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蕁麻疹の東洋医学解説

蕁麻疹(じんましん)は、皮膚科疾患の一種で
皮膚の一部におこる発赤・かゆみを伴う
膨疹(ぼうしん:蚊に刺された様に、皮膚の表面が盛り上がった状態)をいう。

皮膚の中の真皮(しんぴ:皮膚の表皮のすぐ下にある層)
におこる一過性の浮腫であり、
・1ヶ月以内に消失するものを急性
・1ヶ月以上続くものを慢性
と区別することもある。

西洋医学において、蕁麻疹の原因は、
食物、薬物、吸入原、感染、物理的刺激、
心因性ストレスなどであるとされている。
その発生メカニズムは
 ①IgE抗体を介する1型アレルギー
 ②肥満細胞からの化学伝達物質の遊離
 ③非ステロイド抗炎症薬などによる
などとされている。

治療方法としては、
抗ヒスタミン薬や、抗アレルギー薬の投与、また、
原因が判明しているときはそれを回避する。

予後は、急性蕁麻疹は原因が無くなれば消失し、
原因が不明の慢性蕁麻疹は長期間にわたることが多い。


東洋医学における蕁麻疹の考察

1.概要

中医学では、蕁麻疹を
「風疹(ふうしん)」「風たん(たん:やまいだれに「丹」)」
「癮疹(いんしん)」「隠疹(いんしん)」など、
様々な名称を用いて呼称する。
後述するが、蕁麻疹は「風(ふう)」と関係が深いとされており、
そのために「風」の字を用いる呼び方が多いと思われる。
これは、大まかには、風が体表の虚(外部から侵入しやすい弱い部分)から
侵入して発生すると考えられているためである。
蕁麻疹についての考察は、
黄帝内経など、中医学の古い文献にも多く見受けられる。

2.古文書の記述

・『黄帝内経 素問』
四時刺逆従論篇(しじしぎゃくじゅうろん)(第64)より

"少陰有余、病皮痺隠軫。"

和訓:
少陰 有余なれば、皮痺(ひひ)隠軫(いんしん)を病む。

訳:
少陰の気が太過となると皮痹(ひひ)という病や、
隠疹(いんしん:じんましん)が生じる。



・『金匱要略』
中風歴節病脉證并治(ちゅうふうれきせつびょう ならびにち)(第5)より 

第4条
"・・・邪氣中経、則身痒而癮疹、
心氣不足、邪氣入中、則胸満而短氣。"

和訓:
邪気、経に中(あた)れば則ち身痒(よう)して癮疹(いんしん)し、
心気不足すれば、邪気中に入り、則ち胸満して短気す。

訳:
邪気が経絡を侵襲すると痒くなり蕁麻疹が発症し、
心気が不足していればその邪気は心などを侵し、
胸満・呼吸促迫(息切れ)となる。



・『金匱要略』
水氣病脉證并治(すいきびょうみゃくしょう ならびにち)
(第14)より 

第2条
"・・・風氣相搏、風強則為隱疹、身體為痒、
痒為泄風、久為痂癩、氣強則為水、難以俛仰。"

和訓:
風気、相搏(あいう)ち、風強ければすなわち
隠疹(いんしん)となし、身体痒(よう)となす、
痒は泄風(せつふう)なり、久しければ痂癩(からい)となる、
気強ければ則ち水なり、以て俛仰(ふぎょう)し難し。

訳:
風邪と体表の気が争い合い、
風邪が強ければ蕁麻疹となる。
痒みは風邪を排泄しようとするためにおこり、
長引けば痂癩という病になる。
風邪よりも体表の気が強ければ水となり、
すなわち水分の循環が悪くなることで
仰向けになりにくくなります。


・『諸病源候論』
風病諸侯(ふうびょうしょこう)(下) 51より

"邪気客於皮膚、復逢風寒相折、則起風瘙隠軫。"

和訓:
邪気、皮膚に客し、また風寒に相折りて逢えば
すなわち風瘙隠軫(ふうそういんしん)起こる。

訳:
邪気が皮膚に宿っているところに、さらに風寒邪が侵すことで痒みが発生する。

さらに、
"若赤軫者、由涼湿折於肌中之熱、熱結成赤軫也。
得天熱則劇、取冷則滅也。
白軫者、由風気折於肌中熱、熱与風相搏所為。
白軫得天陰雨冷則劇、出風中亦劇、
得晴暖則滅、著衣身暖亦癒也。"
と続き、隠軫(蕁麻疹)には「赤軫(せきしん)」と
「白軫(はくしん)」の二種類があることや、
それらの発生の機序が記されている。



・『諸病源候論』
小児雑病侯(しょうにざつびょうこう) 五 184より

"小児因汗、解脱衣裳、風入腠理、
与血気相搏、結聚起相連、成隠疹。
風気止在腠理、浮浅、其勢微、
故不腫不痛、但成隠疹瘙痒耳。"

訳:
小児が蕁麻疹を患うのは、汗が出て衣服を脱いでいるときに
腠理から風邪が侵入し、気血と相争って、
皮膚の上に結集し相連なったためである。
風邪はただ腠理のみにとどまり、部位は浮浅なところにあり、
病勢も軽微であるので、腫れもせず痛みもなく、
ただ痒みがあるだけである。

以上の記述の内容から、蕁麻疹の発生機序は、
何らかの原因で体表に風が留まるという点が共通しており、
その原因については各々異なっている。
それはその時代ごとに気候や生活習慣などが異なるため、
蕁麻疹など病の発生原因も異なっていたということではないだろうか。
現代においても同様に、
その発生機序を考察していくことが重要である。



3.弁証

(1)風邪襲表(ふうじゃしゅうひょう)
色は浅く、あるいは蒼白で、寒さにあい、
あるいは風に吹かれると発する。
発熱や悪寒(おかん:厚着しても治まらないような寒気がすること)
などの症状を兼ねる。
衛気(えき:体表をめぐるバリアのような気)が弱り、
外から寒邪(冷え)が入り混むことなどが原因である。

(2)胃腸湿熱(いちょうしつねつ)
激しい腹痛、便秘や下痢を伴うこともある。
飲食を慎まずに脾が弱ると、
胃腸内に飲食物が停滞し、身体の負担となる。
専門的には、腸内に風湿熱
(ふうしつねつ:生臭い魚や肉などは風を生みだしやすく、
そのような物をたくさん食べて脾が運化しなくなって停滞した飲食物をいう)が
内蘊(ないうん:奧で停滞して固まること)する、などと考える。

(3)心肺欝熱(しんぱいうつねつ)
色は紅く、灼熱して痒い。
夜に痒みが強く、睡眠がとりにくくなる。
動悸や驚きやすくなることもある。
心神(精神、気持ち)の負担などが原因となる。

(4)腎虚内熱(じんきょないねつ)
痒く、反復して発作が起こり、なかなか治りきらない。
夕暮れになると現れやすい。
陰虚(体内には陰気と陽気があるが、そのうちの陰が不足した状態)で
熱を生じ、その熱が風と化して発生する。

(5)肝火内熾(かんかないし)
色は紅く、イライラして怒りやすい精神状態にある場合が多い。
肝気が滞り鬱することで火と化し、その熱が風を生じる。

(6)気血両虚(きけつりょうきょ)
反復して症状が出て、数ヶ月あるいは数年続く。
通常は過労によって誘発される。
衛気(えき:体表をめぐる気)が不足することで外からの風に侵されやすく、
血(けつ:脈中を循って栄養・滋潤に働く赤色の液体)が不足し、
内から風が生じることで起こる。

風を生じる原因について触れたが、
まとめると風には二種類あり、
体の外から体表を襲う風を「外風(がいふう)」、
身体の内側で生じる風を「内風(ないふう)」という。


4.治法

蕁麻疹は、総じて内風、あるいは外風によって引き起こされるので、
治療は祛風(きょふう:風邪を取り除くこと)を第一とする。
ただし、風が発生または留まった原因を考察し、
その原因を解決することが重要である。
以下に、先に述べた弁証に対するそれぞれの治法を記していく。

(1)風邪襲表

疏風解肌(そふうかいき)、
営衛調和(えいえいちょうわ)

外風を取り除き、営気と衛気(えいきとえき:それぞれ体内と体表を循る気で、
これらが調和すると外風の邪に抵抗する力が強まる)を調和させる。

(2)胃腸湿熱

清熱利湿祛風
(せいねつりしつきょふう)

胃腸に停滞した風湿熱(魚や肉など負担の大きくなりやすい飲食物など)
を取り除く。
具体的には胃腸の血液や水分の流れを良くしたり、
便通を良くする方剤が用いられる。

(3)心肺欝熱

養心安神(ようしんあんしん)、

瀉肺化痰(せいはいかたん)、
滋陰清火(じいんせいか)

心(しん:五臓の一つで、精神を統括する、血脈を主るなどの働きがある)
の力を補い、肺(はい:五臓の一つで、呼吸を主るなどの働きがある)
に停滞した痰や熱を取り除く。

(4)腎虚内熱

補腎養血(ほじんようけつ)
腎気(じんき:体内の陰分(水分など)を
統括する働きなどがある蔵の気)を補い、血を養うことで熱を取り除く。

(5)肝火内熾

清肝瀉火(せいかんしゃか)
肝(かん:五臓の一つで、精神をのびやかにさせる働きなどの働きがある)
に停滞した熱を取り除く。

(6)気血両虚

補気養血(ほきようけつ)
人体にとって気や血(けつ)はなくてはならないものであるが、
その不足した気や血を補う。

[記事:大原]

参考文献:
『黄帝内経 素問』
『傷寒雑病論』 
『金匱要略も読もう』 
『中医内科学』 東洋学術出版社
『諸病源候論』 緑書房
『実用中医内科学』 東洋医学国際研究財団
『基礎中医学』 燎原
『臨床医学各論』 医歯薬出版株式会社
『好きになる病理学』 講談社