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顎関節症の東洋医学解説

「顎が痛い」
「口が開かない」
「口を開く度、カクカク音がする」
この様な症状でお悩みの方はおられますか?
これを顎関節症(がくかんせつしょう)と言い、
近年増加傾向にあるようです。

この顎関節症を
東洋医学的観点から解説していきます。


◎東洋医学における顎関節症

◉概要

東洋医学的の古典には
顎関節症という疾患こそないが、
610年頃に巣 元方(そう げんぽう)らによって
編纂された「諸病源候論(しょびょうげんこうろん)」には

"諸陽経筋、皆在於頭。
手三陽之筋、結入於頷頬、
足陽明之筋、上来於口。
諸陽為風寒所客則筋急、故口噤不開也。"

(*¹手足三陽経の経筋は全て頭部に分布している。
手の三陽経は下顎と頬に結び、
足の陽明経は頚から上り口部を挟んで分布している。
諸陽経が風寒の邪に侵されると、
顎、頬、口の筋肉が収縮して開けにくくなる。)」
*¹ 手太陽小腸経・足太陽膀胱経
 手陽明大腸経・足陽明胃経
 手少陽三焦(さんしょう)経・足少陽胆経

とあり、
現代で言う顎関節症と症状が類似する記載が残っている。

◉病の成り立ちと治療方法

・風寒狭痰阻絡(ふうかんきょうたんそらく)
上記した「諸病源候論」の
気候の異常気象や、
現代では冷房に直接当たることによって
風寒(ふうかん)の邪が人体を侵襲したものである。
ただしこの場合、
素体(そたい:体の状態)として
飲食不摂生や過労により、
飲食物を消化・吸収し、
そこから生成される栄養を全身に運搬する
脾胃(ひい)の機能が低下した結果、
湿痰(体内で水や湿が長期停滞し生じたもの)が生じた
状態というのが下地にある。

【症状】
冷えや、雨天時に悪化・温めると軽減・
患部の冷えを伴うetc

【治療方法】
風寒邪を散じ、同時に痰も取り除く。
(疎風散寒・滌痰活絡:そふうさんかん・じょうたんかつらく)


・肝鬱気滞(かんうつきたい)
東洋医学の経典である、
『黄帝内経霊枢(こうていだいけいれいすう)』の
「経脈篇(けいみゃくへん)」には

"胆足少陽之脈・・・
頭痛、顎痛、目鋭眥痛、缼盆中腫痛、
腋下腫・・・"
(「胆、足少陽の脈・・・
頭痛、顎の痛み、目尻の痛み、缼盆が腫れて痛み、
腋下が腫れる・・・」)

とあり、
経絡の病証としては
少陽胆経の病となるが、
胆は肝と表裏関係をなし、
密な関係と考えられており、
その病証も相互に影響し合っている。
肝には生理作用として
臓腑と精神活動を円滑に保つ
気の疏泄(そせつ)機能があるが、
怒りや不安・心配事が続くことにより
この機能が失われ、
その結果
気の動きが停滞したために発生するもの。

【症状】
気分が良い時は、症状を感じない・
歯をくいしばる・頚や肩が痛む・怒りっぽいetc

【治療方法】
肝気を動かし、気の滞りを散らす。
(疎肝解鬱:そかんかいうつ)


・脾腎両虚(ひじんりょうきょ)
1798年に出版された
呉瑭(ごとう)著の『温病条弁(うんびょうじょうべん)』には

"噤口痢、胃関不開、由於腎関不開者、肉蓯蓉湯主之"
(「口が開かず下痢をし、胃関が開かず、
腎関開かない者は、肉蓯蓉湯(にくじゅようとう)が主る。」)

とあり、
外感病の後期や、発汗・下痢が長期続いたもので、
脾腎の両臓が虚衰し、
気血が生じなくなった結果
筋肉が栄養されなくなったもの。

【症状】
常に患部が引きつる感覚がある・
体力を消耗したり、痩せるetc

【治療方法】
・腎の陽気を補う。
(補腎壮陽:ほじんそうよう)


・気虚血瘀(ききょけつお)
清代の医家 何梦瑶(か ぼうよう)の著である『医碥(いへん)』には

"口噤即牙関不開也、
由気血凝結于牙関筋脈、不能活動。"

(「口噤(口が開かない)、すなわち下顎と奥歯が開かないこと。
下顎と奥歯の筋脈の気血が凝結することによって動かなくなる。」)

病が長期化し、気血を消耗した結果、
血液を動かせなくなった為に起こったもの。

【症状】
症状が慢性的にある・筋肉の痙攣。
顔が黒いや声に力がない等を伴う。

【治療方法】
気を補い血を動かす。
(補気活血・化瘀:ほきかっけつ・かお)


◎西洋医学における顎関節症



図① 赤で囲った箇所が顎関節の位置


図② 顎関節の構造(図①の円部の拡大図)


顎関節(がくかんせつ)とは、
図②の下顎窩(かがくか)と
下顎頭(かがくとう)を
連結している関節であり、
両者の間には骨同士が直接擦れないように
関節円板(かんせつえんばん)という
クッションの役目をする組織がある。
この組織があることで、
口を開ける、食べ物を噛む、食いちぎる
といった動作をスムーズに行うことが出来る。

冒頭部分に記載した、
「顎が痛い」
「口が開かない」
「口を開く度、カクカク音がする」
といった症状は
この顎関節部分で起こっているものであり、
鑑別検査を行い、他の疾患がみられないものを
「顎関節症」としている。

男女比でみれば女性に多く、
20~30歳代、50歳代に多いと言われているが、
近年の日本は超高齢社会に突入したため、
65歳以上の患者も増えてきたようである。

◉原因と治療方法
【原因】
かつては「噛み合わせの悪さ」のみと考えられていたようだが、
現在は様々な原因があるとされいる。

①顎関節や顎の筋肉が弱い
顎関節や顎の筋肉の強さには個人差があり、
これらの構造が元々弱いたために起こるもの。

②ストレスによるもの
精神的ストレスや緊張により、
知らず知らず歯を食いしばってしまい、
その結果筋肉に負荷がかかり起こるもの。

③噛み合わせの悪さ
虫歯をはじめとする歯科疾患を放置したり、
義歯の適合が悪かったりすると負荷がかかり、
その結果起こるもの。

④日常生活の癖によるもの
片側の歯でしか噛まない、うつ伏せ寝、頬付き等、
日常生活で繰り返し同じ動作を取り続け、
顎関節や筋肉に負荷をかけた結果起こるもの。

⑤スポーツや楽器演奏による食いしばり
スポーツをする際や、楽器の演奏時に
歯を食いしばることがきっかけで起こるもの。

⑥顎の外傷
顎の打撲や口を大きく開けた際に
筋肉を損傷して起こるもの。

【治療方法】
・運動療法
筋肉のマッサージや、
歯科医師や患者自身が手で口を大きく開かせ、
口の開く範囲を増やす。
また生活習慣が原因の場合は生活指導を行い、
悪化させる癖を禁止させる。

・薬物療法
痛み止めの服用や筋緊張が原因の場合は
筋肉の弛緩(しかん)薬を服用させる。
またストレスが原因の場合は、
抗不安薬を服用させる。

・スプリント療法
顎関節症の治療用マウスピースを作成、使用する。

・外科手術
色々治療をするも改善がなく、
また治療期間が長い場合は、選択肢の一つとなる。


[記事]下野


[参考文献]
『中医弁証学』
『中医学の基礎』
『中医病因病機学』
『中医基本用語辞典』 東洋学術出版社

『校釈 諸病源候論』 緑書房

『基礎中医学』
『症状による 中医診断と治療』 燎原書店

『鍼灸医学辞典』 医道の日本社

『ぜんぶわかる 人体解剖図』 成美堂出版

『中医臨床のための温病条弁解説』
『最新 医学大事典』 医歯薬出版株式会社

『新編 顎関節症』 永末書店
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