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下肢静脈瘤の東洋医学解説

下肢静脈瘤について

主に足の静脈の血管の内膜が薄くなり、
静脈の血液の逆流を防ぐ役割をする弁が壊れたり、
正常に閉じなくなってしまい、
心臓へと戻るべき血液の一部が下肢に逆流してしまう現象をいう。

出産を経験した高齢の女性に発症しやすく、
出産回数を重ねた人ほど発症する割合は高くなる傾向がある。
その他にも、
長時間立ち仕事の職業の人が発症しやすい。
遺伝的要素も含まれる。

◎症状
・全身が疲労しやすい ・下肢が張って足が重だるい
・足の火照りやひきつる ・血管が皮膚上に膨れあがる
・色素沈着 ・皮膚潰瘍 ・湿疹

◎下肢静脈瘤の種類
・伏在静脈瘤・側枝静脈瘤
・網目状静脈瘤・クモの巣状静脈瘤

◎治療方法
・運動療法・弾性ストッキング
・硬化療法・レーザー手術
・ストリッピング手術・高位結紮術

以上が西洋医学的な見解となる。


中医学では、
症状に関しては
上記した内容とあまり違いはないが、
症状を発症しやすい者の特徴に
湿邪を多くとどめている者に多いとある。

湿邪には、
天候(雨や曇り)により体を外側から侵す外湿と
暴飲暴食などから体を内側から侵す内湿との2つがあり、
これらは湿気を嫌う脾臓に負担のかかる原因となる。

◎湿の特徴
・重濁性がある・下に沈む
・粘滞性がある・陽気を損傷する

これは中医学だけでの考えではなく、
雨が空から地面に落ちるように自然の中では当然のことなのだが、
この湿気が主に下半身に溜まり処理しきれないのが問題となる。
湿には重濁性という性質があるので、
この湿によって出てきた症状は動きにくく、
比較的改善までに時間を要すると考えられている。
重く濁った性質で、
川の底にへばりついたヘドロの様なものと
イメージすればわかりやすいかもしれない。

余分となった水が脾臓を弱らせ、
体内の水分の代謝が順調に行えなくなるのだが、
これは単純に汗をかく量や尿の量だけでは判断出来ず、
実際に脾臓に負担がかかっているのかを判断するには
中医学的な多面的観察が必要である。

上に記載した湿気など、
脾臓が何らかの形で影響をうけることで、
結果的に下肢静脈瘤の様な症状を発症してしまう。
下肢静脈瘤の様な。というのは
中医学では、
「下肢青筋突起」
との別名があるからである。

以下に
下肢青筋突起となる原因を記載する。


1)脾不統血証

普段から食の不摂生や思い悩みやすい人に発症しやすい。
中医学ではそれぞれの感情の過不足が、
五臓の負担となると考える。
感情を七情と良い、
「喜・怒・憂・思・悲・恐・驚」に分けられ、
「思」は脾臓が担う。
思い悩みやすい人は脾臓を病みやすく、
脾臓を病む人は思い悩みやすくもなる。

◎症状・所見
・血便・崩漏(不正性器出血)
・顔色淡白・食欲不振・腹満
・舌質淡白・脈細弱
etc.

◎治法
益気(補気)

脾気を補う事で統血作用を回復させ、
脈外へと溢れた血液を脈内へ流れるように導く。

統血作用
血液が脈外に漏れずに、
脈内を順調にめぐらせる作用のこと。
不統血になることで脈内から脈外へと血液が溢れ出て、
皮下出血をおこしてしまう原因につながる。

『中医基本用語辞典』によると、
「脾統血」脾は血を統(す)べる。
とある。
「統」とは統轄する・コントロールするということなので、
脾により全体の血をまとめるのである。


2)湿熱瘀滞

◎原因
・長夏(梅雨)の時期
・脂ものや甘いものの過食
・酒の飲み過ぎ

湿熱が下肢の経脈に滞り発症する。
脾の弱りが湿熱を助長させることもあれば、
湿熱が脾臓を弱らせることもある。

◎症状・所見
・体の火照り・頭痛や頭重感
・口渇はあるがあまり飲めない・小便短赤
・舌苔黄膩・脈滑数
etc.

◎治法
清熱・祛湿・建脾化湿

火と水の、2つの反するものが、
病が進行する段階で下肢の経脈に蓄積すると考える。
熱邪が主か、湿邪が主かを考慮し、
清熱・祛湿どちらかの治法で対処する。
健脾をおこなう場合は、
脾臓が弱り運化作用や統血作用が衰えた場合に用いる。


3)寒湿瘀滞

◎原因
・海や湖の近くなど湿気の多いところに居住
・入浴後に髪を濡れたまま乾かさずに放置
・雨に濡れたまま着替えず放置
・生ものや冷たい飲み物の過剰摂取

寒湿の邪が筋脈に侵入し
下肢の気血の流れが滞ることで発症する。
寒邪と湿邪は共に陰性の邪気なので、
陽気を蝕み体を冷えの方向へと向かわせる。

◎症状・所見
・食欲不振・腹痛
・下痢・浮腫・水様性の痰
・舌苔白膩・脈濡緩
etc.

◎治法
温陽散寒

冷えの原因を明確にしなければならず、
邪気を祓うべきか正気を補うか的確に判断する必要がある。
寒湿の邪気も湿熱同様に、脾臓を損傷する可能性がある。


4)気虚血瘀

◎原因
・先天的な虚弱体質や慢性病
・先天的に気が不足
・気虚により血の輸送が無力になる

脾臓あるいは、
他の臓腑の負担から脾気を産生できなくなることで、
統血作用の衰えとなるか、
瘀血が下肢の経脈で滞り発症する。

◎症状・所見
・顔色淡白または晦暗
・倦怠無力感
・月経不定期
・舌質暗
・瘀点舌
・脈沈虚無力
etc.

◎治法
補気・活血化瘀

気虚により血の運行の推動力が低下することで、
瘀血を生じるので、
気を補い血の推動力を増して瘀血を解消する。
気虚が主か瘀血が主かを判断する必要がある。


上に記載した下肢青筋突起(静脈瘤)となる原因は、
脾臓の統血作用の衰えが少なからず関係してくる
と考えることができるが、
脾臓の弱りが根本的な原因にあるとは限らず、
腎臓から波及してくる場合があれば、
肝臓から間接的に脾臓を侵す場合もある。

五臓六腑の何処が原因で発症しているかを見極めることができれば、
根本的な治療方法がないとされる下肢静脈瘤の症状であっても
根治を目指すことができると考えている。

[記事:本多]


参考文献:
『中医弁証』
『基礎中医学』
『中医弁証学』
『中医学の基礎』
『中医病因病機学』
『中医診断学ノート』
『中医基本用語辞典』 東洋学術出版
『東洋医学概論』   医道の日本社
『改訂版 漢字源』    学研

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