更年期とは、
一般に性成熟期から老年期に移行する
閉経前後の10年間をいい、
日本人女性では平均して45~55才頃に相当する。
妊娠・出産にむけた生殖能力が終了し、
卵巣機能の低下、特にエストロゲンの低下により
次に迎える老年期に向かって
新たにバランスをとろうとするため、
月経異常や自律神経失調症状、神経・代謝異常など
様々に現れる症状を総称して更年期障害という。
男性の場合も、年齢とともに
男性ホルモンが減少していくが
女性に比べて変化が緩やかなために
症状がでにくいことが多く、
ほてりや多汗などのものから、
うつ病やひどい不眠など重症なものまで
男女ともに個人差が大きく、
生理的要因の他に仕事や家庭など
環境的要因や、心理的要因などが
複雑に絡み生じてくる。
●症状
ホットフラッシュ・月経異常・動悸などの自律神経失調症状や
抑うつ感・イライラ・めまいなどの精神神経症状。
腰痛・肩こり・易疲労・排尿障害・乾燥などの不定愁訴。
男性では性欲の低下、ED(勃起障害)などもみられる。
●治療方法
ホルモン補充療法(HRT)が主流。
精神的には抗鬱薬・抗精神薬など。
薬剤には副作用もあり、漢方も広く使われる。
ここまでが西洋医学的見解となる。
中医学では「絶経前後諸症」とよばれる。
「絶経」とは閉経のことで、
閉経前後におきる様々な症状の事である。
素問・上古天真論篇では、
女性の一生は7の倍数の年齢に
節目があるといわれている。
この変化は
腎精によって為されるところが大きい。
腎精とは、先天の精という父母から受け継いだものと、
後天の精という飲食によって補われるものがある。
生まれた時はまだ未熟だが、成長と共に育まれ、
7 × 2 の14歳頃になると
腎精が充実することで初潮を迎え、子供を産めるようになり、
7 × 3 の35歳頃になると老化が少しずつ始まり、
7 × 7 の49歳頃になると閉経が訪れると記されている。
腎精は、日常生活の不摂生、
たとえば不眠や暴飲暴食、飲酒、過労、
七情の乱れといわれる感情の乱れなど
様々な要因で消耗されていき、
身体を構成する肝心脾肺腎とよばれる
五臓六腑に様々な影響を与え、
それが症状となって現れる。
また腎精を安定させるには、
他の臓器も安定して活動していなければいけない。
故に、どのように日々を過ごして
更年期を迎えたかによって、
身体の弱りがどこにあるのかが人により異なり、
症状の現れかたも様々となる。
どんな疾患でもいえることだが、
日々の養生が大切である。
腎精からは腎陰と
腎陽が産生される。
腎陰は「真陰」「元陰」ともいわれ、
身体全体の臓腑を潤し、滋養し、陰液の根本を担う。
また腎陽は「命門の火」ともいわれ、
身体全体を温め、活動を促進させる陽気の根本となる。
この陰陽の調和がうまくいかなくなることで
バランスを崩し、様々な症状となる。
大きくわけると次のタイプにわけられる。
1. 心腎不交証上焦にある心は火の臓で、
下に下りてきて腎陽をあたためる。
腎陰は上にあがり心陰を助ける。
このバランスがくずれることで、
「心腎不交」という状態になり、
心火が心神を乱すことで
不眠・動悸・不安などが生じる。
また心陰を代表する掌や、
腎陰を代表する足の裏や
胸中(心)に熱感がおこるのも、
水不足からおこる虚熱症状である。
◉治法:瀉心火・滋陰補腎・交通心腎
2. 肝腎陰虚証腎は精を蔵し、肝は血を蔵する。
「肝腎同源」といわれ、精と血は相互に変化しあう。
腎陰が不足することで肝血も不足し、
肝の疎泄機能が失調することで
憂鬱・イライラなど肝気鬱の症状が現れ、
肝気上逆や肝陽が上亢すると
頭痛や目痛・高血圧などが生じる。
年齢的には子育てが一段楽したり、
親の介護など、様々な環境の変化が大きく、
また症状が多彩なために、あらゆる診療科を受診し、
薬ばかりが増えて不安になったり、
病名がつかないような症状も多いため、
周囲の理解が得られず一人で悩み続ける方も少なくない。
ストレス過多により鬱熱が一層生じやすくなり、
悪循環となり症状は増強する。
◉治法:滋養肝腎
3. 腎陰虚証腎は水の臓器であり、
水(腎陰)が不足することで現れる症状として、
目・皮膚・陰部の乾燥がおこり、
また乾燥からかゆみを生じることもある。
腎精は骨・髄を養い、髄は脳と通じているため
健忘症・眩暈・耳鳴り、または足腰がだるく弱くなる。
◉治法:滋陰補腎・清虚熱
4. 腎陽虚証腎陰虚が進むと腎陽も衰える。
腎陽とは、命門の火とよばれ、
各臓腑や組織の陽気の根本となる。
腎陽が不足すると内寒が生じるとともに
全身の陽気も減少し、四肢が冷える。
陽気不足で瘀血も生じやすくなり、
気血の流れが滞ることで腰膝の疼痛が生じる。
また各臓腑の陽気も不足する。
肺の陽気が不足することで、防御機能が失調し
風邪を引きやすくなったり、病気が慢性化しやすくなる。
脾陽を温めることができなくなり、
脾の運化失調により更に陽気不足となる。
「脾腎陽虚」となり、気の推道作用が不足することで
疲労感が強くなり、脾の昇清作用が減退すると下痢になりやすい。
腎の気化作用も失調し、頻尿も生じる。
◉治法: 温補養腎・健脾散寒
[記事:小堀]
『中医婦人科』
『中医病因病機学』
『中医学基本用語辞典』
『現代語訳黄帝内経素問』
『いかに弁証論治するか(続編)』東洋学術出版社
『基礎中医学』
『中医診断と臨床』燎原
『病気がみえる⑨』メディックメディア
『よくわかる金匱要略』源草社