長期に服用できる処方であるが、
血圧が高い場合は、黄芩、釣藤、石決明、夏枯草、菊花
など平肝清肝薬を加える。
「釣藤散」を服用しても良い。
      
本方は、腎・肝・脾を併補しつつ、
補腎陰が主体になっている。
また、陰虚火旺に対して、滋陰を主とし
清熱を補助にした
「水の主を壮にし、もって陽光を制す」の配合でもある。

甘・微温の熟地黄は滋補腎陰・塡精補髄に働き、主薬である。

酸温の山茱萸は養肝益腎・渋精に、
甘平の山薬は滋腎補脾・渋精に働いて、
脾・肝・腎の陰を滋補するとともに陰精の漏出を抑止する。

三陰を併補することにより
滋補腎陰の効果をつよめることができる。
以上が「三補」である。

甘寒の沢瀉は利水滲湿・清熱に働き、
腎陰虚による水液代謝失調で生じた湿濁を除き
熟地黄の滋滞を防止し、内熱を下泄する。
甘淡平の茯芩は健脾利水により山薬を補佐し、脾湿を除く。

辛苦・微寒の牡丹皮は清熱凉血に働き、
内熱・肝火を清泄し、山茱萸の温性を制する。
この三薬が「三瀉」あるいは「三開」である。
三補三瀉の併用により、滋補して滋滞せず、
降泄して傷正せず、滋補腎陰の効果をつよめることができる。

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海馬補腎丸(かいばほじんがん)
 
・海馬・鹿茸・蛤蚧・海狗腎・鮮対蝦
驢腎・鹿腎・鹿筋・山茱萸・補骨脂…温補腎精

・熟地黄・枸杞子・当帰…補血
・人参・黄耆・茯苓…補気健脾
・丁子…温裏散寒
・桃仁…活血
・竜骨…固精

腎の陰陽を補う処方として、
「六味丸」「八味丸」がよく知られているが、両処方はいずれも
植物性の生薬によって構成されている。
腎の精を補うには動物性の生薬を用いたい。
動物は体に血を蓄えているため、
腎精を補う効果が植物性のものと比べて大きいからである。
海馬補腎丸の中には、
動物性薬物が多く配合され益腎養精の作用が非常に強い。
腎精不足による眩暈には、
この海馬補腎丸が最も適した処方といえるだろう。

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気血不足
  
十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)
・四君子湯(人参・白朮・茯苓・甘草)+黄耆…補気
・四物湯(熟地黄・当帰・白芍・川芎)…養血活血
・肉柱…温陽散寒

本方は温補気血の補剤で、気血の虚した症状を治療する。
補気作用が強く、全体の薬味はやや温性で、
陰虚より陽虚の症状に適している。
補気の首方である「四君子湯」に黄耆を加え補気作用をさらに強め、
これを補血の首方である
「四物湯」と温陽の肉柱を加えた処方である。

益気固表の黄耆を加えて補気生血をつよめ、
温補脾腎の肉桂で陽気を振奮しており
八珍湯よりも益気の効能が高められている。
一般に本方が気血双補の基本方剤になっている。

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補中益気湯(ほちゅうえききとう)…補中益気・昇陽挙陥・甘温除大熱
・黄耆・人参・炙甘草・白朮 …補中益気
・陳皮…理気和胃
・当帰…養血活血
・升麻・柴胡…昇陽

<主治>
(1)気虚下陥
元気がない・疲れやすい・動くと息ぎれがする・
四肢がだるく無力・物をいうのがおっくう・立ちくらみ・
頭痛・めまい・下腹部の下墜感・脱肛・
子宮下垂・慢性の下痢・尿失禁・排尿困難・
不正性器出血・皮下出血・舌質は淡・脈は沈細で無力

(2)気虚発熱
発熱・身体の熱感・自汗・悪風・
頭痛・口渇があり熱い飲物を欲する・
物を言うのがおっくう・息ぎれ・元気がない・
脈は浮大で無力・舌質は淡など。

<方意>
補気するとともに陽気を昇発挙上する。
主薬は益気・昇発陽気の黄耆であり、
補肺気・実衛にも働き、大量に用いている。

人参・炙甘草・白朮は
健脾益気に働いて黄耆を補助しており、
利気醒脾の陳皮を加えることにより膩滞の弊害がない。

柴胡は肝気の疏達・昇発をつよめ、
升麻は脾陽を昇挙し、いずれも黄耆の昇発を補助する。

当帰は補血によって益気をつよめ、
さらに柔肝により肝気の昇発を高め、間接的に他薬の効能を補佐する。
なお、本方は甘温益気の黄耆・人参・炙甘草・白朮を
主体にして昇陽益気し、陽気内鬱による発熱を
除去するところから、「甘温除大熱」と称される。

「十全大補湯」は主に陽虚に用いるが、
本方は主に中焦脾の気虚に用いる処方である。
補血作用のある薬物は当帰だけで作用は弱い。
食欲不振、疲れやすいなどの脾胃気虚の症状をともなう眩暈に使用する。

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健脾湯(けんぴとう)…健脾和胃・消食止瀉
・四君子湯(人参・白朮・茯苓・炙甘草)+黄耆 …補気
・当帰・竜眼肉・酸棗仁・遠志…補血安神
・木香…理気

<主治>
脾胃虚弱・飲食内停
少食・消化が悪い・腹が痞えて苦しい・
泥状~水様便・舌苔が微黄膩・脈が無力など。

<方意>
健脾和胃を主体に消食化滞・清熱を配合する。
補気健脾の四君子湯(人参・白朮・茯苓・炙甘草)で脾を健脾し、
白朮・茯苓を増量して滲湿止瀉する。
当帰・竜眼肉・酸棗仁・遠志は補血安神し、木香は理気和胃に働く。

本方は脾気を益し心血を養う。
益気補血の代表例である。
しかし安神薬が多く配合されており、
不眠、精神症状などをともなう眩暈に適している。

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婦宝当帰膠(ふほうとうきこう)
・四物湯(熟地黄・当帰・白芍・川芎)+阿膠…補気
・四君子湯(人参・白朮・茯苓・甘草)+黄耆…補気

本方は日本で市販されている中成薬である。
気血を補う作用があり、
大量の当帰と阿膠の配合によって強い補血作用がある。
顔色白い、冷え、月経不順など血虚症状の顕著な眩暈に用いる。

  
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七物降火湯(しちもつこうかとう)…滋陰養血・熄風
    
・四物湯(熟地黄・当帰・白芍・川芎)…養肝血
・黄耆…益気昇精
・黄柏…降虚火
・釣藤…清肝止眩

<主治>
血虚生風による頭のふらつき・
めまい感・筋肉のひきつり・舌質は淡・脈は細などの症候

本方は補虚清上の方剤で、
虚性の高血圧にともなう眩暈に適している。
「四物湯」と黄耆によって体内の気血不足を補い、
黄柏で虚火の上昇をおさえ、
釣藤で肝熱の上昇を抑制する。

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痰濁中阻
   
半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)…化痰熄風・健脾祛湿
・二陳湯(半夏・陳皮・茯苓・甘草…燥湿化痰
・人参・白朮・黄耆…益気健脾
・沢瀉…利水
・生姜・乾姜…温中散寒・化痰
・天麻…熄風
・麦芽…消食

<主治>
風痰上擾
めまい・頭痛・悪心・嘔吐・胸苦しい・舌苔は白膩・脈は弦滑など。

<方意>
化痰熄風を主にし健脾祛湿を配合する。
燥湿化痰・降逆止嘔の半夏と熄風止暈の天麻が主薬で、
風痰の眩暈頭痛の要薬であり、
 ≪脾胃論≫に「足太陰の痰厥頭痛は、
半夏にあらざれば療することあたわず、眼黒頭旋、
風虚内作は、天麻にあらざれば除くことあたわず」
とあるとおりである。
健脾祛湿の白朮・茯苓は脾運をつよめて生痰の源を断ち、
理気化痰の陳皮および調和脾胃の甘草・生姜は補助的に働く。

本方は化痰・熄風・健脾燥湿の効能があり、
脾胃が弱く痰湿が停滞している人の眩暈に適している。
「半夏白朮天麻湯」にはいくつもの種類がある。
中国で使われているものは「二陳湯」に白朮と天麻を加えたもので、
この組成は簡単で覚えやすい。
日本で使われているものは李東垣の処方である。

半夏・陳皮・茯苓・甘草は「二陳湯」の組成で、
化痰の基本方剤で、脾の治療に重点が置かれている。
人参・白朮・黄耆は益脾作用がある。
中国で使用する「半夏白朮天麻湯」は、
人参、黄耆の粘りは湿痰に対して不利としてのぞかれている。
ただし李東垣の処方における人参も、
半夏5に対してわずか1.5と、ごく少量である。
沢瀉は眩暈の原因となる湿の主治方であるが
本処方にもこの意が含まれている。

生姜、乾姜は痰、悪心、吐き気に効果がある。

天麻は風薬で眩暈の専門薬である。
本処方のなかで眩暈を改善できる薬物はこの天麻だけである。
麦芽は消化薬で、食欲を増進させるためには
炒って使うと香りがでていっそう飲みやすくなる。

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竹茹温胆湯(ちくじょうんたんとう)…理気化痰・清胆和胃
・半夏・陳皮・茯苓・甘草…燥湿化痰
枳実(理気通便)・竹茹(清熱) …化痰

温痰湯
・柴胡・香附子…疎肝理気
・黄連…清熱
・人参…益気
・麦門冬…養陰
・桔梗…薬行上行・去痰
・生姜…化痰止嘔

<主治>
傷寒日数過多・その熱退かず・
夢寝寧んぜず・心驚恍惚・煩燥多痰

本方は清熱化痰の「温胆湯」を基本としたもので、
強い熱に対する処方である。
本方の特徴は、清熱化痰の竹茹とともに
柴胡、黄連など清熱薬が多く配合されていることである。
痰が熱を帯び、口渇、苔黄、不眠をともなう眩暈に用いる。
枳実も通便作用によって痰熱を下行させ、眩暈を改善する。
人参・麦門冬は気と陰を補う。

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五苓散(ごれいさん)…利水滲湿・健脾温陽
・猪苓・沢瀉・茯苓…利水
・白朮…健脾燥湿
・桂枝…温陽通脈

<主治>
(1)蓄水証(外有表証・内停水湿)
頭痛・発熱・口渇がつよく水分を欲する
あるいは水を飲むとすぐに吐く・
尿量減少・舌苔が白・脈が浮など。

(2)霍乱
突然の嘔吐・下痢・尿量減少など

(3)水湿内停
浮腫あるいは下痢で、尿量減少をともなう。

(4)痰飲(臍下水気)
臍下の動悸・水様物の嘔吐・めまいなど

<方意>
利水滲湿と通陽化気によって
小便を通利し、水湿を除去する主方である。
主薬の沢瀉は膀胱に直達して
利水滲湿に働き、淡滲の茯苓・猪苓は利水下泄をつよめ、
白朮は健脾により水湿の運化を促進し、
共同して三焦を通利させる。
辛温の桂枝は太陽表邪を外解するとともに、
通陽により膀胱・三焦の気化を促し、
水湿を蒸化して上承と下泄を回復させる。
なお、利水滲湿を通じて、
水湿下注による泥状~水様便が消失するとともに
小便が通利するところから、水湿の「分利」と称される。
蓄水証に対しては解表・利水滲湿・通陽化気により。
霍乱には水湿の分利により。
水湿内停には健脾化湿と分利により。
痰飲には化気利水により、それぞれ効果を表す。

本方は水飲(痰湿より粘着度の薄い)に対する処方である。
強い利水作用があり、浮腫、水滑苔の症状がみられる眩暈に用いる。
もし水飲が痰に変化し、舌苔が膩となった場合は
「二陳湯」の方が適当で、本方は対処できない。
また、処方中に温性の桂枝があるので、熱証も使ってはならない。

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苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)…温化痰飲・健脾利湿
・白朮・茯苓…健脾利湿
・桂枝…温陽通脈
・炙甘草…調和

<主治>
水飲・脾陽不足
胸脇部が張る・咳嗽・呼吸促迫・
めまい・動悸・舌苔が白滑・脈が弦滑など

<方意>
水飲を温化して除くと同時に、
健脾利湿により本治して水飲の産生を防止する。
主薬は健脾利水の茯苓で、
温陽化気の桂枝の補助のもとに、
水飲を温化して利水便によって除去する。
健脾燥湿の白朮は、
脾運を促進して茯苓とともに水湿の産生を防止する。
炙甘草は、益気和中と諸薬の調和に働く。
全体で温化水飲・健脾化湿の効能が得られ、
温であって熱でなく、利して峻でなく、
水飲停聚の偏寒のものに対して温化水飲の良効を示す。

本方も利水の基本処方であるが、
方中には甘草、茯苓など心に帰経する
薬物があるので動悸をともなう眩暈に適している。
「五苓散」、「苓桂朮甘湯」はともに
湿を生む根源である脾の治療を基本にした処方である。


◎処方例 治療穴

肝陽上亢

・治法
滋水涵木、平肝潜陽

・処方例
風池、俠谿、太衝、肝兪、腎兪、太谿

・方解
腎陰不足による肝陽上亢である。
したがって風池、俠谿により上亢している肝陽を清瀉し、
太衝により平肝潜陽をはかり、その「標」を治す。
また肝兪、腎兪、太谿により
肝腎の陰を補い、その「本」を治す。

腎精不足

・治法
補腎塡精(ほじんてんせい)

・処方例
百会、腎兪、太谿、関元、絶骨

・方解
腎精不足のために脳海が空虚となり起こるものである。
したがって腎の背兪穴である
腎兪に足少陰腎経の原穴である
太谿を配穴して腎精の補益をはかる。
これは兪原配穴法である。
さらに任脈と足三陰経との交会穴である
関元を配穴して腎精を補い、
髄会である絶骨を配穴して精髄を補う。
百会により精髄を頭部に昇提し、髄海を充足させる。

気血不足

・治法
培補脾胃、補血益気

・処方例
百会、足三里、気海、三陰交、脾兪

・方解
治療のポイントは脾胃にある。
脾兪、足三里により生化の源を滋養し、
水穀の運化、気血の生成を促す。
三陰交には肝・脾・腎三臓を調補する作用がある。
百会は「諸陽の会」といわれており、
陽気を昇挙させる作用がある。
陽気がうまく昇挙すると血も上昇する。

痰濁中阻

・治法
健脾化痰

・処方例
中脘、内関、豊隆、陰陵泉、頭維

・方解
脾は生痰の源といわれている。
中脘、内関により健脾和胃、降逆去痰をはかる。
陰陵泉は足太陰脾経の合穴であり、健脾化湿の作用がある。
豊隆は治痰の要穴とされている。
頭維により陽明の痰熱を清熱する。



経絡経穴 解説

肝陽上亢


風池(ふうち)
作用機序
風池には散風の作用がある。
風は百病の長であり、寒、熱、湿、痰を伴うことがある。
また風は外風と内風に分けられる。
外風によって起こる感冒、悪寒、発熱、
頭項頭痛、顔面神経麻痺、咽喉腫痛、皮膚病、
内風によって起こる頭痛、めまい、中風などは
全て本穴の適応症である。
本穴は外風を散じ、また内風を消す作用がある。
経穴の由来がその主治を特徴としている。

俠谿(きょうけい)
作用機序
瘧疾(ぎゃくしつ)、傷寒発熱無汗はそれぞれ少陽病証である。
本穴は少陽経に属し和解少陽、清熱散風の作用がある。
したがって本穴と本経上の一部の経穴は
このような病証を改善することができる。

肝は疎泄を主り、肝胆は表裏関係にある。
肝経、胆経の経穴すべてに大なり小なり疎肝解鬱の作用がある。
閉経は多くの場合、肝胆の気鬱と関係している。
したがって本経上の多くの経穴は
肝胆気鬱による閉経、痛経などの
婦人科の病症を改善することができる。

太衝(たいしょう)
作用機序
太衝は肝経の原穴であり、
肝経は「唇内を環り、目系に連なり、
上は巓頂(てんちょう)に達する」
肝は内を主っている。
肝風内動となると、頭脹、頭痛、
中風による口の歪みなどの頭面部五官の病症がみられるようになる。
本穴は清熱熄風、平肝潜陽の作用があり、
肝陽上亢による諸症を改善する主穴とされている。

肝は蔵血を主り、疎泄を主っている。
肝が血を蔵さず、疎泄が失権し衝任が失調すると
諸々の婦人科病症がみられるようになる。

肝脈は「陰器を繞(めぐ)る」。
肝脈が失調し、肝経の湿熱が下注すると
泌尿器系の諸病をもたらす。
この場合は清熱利湿をはかって施術するとよい。

肝は疎泄を主っている。
本穴は舒肝解鬱の要穴であり、
肝鬱による各神志病を改善することができる。
本穴と合谷を配穴したものは「四関」といわれている。
肝経は「胃を挟み」、肝と脾胃の関係は密接であるので、
肝鬱不舒によって脾胃不調となったものは
すべて本穴を使うことができる。

肝経は脇肋に分布している。
経脈が走行する部位を主治するという原則にもとづき、
本穴は脇肋痛の施術に最初に使われる経穴の1つである。

肝兪(かんゆ)
作用機序
本穴は肝の気が輸注する処であるため、
肝や肝経と関連する部位の疾患を改善することができる。
肝経は両脇に分布して巓(てん)に上昇しており、
また肝は目に開竅(かいきょう)するので、
本穴は脇痛、目疾患、頭顔面部や五官の病症を改善することができる。

また陰虚陽亢による中風などを改善および予防することができる。
肝胆はその疎泄機能により脾胃の運化機能を促進しているので、
本穴は肝鬱気滞による脾胃病を改善することができる。

腎兪(じんゆ)
作用機序
本穴は腎の気が輸注する処である。
腎は生育、水を主るため、
生殖泌尿系の病を改善する主穴の1つとされている。

腎は納気を主り肺の呼吸を補助しているので、
本穴は腎不納気による呼吸器系統の病症を主治する。

腰は腎の府であり、腎虚は腰痛を起こしやすい。
本穴はこのような腰痛改善に最優先される経穴である。

太谿(たいけい)
作用機序
腎は先天の本であり、蔵精や生育を主っている。
本穴は腎経の原穴であるため、
補法を施すと真精益腎の作用により、
腎虚による男女の生育病症を
改善することができる。

肝腎陰虚であると肝陽が上亢して
頭痛、眩暈、耳鳴り、難聴がおこる。
本穴により滋陰潜陽をはかるとこれらの諸症を改善することができる。

腎陰が不足すると虚火が上炎して
咽喉腫痛、歯痛、衄血(じくけつ)がおこるが、
本穴や崑崙に対する刺針または手指による拒按は、
滋陰清熱の作用があるので
これらの諸症に著効を示す。

肺は呼気を主り、腎は吸気を主っている。
本穴は腎虚の気喘、咳嗽を改善することができる。

腎は精を蔵し水に属しており、
心は神明を主り火に属している。
もし腎水が不足すると、心火を抑制できなくなり、
心火は神明を障害して神志の失調がおこる。
本穴は補腎に優れているため、
心腎不交による神志病を改善することができる。

腎は封蔵を主っている。
本穴を用いて補腎を行うと、封蔵機能の失調による排尿過多
{消渇(しょうかち)など}
および排便困難や下痢などを改善することができる。

激しい霍乱や下痢では、気随液脱によって元気が障害される。
本穴は元気を補う重要穴であるため、回陽救逆に用いられる。

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腎精不足


百会(ひゃくえ)
作用機序
百会は身体の最も高い部位にあり、
陽気が集まるところである。
本穴への鍼灸施術は陽気を調え、
各種臓器の下垂症を改善することができる。
久泄久痢、遺尿、陽痿、ショック、屍厥は、
すべて陽気が脳に達することができないことと関係ある。
本穴への鍼灸施術は升陽固脱、蘇厥開竅をはかることができる。

本穴は手足三陽、足の厥陰肝経の交会穴である。
これらの経脈と頭顔面部・五官は非常に広いつながりがある。
そのため、耳、目、鼻の諸疾患を
改善する場合はよく本穴を先に取る。

高血圧、中風などの循環器系の病症に対しては本穴への刺鍼により、
上亢している陽気を調え、血圧を下げ脳の血流を改善させることができる。
またショックに対しては昇圧効果が認められている。

関元(かんげん)
作用機序
本穴は元気と密接な関係があり、
元気を補益する作用をもつ重要な経穴である。
元気は人体の生命活動の基礎であり、元気が虚すと様々な病気が生まれる。
泌尿器系統では頻尿、遺尿などの病症が見られる。
生殖器系統では、遺精、陽痿、早泄、
月経不順、赤白帯下などの病症が見られる。
霍乱、嘔吐、急性下痢は、最も人体の元気を損傷しやすい。
この場合は、多壮灸を用いて回陽救逆をはかるとよい。
            
肺は呼気を主り、腎は納気を主るため、
腎不納気になると咳嗽や喘息が起こる。
腎陰虚は肺陰虚を引き起こし、
肺絡が虚火によって損傷すると、咳血が見られるようになる。
腎虚となり水火が相斉しなくなると、
動悸、息切れ、記憶力障害が見られるようになる。
元気不足になると腰や足のだるさや全身の無力感が現れる。
上述した諸症状はほとんどが元気不足から起こるものであり、
これらに対しては関元を主穴として施術するとよい。
中風中暑の脱症は、重篤な証候であるので、臨床時はまず本穴を取り、
多壮灸を用いて回陽救逆をはかるとよい。

懸鐘(けんしょう)〔別名・絶骨(ぜっこつ)〕
作用機序
足の少陽経別は上って咽を挟む。
「胆熱脳に移れば、則ち辛頞鼻淵…脳漏」とある。
本穴は清熱散風の作用があり、また髄会でもある。
したがって鼻淵、鼻衄、咽喉腫痛、傷寒発熱などの改善によく用いる。

足の少陽経筋は「尻に結し、
その直なるものは眇季肋に乗じ、上って腋前廉に走り、
膺乳に系り欠盆に結する」。
経脈の走行部位を主治するという原則にも仙部の痛みを主に改善する。
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気血不足


足三里(あしさんり)
作用機序
足三里は下肢疾患改善の重要な経穴であり、痿証を改善する。
『内経』では「腰以上の者は手の太陰陽明がこれを主り、
腰以下の者は足の太陰陽明がこれを主る」
「陽明なる者は五臓六腑の海にして、宗筋を潤すを主る。
宗筋は骨を束ねて機関を利するを主るなり」
「衝脈なる者は、経脈の海なり。
渓谷を滲潅するを主り、陽明と宗筋に合す。
陰陽は宗筋の会に総して、気街に会す。
しかして陽明はこれが長たり。皆帯脈に属して、督脈に絡す。
故に陽明虚すれば、則ち宗筋縦み、帯脈引かず。
故に足痿えて用いられざるなり。」と述べている。
また「痿を治すは、独り陽明を取る。」と述べている。
このことから足三里は
癱痿や痺証施術の主要穴の1つとされている。

足三里は胃の下合穴であり、
「合は内腑を治す。」とされている。
臨床上、本穴は脾胃病施術の主要穴の1つとされている。
例えば胃痛、下痢、痢疾、嘔吐、腹痛などである。
脾胃は後天の本である。
呼吸器系、循環器系、婦人科系の病症、虚労して痩せ衰えたもの、
諸々の不足などの疾患で、
およそ後天の本の不足に属するものは、
すべて本穴を主穴の1つとしている。

脾は運化を主っている。
脾胃気虚で運化が失調すると内停する。
また後天の本が不足すると、心神を栄養できなくなる。
これらの失調は種々の神志病症を引き起こすことがある。
したがっておよそこれらの病理で出現している神志の病症には、
本穴を選択するとその本を改善することができる。

本穴は強壮の要穴である。
古くから「もし安らかでありたければ、三里を常に乾かさず。」の説がある。
これは常に本穴に灸をすれば保健作用があることを指している。
しかしただ足三里を補穴としてみるのは不完全である。
本穴はさらに清熱解毒、活血化瘀の作用も備えており、
例えば急性吐瀉、霍乱、痢疾、乳癰、癤腫の施術では、
始めに選択される経穴の1つである。

気海(きかい)
作用機序
気海、関元、石門の3穴には、すべて元気を補う作用がある。
元気不足あるいは元気虚脱であるものはこの3穴を取るとよい。

本穴と関元、石門穴との違いは、
本穴には元気を補う作用のほかに行気(気を行らす)作用があることである。

三陰交(さんいんこう)
作用機序
本穴は脾経に属し、肝、脾、腎の3経はまた関元のところで任脈と交会する。
本穴の主治症は、肝、脾、腎の3臓と任脈の機能失調との関係が密接である。

脾虚不運、肝失疎泄は、脾胃病発作の主要な病理である。
本穴は健脾、また疎肝をはかることができる。そのため多くの消化器系の病症を改善する常用穴とされている。

脾は水湿の運化を主り、肝は疎泄を、また腎は水を主っている。
各種の水液代謝疾患とこの3臓の機能失調とは関係している。
そのため本穴は遺尿、淋証などの
泌尿器系の病症を改善する常用穴とされている。

脾は後天の本であり、統血を主る。
腎は先天の本であり、生殖を主る。
肝は蔵血し、疎泄を主る。
この3臓の機能失調は、男女の生殖器系の病症を主治することができる。

脾経は「咽を挟み、舌本に連なり、舌下に散じる」。
腎経は「舌本を挟む」。
肝経は「喉嚨の後を循る」。
そのため本穴は咽喉腫痛、中風不語を改善することができる。
慢性咽頭炎の改善効果は特にすぐれている。

脾虚化源不足、肝腎陰虚、水火不済、
あるいは脾湿生痰、虚火擾心、
肝鬱化火はすべて神志の失調をひきおこす。
虚に属するもの、実に属するもの、
どちらの神志病症にも、本穴を使うことができる。
不眠、多夢、精神疲労などには特に常用される。

脾兪(ひゆ)
作用機序
本穴は脾の気が輸注する処である。
脾臓は運化を主り肌肉、四肢を主る。
本穴は健脾の作用があるため、諸々の脾胃疾患
および運化失調で水湿が内停しておこる多痰、
水腫などを改善することができる。
本穴は健脾の作用がある。
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痰濁中阻



中脘(ちゅうかん)
作用機序
本穴は胃の募穴であり、脾胃の病症を改善する常用穴である。
つまり、胃脘痛、嘔吐、食欲不振、下痢などの
胃の病症や脾胃の運化失調からくる
さまざまな病症を改善することができる。

脾胃は土に属すことから、
脾胃の運化失調によって、土が金を生じなくなると
肺の病症である喘息、多痰、虚労、吐血などをまねく。
脾胃生化の源の不足により心が栄養されなくなったり、
あるいは脾虚のために痰が生じ、
痰が神明に影響すると動悸、不眠、臓躁、癲狂、癇証などの病症が現れる。
湿邪が中焦に阻滞すると蕁麻疹、黄疸が現れる。
胃の病変と脾胃の失調は、
上述したような各種の病症を引き起こすが、
これらの施術には本治の考え方により本穴を取ることができる。

内関(ないかん)
作用機序
本経脈は三焦に歴絡し、
上焦には心肺、中焦には脾胃、下焦には肝臓がある。
また本経の絡脈は心を絡っており、
したがって本穴は上焦の心肺疾患の改善適している。
例えば心痛、心悸、胸悶、気短などである。
中焦の脾胃機能の失調に対しては、
胃痙攣、脹満、嘔吐などに本穴が選穴されることも少なくない。
これ以外にも下焦の月経不順、産後血暈、遺精などは、
どれも本穴の適応症となる。

心は血脈を主るので、
本穴に刺針して血熱を瀉すと、退熱の目的が達成できる。
したがって中暑、熱病で汗がでないもの、
瘧疾などの熱性病症は、本穴の適応症となる。

本穴を中風施術に用いると、
心気を開いて醒神したり、また経絡を疏痛させることができる。

豊隆(ほうりゅう)
作用機序
脾は運化を主る。
本穴は絡穴であり、胃に属し、脾を絡っている。
脾虚により水湿不化となると、集まって痰を形成する。
それが肺に積まると咳嗽が起こり痰が出るようになる。
痰湿が心陽を阻害すると心痛、胸脇痛、
あるいは癲狂、癇証、不眠、健忘などの種々の神志の病症が起こる。
痰湿が経絡の中に入りこむと、
上部では頭痛、眩暈、下部では痿痺不仁を引き起こす。
総じて痰湿による上記の諸疾患には、
本穴を用いて本治をはかることができる。
足の陽明絡脈は、上って頭頂部を絡い、
諸経の気を合わせ、下って喉を絡う。
足の陽明経別は上って心に通じている。
このようなことから、
本穴は頭顔面部、五官、循環器系の
病症の改善に用いることができるのである。
本穴はまた通便の要穴である。

陰陵泉(いんりょうせん)
作用機序
本穴は健脾益気、利水滲湿にすぐれ、
各種消化器系の病症改善に用いられる。
たとえば小便不利、浮腫などの脾虚による病症などが含まれる。
本穴と三陰交は生殖、泌尿、神志の病症の改善にすぐれているのに対し、
本穴は腹脹、下痢、黄疸、浮腫などの改善にすぐれている。

頭維(ずい)
作用機序
本穴は内眼角で足の太陽経と接続している。
また前髪際の上5分にある神庭とも交会している。
経脈の走行する部位の病症を主治するという原則から、
本穴は偏正頭痛、眩暈、眼科疾患などを
改善する常用穴とされている。


                
◎西洋医学的見解

耳鳴、難聴を伴う回転性の眩暈発作が反復する病態で、
1981年にメニエール氏によって報告された。

・疫学
人口10万人に当たり15人の有病率である。

・成因
内耳の内リンパ水腫が原因とされる。
内リンパ水腫は、内耳の循環障害による説が有力で、
感染後、外傷後、自己免疫疾患などでもみられる。
また種々の外因、内因によっても発症し、
ストレス病の一種とも考えられている。
 
・症状
一側性の難聴、耳鳴、眩暈発作がおもな症状で、
これらが関連して反復して現れる。
吐き気、嘔吐、冷や汗を伴うこともある。

・治療
急性期には安静臥床とし、
嘔吐や眩暈に対して対症療法を行う。
発作予防には精神安定剤や循環改善薬を投与する。
発作が頻回の場合や薬物療法に抵抗性の場合には、
手術療法を行う。

・経過 予後
メニエール病の1回の発作は比較的短く、
1週間以内である。発作は反復し、次第に難聴が進行する。

めまい発作を繰り返し、
難聴・耳鳴などの蝸牛症状を反復・消長する例で、
同様の症状を来す中枢神経疾患ならびに
原因概知のめまい・難聴を主訴とする疾患が除外できる時、
この疾患をメニエール病確実例とする。

めまいは主に回転性であり、
一般に特別な誘因もなく発来し、
吐き気、嘔吐を伴い数分ないし数時間持続する。
めまいは2日以上に渡ることはない。
本疾患の病態は、内リンパ水腫である。
内リンパの過剰生産、
または吸収障害によって内リンパ水腫が出現すること
は考えられるが、いかなる理由で、
これら過剰生産、吸収障害が出現するかについては明らかではない。
耳鳴り、難聴にめまいが併発することは古くから知られていたが、
1861年、メニエールがめまい、難聴、耳鳴りを
主症状とする症例の剖検例で、内耳に出血性滲出液のあることを示し、
内耳からもめまいが発症することを初めて示唆した。
それまでは、これらの症状は中枢神経系の障害が主と考えられていた。
メニエール病は多くの場合、
30ないし50歳代に多く発症し、男女差はとくにない。
めまい発作は反復するが、その発作の間隔については一定ではない。
めまい発作時には障害側向きの水平回旋混合性眼振が認められ、
数十分を経て眼振の方向が逆転する。
また、聴力検査では、
典型的な内耳性難聴を示し、補充現象が陽性となる。

診断は臨床像からつけられるが、
内リンパ水腫の存在を確定するグリセロール試験なども利用される。
治療には水腫を軽減する目的で、
浸透圧利尿薬やステロイド剤なども用いられる。



参考文献:
『医学辞典』医学書院
『医学辞典』南山堂

『いかに弁証論治するか』
『中医弁証学』
『中医病因病機学』
『針灸学 〔経穴篇〕』
『針灸学 〔臨床篇〕』東洋学術出版社

『中医臨床のための方剤学』
『中医臨床のための中薬学』神戸中医学研究所

 

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