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橋本病の東洋医学解説

橋本病は、
慢性甲状腺炎ともいわれ、
下図にあるように
甲状軟骨のすぐ下にある甲状腺が
「自己免疫」の異常が原因で起こる炎症を指します。



東洋医学の見解

「癭病(エイビョウ)」は、
現代でいう甲状腺機能障害全般と捉えます。
「嬰」という字に「首飾り」という意味があり、これが転じて甲状腺を指します。
「癭」とは、頸部の腫瘤。
大脖子(ダイボツシ)・癭気(エイキ)とも呼ばれます。

【古文書からの引用】
『済生方 』厳用和(ゲン ヨウワ) 1200?~1267?

"夫癭瘤者,多由喜怒不節,憂思過度,而成斯疾焉。
 大抵人之気血, 循環一身,常欲無滞留之患。
 調摂失宜,気凝血滞,為癭為瘤"

現代語訳
(癭瘤という病証は,
多くの場合 節度のない喜怒や、過度な憂鬱と思い込みによって起こる。
通常、人間の気血は滞留することなく全身を循環している。
もし生活の調摂が失調し、気凝血滞となれば、癭瘤となる)

『外科正宗』陳実功(チン ジツコウ) 1555~1636

"筋脈呈露曰筋癭,赤脈交結曰血癭,
 皮色不変曰肉癭,随憂喜消長曰気癭,
 堅硬不可移者曰石癭"


現代語訳:
(腫瘤表面に筋脈が目立つものは筋癭といい、
腫瘤表面に赤い血脈が交結しているものは血癭といい、
皮膚の色が変わらないものは肉癭といい、
憂喜に従い大きさが 変化するものは気癭といい、
腫瘤が硬くて押しても移動しないものは石癭という)

『洞天奧旨』陳士鐸(チン シタク) 1627~1707

"癭有三種,一血癭,一肉癭,一氣癭。
 血可破,肉可割,氣可刺。
 其實三種具宜內消,不宜外治。"


現代語訳:
(癭には三種あり、一は血癭、一は肉癭、一は気癭である。
血は破すべきであり、肉は割すべきであり、気は刺すべきである。
その実は三種ともに内消に宜しく、外治に宜しからず。)

【弁証論治】

痰気鬱結(タンキウッケツ)

肝気が鬱結することにより、
水湿が停滞し凝集して痰が生じたもの。

【症状の特徴】
甲状腺腫が
びまん性(病変がはっきりと限定することができずに広範囲に広がっている状態)で軟かく、圧痛がないか軽度で張った感じがある。
舌苔は白、あるいは膩
脈は弦あるいは滑

【治法】
・理気滌痰(リキジョウタン)
 気を動かし痰を取り除く
・解鬱(カイウツ)
 気の滞りを散らす

気滞血瘀(キタイケツオ)

肝気が鬱滞し続けた結果、血瘀(ケツオ:血が停滞して)が生じたもの。

【症状の特徴】
慢性的に経過して、甲状腺腫がかなり大きくて硬く圧痛がある。
舌質は紫暗 あるいは瘀斑(オハン:舌面に見られる青紫〜紫黒色で斑状のもの)。
脈は沈渋

【治法】
活血化瘀(カッケツカオ)
血の流れを良くし、停滞している血をほどく

心肝陰虚(シンカンインキョ)

上述の痰結や血瘀の有形の実が慢性化すると、
それらの邪によって正気が消耗し、
心肝の陰血が不足する。

【症状の特徴】
動悸、息切れ、焦燥感、驚きやすい、不眠、微熱、自汗など心陰虚の症状や、
易怒、頭のふらつき、目がくらむ、眼の乾燥など肝陰虚の症状がみられる。

【治法】
滋陰補血(ジインホケツ)
陰を潤わせ、血を補う

肝腎陰虚(カンジンインキョ)
肝腎の陰虚により、内熱がおこり
津液(シンエキ)が蒸されて痰となる。

【症状の特徴】
咽の乾燥感を伴う。
舌質は紅絳、脈は弦滑

【治法】
滋腎養肝(ジジンヨウカン)
腎陰を潤わせ、肝血を養う。

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西洋医学の見解

橋本病は、
のど仏(甲状軟骨)の下にある甲状腺に
慢性的な炎症が起きていることを指します。
「慢性甲状腺炎」ともいわれ、
男女比は[1:20~30]で
特に30~40歳代の女性に多くあります。

主な要因として、
本来は体内に侵入してきた細菌やウイルスに対して働く
「自己免疫」が異常行動をおこし、
甲状腺を攻撃することで発症するといわれています。
その結果、
「甲状腺機能低下症」という状態になりますが、
この症状を発症するのは、
橋本病だけではありません。

・亜急性甲状腺炎
・ヨード不足
・ヨード過多
・遺伝性のホルモン異常
・甲状腺刺激ホルモンの分泌異常
・甲状腺摘出など医原性によるもの など

橋本病の原因の一つである、
「自己免疫」の異常の原因は、
今のところ不明とされています。



【注意すべき橋本病】
・無痛性甲状腺炎
甲状腺に蓄えられている甲状腺ホルモンが血液中にもれ出てくるために、
一時的に甲状腺ホルモンが過剰になり、
バセドウ病と紛らわしい症状が出ることがあります。
甲状腺の痛みはなく「無痛性甲状腺炎」といいます。
長くても4ヶ月以内には自然に治ります。

・橋本病の急性増悪
甲状腺の炎症が急に悪化して甲状腺が大きくなり、
痛んだり熱が出たりすることがあり、
これを「橋本病の急性増悪」と呼んでいます。
甲状腺ホルモンが一時的に漏れ出して、
動悸や息切れなどの甲状腺機能亢進症の症状が出ることもあります。

【治療法】
・投薬治療
甲状腺ホルモンの数値が低下している場合は、
甲状腺ホルモン薬を投与することで体内で分泌出来ない分を補います。
甲状腺ホルモン薬は、体内にある甲状腺ホルモンと同じものなので、
副作用が起こる可能性は低いとされていますが、
急に大量投与すると、
心臓や骨などに影響が出る事があるので、
少量の服用から、徐々に量を増やしながら、
適用量を決めて行きます。
ただし、
根本的な治療ではないため、一生服薬する必要があります。

・外科的治療
上記の「橋本病の急性増悪」の際など
甲状腺が急激に腫れて来る場合の選択肢として用いられます。
バセドウ病の外科的手術の場合は、
甲状腺ホルモンの過剰分泌を抑えるために、
一部、または部分切除を行いますが、
橋本病では、甲状腺の腫瘍が気管を圧迫して呼吸を邪魔するなど
周りの器官に影響を与えるのを防ぐのが最大の狙いです。

[記事]新川


参考文献:
『中医弁証学』
『黄帝内経 素問』
『黄帝内経 霊枢』
『中医病因病機学』
『[標準]中医内科学』
『中医基本用語辞典』
『やさしい中医学入門』
『いかに弁証論治するか』 東洋学術出版社
『基礎中医学』
『症状による中医診断と治療』 燎原書店

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