疾患別解説
花粉症の東洋医学解説
西洋医学では花粉症という概念が近代になって解明されましたが
東洋医学ではもっと昔から花粉症の概念はあったと考えられています。
古典の文献では花粉を風邪(ふうじゃ)の一部として考えており、
春に花粉症が多い事などや人体の状態によって病が引き起こされる
という事が述べられています。
東風生於春。病在肝。
〜故春気者、病在頭。
〜故春善病鼽衂 (素問金匱真言論篇)
東風は春に生ず。病は肝にあり。
故に春季なる者は、病 頭にあり。
故に春は善く鼽衂を病む
東風は春の季節によく診られ病変は肝に発生する。
春の気は肝に応じ、多くの病は頭にある。
春には善く鼽衂(きゅうじく・鼻水や鼻血が出て鼻が通せず塞がること)
を病む事が多い。
風客淫気、精乃亡、邪傷肝也。(素問生気通天論篇)
風 気に客淫すれば、精乃ち亡び、邪 肝を傷るなり。
風邪が人体に侵入すると、次第に熱と化し、精血(せいけつ)
も損なわれます。これは、邪気が肝臓を傷ったためです。
『黄帝内経素問』より
弁証論治(花粉症のタイプと治療)
花粉症がおこる原因について書かせて頂きましたが
中医学では花粉自体が原因ではなく、その人がもつ
正気(せいき・抵抗力や免疫)の弱りがあり、
花粉が引き金となって発病すると考えます。
中医学ではそういった体質や抵抗力の違いが根本にあり、
花粉症という症状に対して体質も含めて
臓腑の失調なのかそれとも
気・血・津液の不足なのか
総合的にとらえて診断し対策を考えていきます。
1.肝気鬱結(かんきうっけつ)
【病因】
肝の主な働きは疏泄(そせつ)機能と呼ばれるものがあり、
身体の構成成分である「気、血、水」を
スムーズに流す基礎となるのが疏泄機能です。
疏泄機能には、感情をコントロールする働きも含まれ、
精神的抑鬱や怒りの感情は肝を傷めます。
肝気欝結とは疏泄機能が失調し全身の気のめぐりが鬱滞した状態で
各臓腑にも影響しやがて身体の機能低下を起こします。
【症状】
自然界では陽気があふれてくる春の時期が肝に相当し、
春は肝気(かんき・肝の生理機能)がたかぶりやすく
気の上逆などがおこりやすく
春に花粉症が多くなる原因の一つと考えられます。
精神的抑鬱やイライラして怒りっぽくなったり、
寝つきがわるく、よくため息をつくなどが現れます。
目や鼻に症状が出やすく、涙目、目の乾き、
かゆみ、充血などが見られます。
【治療】
疎肝理気(そかんりき・肝気の鬱滞を取り除くこと)
2.心腎不交(しんじんふこう)
【病因】
心と腎は互いに深く関連しており、その働きは、
健康な状態では心火(しんか・心の陽気)が下降して腎にいたり、
腎水(じんすい・体内の水液)が冷えすぎないように温め
腎の陽気である気化作用(きかさよう・腎の陽気で水液を温め全身に循環させる)
によって腎水は上昇し心を滋養し
心火が亢進しすぎないように冷やしています。
精神的なストレスによって心火が亢進したり、
労力過度(肉体的疲労)や房事過度(過度の性交渉)
などで腎の陽気が不足することで
心腎不交(心と腎が互いを補うことができなくなり
働かなくなること)になります。
【症状】
腎は水液の代謝などにも関わるので、
心腎不交により水湿の代謝が上手くされず停滞し
水のようなサラサラの
鼻水がみられたりします。
その他不眠、動悸、頭のふらつき、
腰や膝がだるく無力などの症状もみられます。
【治療】
滋陰降火(じいんこうか・腎を滋養し心の働きを助ける)
交通心腎(こうつうしんじん・心と腎の関係を相互に交流させる)
3.脾胃湿熱(ひいしつねつ)
【病因】
脾の重要な生理機能の一つで運化作用(消化吸収)があります。
中医学では「脾」の働きによって気、血、津液
(しんえき・体内の血以外の正常な体液)の
生成や水分の循環、代謝が行われます。
暴飲暴食、甘いものなどの偏食や湿熱の邪が
脾胃にこもることによって運化作用が
失調し水湿が停滞し脾胃に熱を生じた状態
【症状】
水湿が停滞(余分な水分などが身体に停滞)し
各臓腑の機能が上手く働かなくなり
外邪に侵されやすい状態になります。
腹満、腹痛、食欲不振、下痢、嘔吐、
身体の掻痒(そうよう)、肢体がだるいなど。
花粉症では涙や鼻水が多く、しつこい鼻ずまり
などが引き起こされます。
【治療】
清利脾胃(せいりひい・脾胃働きを助けの湿熱の邪を取り除く)
4.風熱犯肺(ふうねつはんはい)
【病因】
肺は呼吸を主どり、生理機能の一つに
宣発作用(せんぱつさよう・衛気、津液を身体に行きわたらせる役割)
があり、外邪からの防御作用なども関わっています。
風熱の邪が肺に侵襲して宣発作用を阻滞(そたい)した状態を
風熱犯肺という。
【症状】
鼻は肺の生理状態が現われるところであり
肺と深く関連し宣発作用が低下すると、
痰を伴う咳などの症状ががみられます。
鼻汁、黄色の痰、咳嗽(がいそう・咳)、
鼻閉、軽度の悪風、咽痛などの症状があらわれます。
【治療】
阻散風熱(そさんふうねつ・風熱の邪を取り除く)
5.水液内停(すいえきないてい)
【病因】
外感六淫(ろくいん・自然界の六種の異常な気候変化であり、
風・寒・暑・湿・燥・火の六種の総称)、
七情内傷(しちじょうないしょう・精神的な情緒の過度の変化)、
飲食の不摂生、労倦(ろうけん・肉体的疲労や精神的疲労)、
血瘀(けつお・汚れた血液が溜まった状態)
などが各臓腑に影響することで働きを失調させ
体内の局所あるいは全身に水液が停滞することによりおこる。
【症状】
失調された臓腑により症状が異なり
肺では咳嗽、喀痰、鼻汁など
胃では悪心、嘔吐、胃内停水(いないていすい・胃に水が溜まった状態)
など病変は多彩である。
【治療】
化痰化飲(かたんかいん・痰や水湿を消化させ排出させる)
以上中医学の観点から花粉症について
解説させて頂きました。
西洋医学においての花粉症
●メカニズム
花粉症は体内に入った花粉に対して
人間の身体が起こす異物反応です。
これを免疫反応と言います。
一般的には免疫反応は身体にとって良い反応ですが、
時には免疫反応が過剰になり、 生活に支障が出てしまいます。
花粉症の場合には花粉を排除しようとして、
くしゃみや鼻水、涙という症状がでますが、
これらの症状が強く出過ぎるために
生活の質が低下してしまいます。
●日本史
日本においては、1960年代に次々と報告された
ブタクサ、カモガヤ、スギ、ヨモギなどによるものが花粉症の始まりである。
スギ花粉症の発見者である斎藤洋三(当時は東京医科歯科大学所属)は、
1963年に鼻や目にアレルギー症状を呈する患者を多く
診察したのが花粉症に気付くきっかけとなったというが、
過去の記録を調べ、毎年同時期に患者が急増することを確認している。
また、1989年に65歳以上に対してアンケートを行った結果、
戦前の1940年以前に発症したとみられる患者もいた。
●患者数
全国的な調査としては、全国の耳鼻咽喉科医とその家族を対象とした
2008年(1 月~4月)の鼻アレルギーの全国疫学調査があります。
それによるとアレルギー 性鼻炎全体の有病率は39. 4%であり、
花粉症全体の有病率は29. 8%、そしてスギ花粉症の有病率は26. 5%でした。
同じような調査が1998年にも実施 されており、
スギ花粉症の有病率は10年間でおよそ10%増加していました。
また近年では花粉症発症年齢の低下が叫ばれています。
●増加要因と症状
花粉症患者が増加している要因として、飛散する花粉数の増加、
母乳から人工 栄養への切り替え、食生活の変化、
腸内細菌の変化や感染症の減少などが指摘されている他、
大気汚染や喫煙なども花粉症患者の増加に影響しているとされています。
最近の研究では花粉症の症状を悪化させる可能性が あるものとして、
空気中の汚染物質やストレスの影響などが考えられています。
●日本に多い花粉症と飛散時期
日本ではこれまでに50種類以上の原因花粉が報告されています。
一般に最も多いのは、スギ花粉を原因とするスギ花粉症で、
樹木の花粉では他にシラカンバ、ハンノキ、オオバヤシャブシ、
ケヤキ、コナラ、 クヌギなどがあります。
また、草本ではイネ科のカモガヤ、オオアワガエリなどの他に、
キク科のブタクサ、オオブタクサ、ヨモギなどや、
アサ科のカナムグラ などがあります。
主な花粉の飛散する時期は、地域によって多少違いがありますが、
スギやヒノキは春が中心で、秋にも少量の花粉が飛散することがあります。
カモガヤやオオアワガエリなどのイネ科の花粉は種類が多いために、
春から初秋までの長い期間飛散します。
ブタクサやヨモギなどのキク科とカナムグラは
夏の終わりから秋にかけて飛散しています。
●スギ花粉症の治療
花粉症の治療は他の鼻や眼のアレルギーの治療と
基本的には同じですが、急激に花粉にさらされるため、
急性の強い症状への配慮も必要となります。
治療法を大きく分けると、症状を軽減する対症療法と
根本的に治す根治療法の二つがあります。
対症療法:
内服薬による全身療法
点眼、点鼻薬などによる局所療法
鼻粘膜への手術療法
根治療法:
原因抗原(花粉など)の除去と回避
減感作療法(抗原特異的免疫療法)
出典:
厚生労働省「花粉症特集」
環境省「花粉情報サイト」 より一部抜粋
[記事:北野]
参考文献:
『中医診断学ノート』
『針灸学(基礎篇)』
『やさしい中医学入門』
『中医病因病機学』
『黄帝内経素問上巻』 東洋学術出版社
『中医学による花粉症治療』 源草社
『基礎中医学』 株式会社燎原
『内経気象学入門』 緑書房
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