東洋医学には、
望・聞・問・切からなる四診というものがある。
・望診(ボウシン):視覚によって、全身・局所を観察すること。
要点として、
神(主に患者の精神状態)、
色(顔色、肌の血色や色味など)
形(患者の姿勢、動作、顔貌など) がある。
・聞診(ブンシン):聴覚と嗅覚によって病状を判断すること。
患者の言語、発音、呼吸、体臭、
咳やげっぷの出方、分泌物、排泄物のにおいなどから
病状を判断する。
・問診(モンシン):自覚症状、疾病の発生と経過、治療状況、
生活状態、体質および既往歴・家族歴などを問う。
・切診(セッシン):患者の身体に触れることで病状を知る方法であり、
脈診、腹診、経穴の反応を伺う切経などがある。
この中で、聞診を用いた診断で重要となる
【口臭】の解説を行う。

口臭とは、
口中の臭気を自覚あるいは他覚することである。
歴代の古書には、
「腥臭(セイシュウ)」
「口中膠臭(コウチュウコウシュウ)」
「口気穢悪(コウキエアク)」と記載されている。
古典によれば、
【景岳全書】(ケイガクゼンショ) より
“亦猶陰湿留垢之臭〜”
「またけだし陰湿留垢これ臭をなす」
とあり、口臭の要因として臓腑に湿や痰、
消化しきれなかったものなどが停滞すると熱を生じ、
それらが臭いの原因となると記載がある。
以下に、東洋医学における口臭の解説を行う。
【東洋医学による解説】
胃熱(イネツ)
【黄帝内経・霊枢】(コウテイダイケイ・レイスウ) 経脈篇より
“胃足陽明之脈〜下循鼻外、入上歯中、還出挾口環唇”「足陽明胃経の脈、
〜下りて鼻の外を循り上歯の中に入り、還り出で口を挟みて唇を環る」
とあり、
口中と胃の関係は深い。
胃熱の要因として以下のものが挙げられる。
◉飲食不節【景岳全書】(ケイガクゼンショ)より
“腸胃食積口臭,呑酸曖腐,脘腹脹滿,舌苔腐膩等”「腸胃に食滞があると口臭があり、酸っぱいものが口に広がり、
臭いのあるゲップが出て、腹が張ったり、舌の苔が分厚くなる。」
とあり、食滞と口臭の関係が挙げられている。
原因:
飲食の不節制により脾胃の運化が失調し、
食物残渣(ザンサ:残りカス)が停滞したために口臭が生じる。
特徴:
口臭に腐敗酸臭や食物臭があり、
腹満、食欲が無い、腐臭のある曖気、
舌苔が垢膩(コウジ:垢やあぶらのようなねっとりとした状態)
治法:消食導滞(ショウショクドウタイ:飲食物の積滞を解消する)
◉情緒の変動原因:
精神的な緊張により、
肝気が鬱屈することで化火し、
その熱が横逆することで胃を犯すことで口臭を生じる。
特徴:
頭痛、目の充血、酸苦味を伴う嘔吐物、胃脘部の灼痛を伴う。
治法:清胃泄熱(セイイセツネツ:胃を清し、熱を排泄する)
◉大腸の伝導不利大腸(腑)が通じていなければ、
胃気が飲食物をいくら下降させようとしても降りていかず、
ついには本来下るべき濁気が上逆し、口臭が起こる。
原因:
平素から陰液{インエキ:陰血や津液(シンエキ)}が不足がみられたり、
病が長引いたことで陰を損傷したり、
熱病後に津液が回復していないと、
大腸の潤いが少なくなり、伝導不利を起こす。
また、出産時に出血が多かったことで津液を損なうことも
要因の一つとして挙げられる。
特徴:
口や咽頭の乾燥が起こり、
腑気が通じず濁気が降りず上逆すると、
口臭とともに眩暈、頭痛を伴う。
治法:
潤腸通便(ジュンチョウツウベン:腸を潤し、便を通じさせる)
痰熱壅肺(タンネツヨウハイ)
【金匱要略】(キンキヨウリャク)より
“咳而胸滿,振寒脈數,咽乾不渴,時出濁唾腥臭,久久吐膿如米粥者,為肺癰,”「咳して胸満し、振寒し脈は数、咽乾き渇せず、時に濁唾腥臭を出だし、
久久に膿の米粥のごときを吐すは、肺癰たり」
原因:
肺熱などでみられ、もともと痰湿の多い体質の人が
感受した外邪が熱に変化することで起こる。
痰と熱が結びつき、肺に停滞して気血を灼傷し、
かたく結びつき膿癰(ノウヨウ:皮膚などが膿を伴って化膿した状態)を
形成したために口臭が生じる。
特徴:
咳嗽(ガイソウ:咳や痰)、痰あるいは膿血性の痰、
腥臭(セイシュウ:腥はなまぐさい)のある口臭、胸痛
治法:清肺化痰(セイハイカタン:肺の熱を冷まし、痰の産生を防止する)
西洋医学の見解
口臭の定義
口臭とは、本人あるいは第三者が不快と感じる呼気の総称である。
それに対して、口臭症とは、生理的・身体的・精神的な原因により
口臭に対して不安を感じる症状である。
口臭の分類
①生理的口臭
通常、口臭は唾液の抗菌作用によって抑えられているが、
起床直後、空腹時、緊張時は
唾液の分泌が減少し、細菌が増殖して口臭の原因物質である
揮発性硫黄化合物(VSC)が増加する。
これが生理的口臭の主な原因となる。
対策として、
歯みがきで細菌やVSCが減少し、食事をしたり、
水分を積極的に補給するようにすることで唾液量が増加すれば
急激に口臭は弱まる。
また女性の生理・妊娠時などホルモンバランス変化に伴う口臭、
乳幼児期、学童期、思春期、成人期、老齢期、
それぞれの年代固有の臭気(加齢臭)、民族的な口臭も報告されている。
②飲食物・嗜好品による口臭
ニンニク、ネギ、酒、タバコ等による口臭は一時的なもので、
時間の経過とともに臭いも無くなるが、
喫煙によってニコチンを摂取することで、
交感神経が優位になると身体が緊張状態になり、
唾液の分泌量が減少する。
また、
お酒に含まれているアルコールを体内で代謝していく過程で、
多量の水分を必要とするので、唾液の分泌量が減少し、
口臭を引き起こすことがある。
③病的口臭
病的口臭の90%以上は口の中にその原因があり、
歯周病、虫歯、歯垢、歯石、舌苔、
唾液の減少、義歯(入れ歯)の清掃不良などがあげられる。
それ以外の原因として、
慢性鼻炎、蓄膿症、慢性気管支炎、胃潰瘍、肝炎、糖尿病などが挙げられる。
④ストレスによる口臭
ストレスにより唾液の量が少なくなると口の中が臭くなります。
緊張状態になると、口の中の唾液はネバネバとした粘性の高い状態に変わる。
このような唾液には、ムチンという糖タンパク質が多く含まれており、
それが細菌の繁殖材料となることで、口臭を発生させる。
⑤心理的口臭
自分自身で強い臭いがあると思い込む状態で、
仮性口臭ともいわれる。
口臭の治療
病的な口臭の90%以上は口の中にその原因があり、
歯周病、虫歯、歯垢、歯石、舌苔、唾液の減少、
義歯の清掃不良などが挙げられる。
また、上記の③に記した様な口腔の疾患以外の症状に対しては、
それらへの治療を行う必要がある。
厚生労働省の見解
「口臭は自己識別が難しいこともあって、気にする人が多い一方で
強いにおいを無自覚な人も多いという社会的な健康問題となっています。〜〜厚生省(現厚生労働省)保健福祉動向調査(1999年度)によると、約3.3万人のうち約10%が「口臭が気になる」と回答しました。このデータは主観的な回答であるため、
国民の10%に口臭があることを示すものではありません。口臭のように鼻周囲で常時発生するにおいは嗅覚疲労(順応)という生体反応のため、自己評価しにくくなっています。そのため人々に不安を与える一方で、
強い口臭を持つ人を無自覚にさせています。」(厚生労働省HP e-ヘルスネットより引用)
参照
厚生労働省HP e-ヘルスネット
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp日本口腔外科学会
https://www.jsoms.or.jp兵庫県歯科医師会
https://www.hda.or.jp日本口臭学会
http://jams-site.kenkyuukai.jp/[記事:新川]
参考文献:
『中医弁証学』
『黄帝内経 素問』
『黄帝内経 霊枢』
『中医病因病機学』
『[標準]中医内科学』
『中医基本用語辞典』
『やさしい中医学入門』
『いかに弁証論治するか』 東洋学術出版社
『基礎中医学』
『症状による中医診断と治療』 燎原書店