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痛風の東洋医学解説

西洋医学からの解釈

痛風とは高尿酸血症を主な原因として起こる疾患である。

●高尿酸血症とは?

高尿酸血症とは、血中に尿酸と呼ばれる物質が多く存在することをさす。
尿酸の基準値は7.0mg/dlでこれを越えると高尿酸血症と呼ばれる。
高尿酸血症の人の2/3が無症候であると言われている。
高尿酸血症が原因で起こる疾患に、痛風、尿酸結石、腎症がある。


●どんな症状が出るのか?(典型的な臨床像)

急性の単関節炎が起こり、特に第一趾MTP関節に起こりやすい。
急激に痛くなるが、痛くない時はほぼ無症状である。(間欠的)
ただし発作を繰り返すと徐々に多関節炎となる傾向がある。
20年以上続く痛風罹患者では3/4に痛風結節を認める。
痛風結節は耳や肘などにできることが多い。
また高齢者の場合、初期から多関節炎を伴う場合も多く
男女比も1:1となる。




●どんな人に多いのか?(疫学)

成人の男性に多い。
尿酸値が8.5mg/dl以上であると発症する確率が上がると言われている。


●どのようにして治すのか?(治療)

主に生活指導を中心として治療を考える。
尿酸値が高すぎる場合は薬物治療も行う。

1、生活指導
尿酸の元となるプリン体はビールなどに多く含まれる。
ビールを飲むことで発作が起こると考える人が多いが
アルコール自体や清涼飲料水に含まれる果糖、
過剰なカロリーも尿酸値を上昇させることが知られており
食事の改善にはその点を考慮する必要がある。
またプリン体を極端に制限しても、
尿酸値はあまり下がらないとされており
全体的な食事の改善が有効である。
また尿酸を下げる食品として
乳製品、コーヒー、ビタミンCを多く含む食品があげられる。

2、薬物治療
尿酸排泄促進薬を使い、尿から尿酸を排泄させる。
排泄の途中で尿管結石ができることがあるので注意する。
もしくは尿酸生成抑制薬を使い、
プリン体が尿酸になるのを阻害する。


東洋医学的解釈

当時、科学が発達していなかったため
尿酸値という概念はまだなかった。
しかし当時の湯液家、鍼灸家による痛風の治療は
よく行われており、その臨床での観察眼は
現代でも大いに参考となる。

痛風に特徴的な症状である
関節炎は伝統的に痹証と呼ばれ
特に痛風は
歴節風(レキセツフウ)、白虎風(ビャッコフウ)、白虎歴節(ビャッコレキセツ)
と呼ばれてきた。

・痹証ヒショウとは?
「痹」とは塞がって通じないことを言う。
東洋医学の最古の医学書と言われる
『黄帝内経コウテイダイケイ』によれば
「風寒湿三気雑至、合而為痹」
訳:風寒湿(という身体に害をなす三種類)の気が混ざり合わさり、
身体に影響することで痹証となる。
つまり
風・寒・湿などの邪気(体に害を為すもの)
が人の経絡・肌肉・関節を襲い、
気血の運行を阻害することによって起こる病症を指す。

・歴節風は
東洋医学最初の病理学書
『諸病源候論ショビョウゲンコウロン・風病諸候フウビョウショコウ』に
「由飲酒腠理開、汗出当風所致也。亦有血気虚、受風邪而得之者。」
訳:飲酒によって腠理(汗腺)が開き、
そこに風という邪気が入って起こる。
とされ飲酒との関わりが当時から知られていた。
また
「風歴関節、与血気相搏交攻、故疼痛。血気虚、則汗出。
風冷搏於筋、則不可屈伸、為歴節風。」
訳:風邪が関節に侵入して、血気とせめぎ合うことで疼痛が起こる。
血気の方が弱ければ汗が出る。
さらに風冷の邪が筋肉を襲うと屈伸ができなくなり、
歴節風となる。
ともあり
先ほどの痹証の原因となる邪(身体を害するもの)と
正気(病に対する抵抗力)の闘争によって
病が形成される過程が分かる。

ここで正気の弱りにおいて
雑病(急性の伝染性疾患以外)の専著
『金匱要略(キンキヨウリャク):中風歴節病脈証并治(チュウフウレキセツビョウミャクショウヘイチ)』
では
「寸口脈沈而弱、沈即主骨、弱即主筋、沈即為腎、弱即為肝」
訳:寸口の脈(手首の脈)が沈んでおり、弱い。
(脈が)沈んでいることは(病の深さが)骨にあることを表し、
(脈が)弱いことは、(病の深さが)筋にあることを表している。
また
(脈が)沈んでいることは、(病が蔵府でいうところの)腎にあり、
(脈が)弱いことは、(病が蔵府でいうところの)肝にあることを、
表しているのである。

と書かれ、蔵府における
肝と腎の気血不足が内在素因である
と考えられる。

また外在素因としての痹証は
どの邪が強く発現するかによって分類される。

・鑑別とそれぞれの治法

・肝血虚
肝の血が損なわれることにより肝が主る部分(目、爪、筋など)
もしくは全身に症状が現れる。
血は滋潤作用を持つので乾燥や栄養不足による症状が多い。
治法:養肝
肝血を補う

・腎気虚
腎気が損なわれることによって腎が主る部分(耳、下半身、骨)
などに症状が現れる。
治法:補腎
(腎の気を補う。)

・行痹
風寒湿の邪の内、風邪の特性が特に見られるものを言う。
清代の総合医学書
『張氏医通(チョウシイツウ)』では
「行痹者、走注無定、風之用也」
訳:行痹とは、痛みが定まる所なく、まるで風の動きのようである。

と言い、痛みが固定しない遊走通が特徴である。
治法:去風(キョフウ)、場合によって利湿(リシツ)、散寒(サンカン)を加える

・痛痹
風寒湿の邪の内、寒邪の特性が
特に見られるものを言う。
『張氏医通』では
「痛痹者、痛無定処」
とあり、
痛くていてもたってもいられない激痛を特徴とする。
治法:散寒場合によっては去風、利湿を加える

・着痹
風寒湿の邪の内、湿邪の特性が
特に見られるものを言う。
『張氏医通』では
「着痹者、痹著不仁」
とあり一種のシビレが現れるのを特徴とする。
治方:利湿場合によっては去風、散寒を加える

治療においては
内在素因としての肝腎の気血不足
外在素因としての痹証(風寒湿邪ときに熱邪)
を考慮しながら患者に合わせて適宜治療する。

[記事]盧

参考文献:
『ジェネラリストのための内科外来マニュアル』医学書院
『臨床医学各論』医歯薬出版
『素問攷注』日本内経学会編
『諸病源候論』東洋学術出版
『金匱要略解説』東洋学術出版
『中医学基礎用語辞典』東洋学術出版
『張氏医通』中国中医薬出版

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