パーキンソン病について
パーキンソン病とは
手足のふるえ(振戦)やこわばりを特徴とする神経変性疾患の一つです。
神経変性疾患とは
特定の神経細胞が徐々に違うものに変化し正常に働かなくなる病気で
パーキンソン病以外では
アルツハイマー病やALS(筋萎縮性側索硬化症)なども
神経変性疾患に含まれます。
パーキンソン病は中年以降の発症が多く、
高齢になるほどその割合も増えるため
人口の高齢化にともないその数は年々増えています。
パーキンソン病の症状としては
振戦をはじめとした運動器系症状だけでなく
自律神経症状や症状が進行すれば精神症状なども現れます。
以下に詳しい症状をあげます。
・
運動器系症状 安静時の手足のふるえ(振戦)、
筋固縮(筋肉のこわばり)
無動(動作が緩慢でゆっくりしかできない)、
姿勢反射障害(体のバランスがとりにくくなる)
・
自律神経症状 便秘、垂涎(よだれ)、発汗、脂顔(顔が脂ぎる)
起立性低血圧(立ちくらみ)、手足の血行不良による冷え性
排尿障害、むくみ、性機能障害
・
精神症状 自発性の低下、抑うつ気分、不眠。
パーキンソン病の原因は
脳内の黒質という部分の神経細胞の変性があげられ
黒質で作られるドーパミンと呼ばれる
神経間の情報伝達に用いられる物質が
生産できなくなり不足することで
脳から全身に送られる信号がうまく伝えられなくなるため
全身に様々な症状が現れます。
しかし黒質の細胞がなぜ変性してしまうのかについては
いまだにはっきりとしたことはわかっていません。
一度変性してしまった黒質自体は不可逆的なものであり
そのため治療は症状の進行を少しでも遅らせることが目的になり、
不足しているドーパミンを
薬などで補うことが中心になります。
ここまでが西洋医学的な見解です。
以下中医学的な解説になります。
パーキンソン病は脳細胞の変性が原因ですが
東洋医学で脳は
「
髄海(ずいかい)」と呼ばれ
生命活動に必要な物質(気・血・津液)の生成・貯蔵に深く関与する
「肝・心・脾・肺・腎」の五の蔵器(五臓)の一つ、
腎と深く関係していると考えます。
腎は
蔵精(ぞうせい)と呼ばれる
気・血・津液の材料となる精を貯蔵する働きがあり、
腎が蓄えている精が髄を生じ髄が脳を養うとされ
腎の働きが弱れば脳を栄養することが出来ず
空虚になってしまう。
そのため腎の働きがパーキンソン病を初めとした
様々な脳神経疾患と深く関わると考えます。
次に特徴的な症状である手足のふるえですが、
中医学では手足などのふるえは
四肢抽搐(ししちゅうちく)と呼ばれ、
原因としては気血が不足のために
四肢の筋などをうまく温めたり栄養できない事や
内外から受ける風邪の影響などが挙げられます。
●
気血不足による四肢抽搐 ・気血の生成はどこで行われているのか?
気血は五臓の一つである
脾(ひ)の働きによって作られます。
そのため脾の働きが弱れば気血が不足してしまう。
また脾と腎は互いに助けあう関係にあり、
腎は脾から補給される気血によって正常に働き
脾は腎に温められることで食べ物から
気血を作り出すことが出来ます。
そのため脾腎の働きが気血生成に
大きく関与することになります。
・脾腎の働きの失調による四肢抽搐が発症する病証
脾腎陽虚証 この証は飲食不節、嘔吐、下痢、慢性病などにより
脾の気血生成作用が失調することで腎を補う事が出来ず、
逆に脾は腎によって温められないので
さらに気血生成の働きを失調してしまう。
そうなれば陽気と呼ばれる体を温める力が弱り
経脈を温めることが出来ず、四肢のふるえを生じさせます。
ふるえ以外の症状として四肢の冷え・むくみ・小便不利・下痢
顔面蒼白などの症状も現れます。
治法として温陽固本(おんようこほん)陽気を補い活力を養います。
さらに病態が進むと陽虚は心にまで波及し
心腎陽虚証を呈する。
心は血脈と精神・意識・思考活動
を主るといわれ、
心の陽気が不足すれば
心悸・胸の不快感や痛み(胸悶)
息切れ・無力感・精神疲労・不眠
などの症状が現れます。
●
風邪による四肢抽搐 ・
風邪とは?
六淫(りくいん)または六邪(ろくじゃ)と呼ばれる
風邪(ふうじゃ)・
寒邪(かんじゃ)・
暑邪(しょじゃ)・
燥邪(そうじゃ)・湿邪(しつじゃ)・火邪(かじゃ)の
6つの気象変化が引き起こす病因の1つで
風邪は外に吹く風のような性質があり、
流動し良く動きまわるり、
その症状や場所も安定しない。
また動を主り、四肢に異常運動や強直をおこす。
風邪から受ける四肢抽搐には
風邪が外より入る場合と内側から起こる場合があり、
外から入る風邪は風にあたることで皮毛より侵入し
急性で激しい症状がでる事が多く、
逆に内側から起こる場合は
五蔵六腑の弱りや負担によって起こり、
内臓の弱りによって病状が進行していく。
発症から徐々に進行していくという
パーキンソン病の特徴と一致することから
内側から起こる風邪、内風が原因であると
捉えます。
・内風はなぜおこるのか?
内風は体の中の熱を制御出来ず、
燃え上がった時に発生する。
イメージとしてはたき火などをした際
空気が暖められて昇る上昇気流にあたり
火が強すぎるために体の中で風となって吹き荒れる。
そのため内風には必ず熱源があると考えます。
・内風によって四肢抽搐を発症する病証
肝腎陰虚 肝は血の蔵し、腎は精を蔵するが
精と血は起源を同じくし、
血は精から作られる。
そのため腎精が不足すれば
肝にも波及し肝血の不足が起こり
進行すれば肝腎陰虚という病理が形成される。
またその逆に肝血の不足などから
腎精の不足に波及する場合もある。
陰虚という病症は火を消す為の水がないために
大火となるように体の中の熱を上手く調節できなり
暴走した熱によって内風が生じれば
筋肉を滋養している肝に波及し四肢をふるえさせます。
ふるえ以外の症状として腰膝がだるく無力・目がかすむ・めまい
耳鳴り・手足顔のほてり・咽の乾き・便秘・貧血などの症状が現れます。
治法は滋陰潜陽(じいんせんよう)・平肝熄風(へいかんそくふう)
陰気を補い燃えている火や肝の風邪を抑えます。
さらに病態が進むとこの場合も陰虚は心にまで波及し
心悸・胸の不快感や痛み(胸悶)・息切れ・不眠・多夢・寝汗
などの症状が現れます。
この様に五蔵六腑は互いに密接に関係するため
ふるえの症状以外にも便秘や貧血、冷え性、などの自律神経症状も現れ、
さらに進行すれば無気力や抑うつ症状などの精神症状も出て来ます。
[記事:宮村]
参考文献:
『臨床医学各論』医歯薬出版株式会社
『中医学の基礎』
『中医弁証学』
『中医病因病機学』東洋学術出版社
『症状による中医診断と治療 上巻』燎原書店