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痔の東洋医学解説

痔について


痔は大きく三種類に分類される。

①裂肛(肛裂)
肛門粘膜に亀裂が生じ、癒合せず、疼痛や出血を呈するものを肛裂という。

②痔核(肛門生痔)
直腸の末端や肛門部の血脈が滞り、静脈瘤が形成される現象を肛門生痔という。

③痔瘻(肛漏)
肛門周囲に溜まった膿によって、肛門周囲部が破られる。
その後、傷口が癒合しないで管を形成し、
そこから膿が漏出するものを肛漏という。



上記のそれぞれに対して、
東洋医学的な病因(原因)と病機(症候が現れる機序)を以下に述べる。

1)裂肛
裂肛の弁証には次のようなものがある。

①燥熱証(乾燥と熱を原因とする病症)

これは、燥熱の邪を感受したり、
辛い味のものを嗜好したために生じる。
燥熱とは、乾燥や熱のことである。
日本の乾燥した冬や暑い夏の間である秋などに、
水分の摂取を怠ったりすることで、
邪と呼ばれる身体の流れやバランスを崩す乾燥や熱の物質が入り込む。

また、辛い味のものは熱の特性を持っているため、
胃腸にその燥熱が生じると、その乾燥と熱によって、
津液と呼ばれる身体の水分が消耗される。
この時、便の水分も消耗されるため、便が渇き硬くなる。

また、肛門の粘膜部分の水分も消耗されるため、
肛門粘膜部分の柔軟性がなくなる。
その結果、硬い便に擦り切られ、肛門が傷つけられる。
排便時に激痛と出血を伴い、排便後も疼痛が続くのが特徴である。

次のような症状を呈することがある。
口の苦さ
これは熱があることを表す。焼け焦げた食べ物が苦いようなものである。

喉の乾燥
これも体内の津液の消耗のために起こる。

舌苔が黄で乾燥
舌の苔はうっすらと白いのがよい状態であり、紙に焼き跡を
をつけると、周りが黄色くなるように、舌苔も黄色いものは熱があることを表す。

数脈(脈が速くなる)
体内の生命活動を営む気や血という物質は、
熱によって速く動き、寒によってゆっくり固まっていく。
よって、熱がある場合は脈が速くなる。

治法
瀉火清熱・潤腸通便
体内の熱を外に逃がすようにし、
津液がこれ以上消耗しないようにする。
また、失った津液を補うことで、
腸と肛門部を潤し、便を柔らかくし、
傷つかないようにする。


湿熱証(湿気と熱による病症)
これは、湿熱の邪を感受したり、
脂っこいもの、甘いもの、酒などの嗜好により生じる。
湿熱の邪とは、湿気や熱の邪であり、
夏から秋の初めなど、台風の多い時期に感受しやすい。

また、甘い物や脂っこいものは、
触るとネバネバしたり、ねっとりとしている。
湿の性質として、ねっとり粘りがあり、
停滞するという性質があるため、
甘い物や脂っこいものは湿の性質を持つと考えられる。

また、脂や酒は火を燃やす燃料となるため、熱の性質を持つ。
このような要因から、胃腸に湿熱が生じ、
その湿熱が肛門にも下りてくる。
すると、湿熱には粘滞性があるため、便は粘り気を持ち、
スムースな排出を阻害し排便困難となる。
これを無理矢理息むことで出そうとすると、
肛門が傷つき、出血や腫れが生じ、裂肛となる。

次のような症状を呈する。
発熱
熱が湿の中に覆われることで、外に発散されず、身体に留まり発熱する。

身体が重だるい
脾は肌肉(西洋医学でいう筋肉や脂肪のこと)
を正常にする働きを持っている。
その脾が湿の重く粘つくという性質により
障害されることで、身体中が重だるくなる。

食欲不振
湿熱の邪が脾胃に入りこむことで生じる。
脾と胃は正常に働いていると味覚が正常になり、食欲がある。
しかし、湿熱の邪に弱く
、湿の性質によってスムースに消化吸収が行われなくなると、
味覚が異常となったり食欲がなくなる。

厚膩苔
舌の苔は胃の状態を表しており、
胃が湿に侵されていることで、
舌苔もべっとりと舌にくっつくようになる。

肛門の湿潤感
湿が肛門にも下りているため、肛門部にねっとりした感覚がある。

治法
清化湿熱
粘り気のある湿をサラサラの水分に変化させ流し、
湿の中にある熱を外に排出することで、排便をスムースにする。

③血虚・津虚証(体内の血や水分の不足による病症)
血虚とは体内の血が不足することであり、
津虚とは体内の水分が不足することである。
血は、腸管や肛門などを栄養し、津液はそれらを潤している。

なんらかの理由で血や津液が不足し、
これらが潤わず、栄養されなくなると、
乾燥した硬い便が肛門粘膜を擦過し、裂肛となる。
便が硬く排便しにくいのが特徴である。
血が不足する理由としては、産後や慢性的な痔出血などで、
必要な血が体外に排出されてしまう場合や、
血を作る臟である脾の弱りなど、さまざまな理由が考えられる。
また、血や津液は体内の熱が過剰になりすぎるのを防ぐ働きもあるが、
の不足が慢性化している場合などは、熱が過剰になってしまう場合がある。
この場合、その熱によってさらに腸や肛門や便が乾燥し、
裂肛がひどくなっていく。

次のような症状を呈する。
不眠
血は神と呼ばれる精神活動を安定させる源であり、血が不足すると、
精神活動が乱れ、安定した睡眠が取れなくなる。

細脈
血が不足することで、脈を充足させることができずに、脈が細くなる。

兎糞状の便
乾燥によって便がコロコロと硬くなる。

口や舌の乾燥
口や舌もまた血や津液の滋潤を受けられず乾燥する。

舌質淡
舌が血によって滋養されないので色が薄くなる。

治法
涼血養血・潤腸通便
不足している血を養う。
熱が過剰になっている場合は熱くなっている血を冷まして体内が潤うようにする。
また、腸を潤すことで便を軟らかくし、便通をよくする。


2)痔核
痔核の弁証には次のようなものがある。

①風熱証(風と熱による病症)
これは、風熱の邪を感受した時や、辛い物の嗜好によって生じる。
風熱の邪とは、風と熱の邪のことである。辛い物は熱の性質を持つ。
体内に熱があると、タービンが回る様に、熱が上昇し風を生む。
この熱と、それによって生じた風が、肛門に届くと、
直腸肛門の表面に停滞して痔核となる。
熱によって体内の水分である津液が損傷し、
大便は乾燥し、硬い兎糞状となる。
熱性の痔核のため、肛門に熱感がある。
排便時に痔核が脱出する。

以下のような症状を呈する。
口や舌の乾燥
熱によって水分である津液が消耗し、乾燥する。

頭のふらつき
風の性質を持つ邪が頭に昇ることで
強風に煽られたときのように、ふらつく。

尿が少なく濃い
水分が損傷しているため起こる。

舌質紅で乾燥
発熱時に目や顔が紅く火照るように、
熱があると舌も紅色を呈する。

黄舌苔
先に説明したとおり、
熱があると舌の苔が黄色を呈する。

浮脈洪脈
邪が表面にある場合、
脈も表面に浮いてきて軽く触れるだけで脈を感じる。
また、熱がある場合、気血の流れが激しくなり洪水したような脈となる。

治法
疏風瀉火・潤燥涼血
強風が一気に衝き動かないように、風をやわらかく流す。
また、風の基になっている熱を取り去る。
そして、熱風によって乾燥した腸を潤し、
熱くなってしまった血を冷ます。

②湿熱証
上記の湿熱証による裂肛で述べたのと同様に、
濃厚なもの、辛い物、酒などの嗜好によって生じた湿熱による。
湿熱が大腸・肛門部に停滞すると、湿の粘り気、滞る性質によって、
肛門部の血の流れが滞り、痔核となる。
排便時は痔核が脱出し、滞った血が出血することがある。

その他の現れる症候・治法は湿熱証による裂肛に準ずる。

③気滞血瘀(気と血が滞ることによる病症)
身体の中には気や血と呼ばれる、
生命活動を行うための基礎物質が巡っている。
これらの物質の巡りが滞ることで痔核が生じることがある。
肝は全身の気や血の流れを
スムースに巡らす疏泄作用と呼ばれる作用がある。
しかし、肝はストレスにより疏泄作用を失調しやすく、
疏泄作用が失調すると、気滞という気の流れの停滞や、
血瘀という血の流れの停滞が発生する。

他にも、長時間の座位や重量物の運搬、
妊娠による肛門部の圧迫などにより、
肛門部の気血が瘀滞するために痔核が生じる。
気や血の流れが滞ると痛みが発生することが多いため、
痔核に激痛を伴ったり、出血量が多いことがみられる。
痔核が大きくなることで排便が困難であり、
残便感があるのが特徴である。

以下のような症状を呈する。
舌質は紫暗
舌が暗い紫色を呈し、血の滞りがあることを示す。

弦脈
肝の疏泄作用が失調することで脈の流れもスムースでなくなり、
弦を按じているような脈が感じられる。

治法
理気活血・消踵化瘀
気と血を動かし、滞りなく流れるようにする。
それによって、痔核となっている気と血の塊をなくす。

④気虚証(気が足りないことによる病症)
気には固摂作用と呼ばれる、体内の物質が容易に外に出て行かないようにする
作用がある。なんらかの理由で気が不足すると、この固摂作用が低下し、
体内にある血が体外に出ようとし、痔核となり、出血しやすくなる。
排便によって痔核が脱出しても自然に戻らず、手で戻さなければならない。
気が充足している場合、このように痔核が脱出することもなく、
たとえ痔核が生じても、自然に戻る。
気が足りなくなる原因は様々考えられるが、
慢性的な出血により、血と気を消耗してしまうことがある。
気は臓腑の機能を主るものであるため、
気が足りなくなると、様々な臓腑の機能低下が起こる。

以下のような症状を呈する。
息切れ
呼吸の様な生体の機能は、気によって行われる。
気が不足することで呼吸機能も低下する。

四肢の無力感
気や血は筋肉を栄養することで、
肉体に力を与える。
気や血の不足があると、
筋肉が栄養されず、無力感となる。

舌質淡
血脈が舌を滋養できないため生じる。

虚脈
血と気が両方虚しているため、血と気が流れる脈を充足できない。

治法
補益気血
気血を補うことで、
気の不足によって痔核が生じないようにする。

3)痔瘻
痔瘻の弁証には次のようなものがある。

①実熱証(熱による病症)
濃い味や酒、辛いものの嗜好により、直腸・肛門周辺に熱が停滞し、
その熱によって侵された血や津液が膿となる。
実熱型の痔瘻はこれが潰破するために発生する。
膿が熱によって侵された血や津液によるものであるため、
肛門周囲の熱感が強い。

以下のような症状を呈する。
発熱
体内の熱による。発熱が痔瘻の特徴の一つでもある。

口渇
熱によって、津液が損傷されるため喉が渇く。

便秘
腸の津液も損傷されるので、便が硬くなり出にくくなる。

尿が濃く少ない
熱によって尿の水分量が減り、濃くなる。

舌質紅
熱は上に向かう性質がある。
熱によって気や血が上逆し、舌も血によって紅くなる。

黄舌苔
通常薄い白である舌の苔に熱が入ると黄色くなる。


熱がある場合、気血の流れが激しくなり洪水したような脈となる。

治法
清瀉実熱・消癰(よう)排膿
熱を体外に追い出し、膿が発生しないようにする。
また、炎症を起こしている腫れ物を消し去り、
中にたまった膿を排出する。


②虚熱証(寒熱のバランスが崩れる病症)
体内の陰と陽がバランスが崩れることで、
体内に熱が発生し、その熱によって侵された血や津液が膿となる。
陰と陽はよく調和しているのが正常である。
陽気は体を温める作用を持っており、
陰気は体を冷ます作用を持っている。
お互いに温め過ぎないように、
冷めすぎないようにバランスをとっているが、
血や精や津液といった陰に属するものの不足によって、
陰陽のバランスが崩れ、陽気を抑えることができずに、
熱が発生することがある。
そうして生まれた熱を虚熱といい、
それが肛門に下りることで痔瘻が発生する。

以下のような症状を呈する。
盗汗
汗は体内の水分が熱によって蒸発されたものが体外に排出されるため、
虚熱があると、津液が蒸発し、寝汗をかく。

潮熱
午後や夜になると、潮の干満のように発熱する。

細脈
熱があると、気や血の動きが激しくなるため、
脈が速くなる。

舌質紅
熱は上に向かう性質がある。
熱によって気血が上逆し、舌も血によって紅くなる。

治法
清虚熱・滋陰排膿
虚熱は陰気が不足しているために生じている熱なので、
陰気を補って、陽気の高まりを抑えることで熱を取る。

③虚寒証(寒熱のバランスが崩れる病症)
体内の陰と陽がバランスが崩れることで、
冷えが発生する。
気は陽に属し、体を温める温煦という作用がある。
この気の不足が長期に渡るなどして、
体の陽気が不足すると、体を温めることができなくなり、
虚寒と呼ばれる寒が生じる。
寒は固まったり滞ったりする性質があるため、
肛門部の血や津液が凝滞し、膿を生じる。

寒がる
陽気が足りないので、体を温められない。

息切れ
気が不足しているので、
臓腑の機能が低下する。

倦怠無力感
気は血を運び、血は筋肉を栄養する。
気が不足することで、
血が行きわたらず、
筋肉を栄養できない。

治法
補益気血、和陰清陽
気と血を補うことで、
陽気を高めて温める。
それにより、寒を取り除く。




西洋医学的な見解

1)裂肛
便秘による硬い便や下痢によって
肛門部に大きな負担がかけられたことによる。
また、痔核があることによって、
肛門部が狭められ、排便時に擦過することでも起こる。
何度も皮膚が切れることで、
筋肉の柔軟性が失われ、さらに裂肛を起こしやすくなる。
また、強く息むことで、
肛門部が緊張し、切れやすくなる。
便秘になる原因は、
不摂生や便の我慢のしすぎ、運動不足などが挙げられる。

2)痔核
同じ姿勢(座位や立位)を維持することが多いことや、
冷え、排便時に強く息むことによって
肛門部の静脈叢が鬱血し、静脈瘤を呈する。
内痔核と外痔核に分類され、
内痔核は痛みが無い場合が多く、出血が特徴である。
外痔核は激痛を伴う。

3)痔瘻
主に細菌が原因とされる。
下痢などの際に、便中の細菌によって肛門周囲が炎症を起こす。
その際、免疫力の低下時など、細菌に感染することで、膿が生じる。
肛門腺から肛門周囲に向かって穴が開き、そこから排膿される。
感染症のため、発熱することがある。
慢性的な下痢から発生することが多い。

[記事:奥村]


参考文献:
『中医基本用語辞典』
『中医学の基礎』
『中医診断学ノート』
『中医病因病機学』   東洋学術出版社
『症状による中医診断と治療 下巻』燎原書店

 

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