皮膚疾患は中医外科の分野に属する。
古代は皮膚科を「瘡瘍科」と呼び、
「瘡者皮外也、瘍者皮内也」(瘡は皮膚外の病証で、瘍は皮膚内の病証である)
というように皮膚疾患を瘡と瘍に大別して認識していた。
① 風
外風自然界の風が腠理に侵入すると、
体表の営気の機能が乱れ、筋肉・皮膚における
気血の流れが悪くなるため皮膚の症状が現れる。
内風主に体内の陰血不足が原因となって生じる(血虚生風)。
血虚のため筋肉・皮膚の栄養が不足状態となり皮膚に症状が現れる。
内風による皮膚疾患は外風よりも慢性化しやすく、
治りにくいことが多い。
② 湿気候・環境の影響をうけて外界から入り込んだ湿邪が、
飲食不節制あるいは脾の運化機能の低下によって生じた水湿が、
これが停滞すると皮膚疾患がおこる。
筋肉・皮膚に停滞した湿は取り除きにくく、皮膚症状をひきおこすか、
症状を悪化させる原因となる。湿邪が長期に内停すると熱化し、
湿熱の状態になることもある。
③ 熱夏季の高温、あるいは体内の熱が筋肉・皮膚に鬱滞することが、
皮膚の症状を引き起こす、あついは悪化させる病因となる。
④ 燥気候の燥邪の侵入、あるいは体内の陰血不足によって
皮膚が乾燥状態となり、潤いと栄養が欠乏すると、
皮膚の症状が現れる。
⑤ 瘀血長期的な皮膚疾患は局部だけではなく
全身の気血の流れに影響を与え、瘀血が生じる。
また、長期化した皮膚症状は、患者に精神的苦痛をあたえ、
肝鬱の原因となる。
肝気の鬱結は体内の気滞血瘀の状態をさらに悪化させる。
⑥ 臓腑失調皮膚疾患は皮膚の問題だけではなく、
臓腑の機能失調、あるいは病気による
気血の消耗が原因することも少なくない。
五臓六腑の機能を整えながら、
根本から皮膚の病症を改善する必要もある。
弁証論治 ① 風寒証十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)…辛温解表・去風止痒
・独活・防風・荊芥・柴胡・生姜…解表去風止痒
・桔梗…排膿
・川芎…去風活血
・茯苓…滲湿健脾
・樸樕・甘草…解毒
〔主治〕
瘡瘍の初期
〔方意〕
本方は日本の処方である。
中心の発散去風作用によって、
肌膚に鬱滞する風邪・寒邪を取り除き、発疹症状を改善する。
処方中の防風・荊芥は皮膚の掻痒感を改善する主薬で、
風寒掻痒に適する。
樸樕は民間薬で、解毒作用があり、
この作用は敗毒湯という処方名にとり入れられている。
本処方は皮膚の掻痒感がある
湿疹の初期、寒冷性蕁麻疹の初期に用いる。
このほか、去風解表薬が多いので、
外感風寒の感冒にも用いられる。
薬性は温に偏るので、皮膚の熱感が強い場合は用いてはならない。
② 風熱証消風散(しょうふうさん)…去風養血・清熱除熱
・防風・荊芥・牛蒡子・蝉退…去風止痒
・苦参・木通…清熱利湿止痒
・石膏・知母…清熱瀉火
・当帰・生地黄・麻子仁…養血潤燥
・蒼朮…燥湿去風
・甘草…清熱解毒・調和
〔主治〕
湿疹・風疹(風湿熱毒)
紅色の膨疹・湿疹が反復して
出没し掻痒がつよく、掻破すると滲出がみられる
〔方意〕
本方は皮膚科の主要処方で、
主に去風作用によって皮膚の掻痒感を改善する。
利湿作用もあるので、湿邪による湿痒も改善できる。
疏風を主体に清熱除湿を補助する。
祛風の荊芥・防風・牛蒡子・蝉退は、
腠理を開発して風邪を外透して除く。
散風燥湿の蒼朮・清熱燥湿の苦参・
滲利湿熱の木通は、湿熱の邪を除く。
清熱凉血の生地黄は和営活血の当帰・養血潤燥の麻子仁の配合は、
血熱を除き消耗した陰血を滋潤するためである。
甘草は、解毒および和中・調和諸薬に働く。
石膏と知母のすぐれた清熱作用により、
皮膚の熱感を取り、皮膚紅潮を改善する。
養血潤燥薬は皮膚の乾燥に対応する。
皮膚疾患の各症状を改善できる基本方剤で、広範囲に用いられる。
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防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)…疏風解表・瀉熱通便
・防風・荊芥・連翹・麻黄・薄荷 …疏風散邪止痒
・山梔子・石膏・黄芩…清熱瀉火
・大黄・芒硝…瀉熱通便
・滑石…利水清熱
・桔梗…排膿
・当帰・芍薬・川芎…養血和血
・甘草…清熱・調和
〔主治〕
悪寒・発熱・目の充血・鼻閉・口が苦い・
口乾・咽痛・胸が苦しい・咳嗽・粘稠な痰・
尿色が濃く少量・便秘
〔方意〕
本方剤は表の風熱と裏の実熱を同時に改善する方剤である。
疏風解表の防風・荊芥・麻黄・薄荷は、風邪を汗として除く。
瀉下の大黄・芒硝は二便を通じさせて熱邪を除去するので、
便秘の傾向がある場合に使用しやすい。
清熱の石膏・黄芩は肺胃の熱を宣泄し、
清熱利湿の山梔子・滑石は熱邪を小便として排除し、
いずれも裏熱を清熱する。
養血和血の当帰・芍薬・川芎、
和中緩急の甘草が配合されているので
正気を維護することができる。
掻痒を止める作用が弱いが、
特徴は清熱瀉火作用によって、
皮膚の赤味を改善できることである。
臨床では便秘をともなうニキビ・湿疹・アトピー性皮膚炎に用いられる。
③ 血熱型犀角地黄丸(さいかくじおうがん)…清熱解毒・凉血散瘀
・犀角(解毒)…清熱凉血
・生地黄(滋陰)
・芍薬(和血)
・牡丹皮(散瘀)
〔主治〕
夜間に増高する発熱・意識障害・
体動が多い・甚だしい狂躁状態がみられ、
さらに吐血・鼻出血・血便・血尿・不正性器出血
〔方意〕
本方は血熱を改善する主方である。
清熱解毒の犀角を中心に用いて、血分の熱毒を清解し、
甘寒の生地黄は凉血養血に働き
両薬によって凉血止血・養陰する。
辛苦・微寒の芍薬・牡丹皮は凉血清熱するとともに
活血化瘀に働き大量の寒凉薬による凝滞を防止し、
同時に離経の血の瘀滞を除く。
全体で清熱凉血・止血・滋陰・活血の効能を持ち、
止血して血瘀を残さず、滋陰して膩滞させない。
本処方は日本では入手できないが
組成の意にそった製剤を選択応用することもできる。
本方のかわりに「温清飲」を代用してもよい。
④ 湿滞型胃苓湯(いれうとう)…燥湿運脾・利水止瀉
・湿困脾胃で下痢が顕著な状態
平胃散に淡滲利水の五苓散を加えて、
分利する(利小便によって大便を固める)。
湿熱の場合は茵蔯を加える(茵蔯胃苓湯)
・悪心、嘔吐、腹満がつよいときには藿香・半夏を加える(七味除湿湯)
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啓脾湯(けいひとう)…補気健脾・化湿・滋補脾陰
・本方は参苓白朮散から薏苡仁・白扁豆、縮砂、桔梗を除き
利湿の沢瀉・消導の山楂子と和胃の生姜・大棗を加えたものである。
参苓白朮散とほぼ同じ効能をもち、滋補脾陰の効果はやや劣る。
⑤ 血虚型当帰飲子(とうきいんし)…養血潤燥・熄風止痒
・四物湯(当帰・生地黄・芍薬・川芎)・何百烏…養血潤燥活血
・黄耆…益気・生肌
・防風・荊芥・白蒺藜…散風止痒
〔主治〕
皮膚掻痒・皮膚の乾燥・細小の落屑や紅色丘疹
〔方意〕
本方剤は皮膚科に主方で、血分薬が多く配合され、
主として皮膚乾燥、皮膚掻痒などに用いる。
滋陰養血の当帰・生地黄・芍薬・何百烏は、
肝血を滋補して柔肝熄風する。
活血の川芎は、血虚で渋滞した血行を促すとともに、
肝の疏泄を舒暢して内風の発生を防止する。
白蒺藜は疏肝・平肝熄風に働くと同時に祛邪の効能を持っており、
祛風止痒の防風・荊芥と共同し、内・外の風邪を除いて瘙痒を止める。
黄耆は「気よく血を生ず」の効果をあげ、
衛気を充盈させて祛邪の力を高める。
処方の薬性は温に偏るので、
皮膚の熱感が強く、赤味がある時は不適当である。
⑥ 肝腎不足型六味地黄丸(りくみじおうがん)…滋補肝腎
・熟地黄・山茱萸・山薬…滋補肝腎(三補)
・牡丹皮・茯芩・沢瀉 …利水清熱(三瀉)
〔主治〕
腰や膝がだるく無力・頭のふらつき・
めまい感・耳鳴・聴力減退・盗汗・遺精・
消渇・身体の熱感・手のひら足のうらのほてり
〔方意〕
本方は肝腎を補益する基本方剤である。
三瀉の作用もあり、処方の性質はおだやかで、
長期使用が可能なものである。
肝腎虚弱の症状、虚弱体質、アトピー性皮膚炎の安定期に用いられる。
皮膚症状を改善する作用がないので、皮膚症状が強い場合は不適当である。
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麦味地黄丸(ばくみじおうがん)…滋補肺腎
・六味地黄丸+麦門冬・五味子 …潤肺滋膚
〔主治〕肺腎陰虚の咳嗽・呼吸困難・潮熱・盗汗など
〔方意〕
本方剤は日本の薬局で販売されている中成薬で、
補腎の「六味丸」に肺の陰津を補益する
麦門冬と五味子を加味した方財である。
肺が主っている皮膚の乾燥感を潤すこともでき、体質改善も考えられる。
治法・処方疏風止痒法配穴:
風池・風門・曲池・風市・血海
主治証候:
全身に掻痒感が起こるが皮膚に変化は無い。
あるいは大小不揃いの膨疹が出現する。
あるいは紅斑・丘疹・強い掻痒感が現れる。
熱を挟む場合は、皮膚の損傷が鮮紅色で灼熱感があり、
激しい痒みを伴い、温まると症状が重くなり、冷やすと軽減する。
寒を挟む場合は、皮膚の損傷が淡紅色で、
冷やすと症状が重くなり温めると緩解する。
適応範囲:
本法は風邪が肌膚に客して起こる皮膚病に適する。
皮膚掻痒感・蕁麻疹・痒疹・温疹などの
すべての急性・慢性の掻痒性皮膚病は
本法の施術を参考にできる。
配穴処置の意義
風池・風門:
風池は足少陽胆経と陽維脈の会であり、
陽維脈は一身の表を主る。
風池には本穴は外風を散じ、内風を消す作用がある。
経穴の命名がその主治の特徴を表している。
風門は足太陽膀胱経の督脈の会で、風邪の侵入する門戸であり、
別名を「熱府」という。
両穴に刺穴して瀉すと、去風達邪をはかることができる。
曲池・風市・血海:
曲池は宣気行気、風市は消風止痒、血海は活血散瘀の経穴なので
これらの経穴を組み合わせて、血が巡れば風は自然と滅し、
風が消えれば痒みは自然と止まる。
清熱涼血法配穴処方:
心兪・曲池・合谷・血海・三陰交
主治証候:
皮膚の赤みが強く痒い。
丘疹と小さな水疱を伴い、掻き壊すとじくじくと水液が流れだし
重症では糜爛(びらん)して瘡になる。
あるいは皮膚に鮮紅色の紅斑や紫斑が出現する。
あるいは皮膚に発赤・腫脹・熱感・疼痛があり、
常に全身に発熱・口や唇の乾燥
赤色尿と大便秘結を兼ねる。
適応範囲:
本法は火熱の邪が肌膚に蘊結して起こる皮膚病に適応する。
急性湿疹・アレルギー性皮膚炎・アナフィラキシー様紫斑病・
接触性皮膚炎・多形性紅斑などの紅斑性の皮膚炎では、
本法の施術を参考にすることができる。
配穴処置の意義
心兪:
『素問』至真要大論に、「諸痛痒瘡は皆 心に属す」とあるように、
心兪は瀉法で刺針すると、清心降火と涼血化瘀をはかることができる。
曲池・合谷:
この両穴は風熱を疏すことで気血を宣導し、熱の塞がりを瀉して
絡脈を清利することができるので、解外清内の効果がある。
血海・三陰交:
この両穴は気血を行らせて瘀結を疏散し、
精血を益して経脈を栄養することができるので、
去瘀生新の妙がある。
清熱散瘀法
配穴処方:
大椎・霊台・曲池・血海・皮膚の局部
主治証候:
毛髪の比較的多い場所に散在性の紅色丘疹
および小さい膿疱が発生し、痒みと痛みを伴う。
あるいは疔・セツが起こり、発赤・腫脹・熱感・疼痛があり、
重症では化膿して糜爛(びらん)する。
あるいは皮膚が赤く腫れて痛み、朱を塗ったように赤くなり、
境界がはっきりし、圧迫すると退色し、触ると灼熱感が伝わってくる。
あるいは手足の皮膚損傷が先行して感染し、
化膿して、引き続き鮮紅色の救心性線条が現れ、
患肢は腫脹・熱感・疼痛が起こり、付に痛みを伴った
ぐりぐりが生じる。
重症では悪寒発熱・全身の不快感を伴う。
適応範囲:
本法は熱毒が肌膚に瘀結した証に適用する。
毛嚢炎・疔・セツ・丹毒・急性リンパ管炎などは
本法の施術を参考にすることができる。
配穴処置の意義
大椎:
督脈に属し、諸陽の会であり、刺針によって瀉法を施すと
疏邪解熱をはかることができる。
霊台:
先人たちが施術に用いた経験穴で、督脈に位置する。
同穴への瀉法は、陽邪の火毒を疏泄することができる。
曲池:
手陽明大腸経の「合」穴であり、
「走りて守ざる」といった瀉法で刺針すると
宣気行血・陽明の鬱熱を清す・解毒消腫の作用を発揮できる。
血海:
同穴は脾血が帰り集まる海なので、
「迎えて之を奪う」といった瀉法で刺針すると
涼血化瘀・気血の壅滞を祓う・散結定痛の作用を発揮できる。
合谷:
高熱が退かない場合あるいは皮膚損傷が頭部や顔面部にある場合は、
合谷への瀉法を加え、陽明の火毒を泄する曲池の作用を助ける。
尺沢・委中:
肢体の発赤・腫脹・熱感・疼痛が甚だしい場合は、
尺沢と委中に刺針して出血させ、泄熱排毒・散瘀消腫をはかる。
清熱除湿法配穴処方:
曲池・内庭・陰陵泉・三陰交・血海
主治証候:
皮膚に紅斑・水疱が出現し、
群れをなして帯状に並び、灼熱感と刺痛が起こる。
あるいは丘疹・小さな水疱が出現し、
灼熱掻痒感があり、掻き壊すと糜爛して滲出液がでてくる。
あるいは皮膚の掻痒感が長く続き、
長時間掻くとひっかき傷・血痂・皮膚の肥厚が出現し、
重症では糜爛して滲出液がでてくる。
適応範囲:
本法は湿熱が肌膚に蘊結して起こった皮膚病に適用する。
帯状疱疹・湿疹・皮膚掻痒症などは、本法を参考にすることができる。
配穴処置の意義
曲池・内庭:
手陽明大腸経の「合」穴曲池は疏風清熱が、
足陽明胃経の「滎」穴内庭は清胃瀉火が可能である。
陰陵泉・三陰交:
足太陰脾経の「合」穴陰陵泉と交会穴の三陰交を瀉法で刺針すると
運脾利湿をはかることができる。
血海:
同穴への瀉法は涼血化瘀が可能となる。
養血潤膚法配穴処方:
膈兪・脾兪・腎兪・風池・曲池・足三里・三陰交
主治証候:
皮膚損傷は淡色か灰白色の面状で肥厚してざらつく。
掻痒があり落屑(らくせつ)して牛皮のような状態になる。
あるいは皮膚が乾燥して、落屑し、激烈な掻痒があり、
掻くと点々と血痕が残る。
適応範囲:
本法は血虚風燥によってひき起こされる皮膚病に適用する。
配穴処置の意義
膈兪:血の会なので、同穴を補すと養血と活血がはかれる。
脾兪・足三里:
脾胃は後天の本で、生化の源なので、脾兪と足三里を補すと、
血の源を資生することができる。
腎兪:
腎は先天の本で、蔵精の臓なので、
腎兪を補すと、陰精の欠損を補うことができる。
三陰交:
さらに肝・脾・腎三経の会である三陰交を組み合わせると、
三陰をすべて補すことができる。
風池・曲池:
両穴への軽瀉法は、去風止痒がはかれる。
皮膚損傷局部への針灸は、その部分の気血の流れを流暢に調えて、
活血潤膚をはかることができる。
内関・神門:
動悸と不眠を伴う場合には内関・神門を加えて、養心安神をはかる。
補気益血法配穴処方:
膈兪・気海・脾兪・血海・足三里
主治証候:
蕁麻疹の反復発作。
膨疹は淡色でいつまでも治らず、疲労が蓄積すると悪化する。
あるいは潰瘍の口が癒合せず、肉芽は蒼白である。
あるいは老人性の皮膚乾燥症による掻痒。
常に顔面が白く艶がない・精神的疲労と脱力感・
納呆〔食べ物が食べられない〕
熟睡できない・動悸と息切れなどを伴う。
適応範囲:
本法は気血両虚による皮膚病に適用する。
慢性蕁麻疹・皮膚の慢性潰瘍・老人性の皮膚掻痒症などで、
気血両虚の症状が見られる場合は、
いずれも本法の施術を参考にすることができる。
配穴処置の意義
脾兪・足三里:
脾胃は後天の本で生化の本であるので、脾兪と足三里を取って鍼灸を施すと
補脾益機によって化源を開くことができる。
気海:
元気の海であり、神闕は真気と係わる所であるので、
益気正気・培元固本の効能をもっている。
膈兪・血海:
どちらも調血の要穴なので、
この両穴に補法を加えると養営生血が可能となり
瀉法を加えると活血去瘀が可能となる。
補益肝腎法配穴処方:
肝兪・腎兪・太谿・三陰交
主治証候:
頭髪が面状に脱落し、
頭皮が光滑になり長時間、髪が生えてこない。
あるいは顔面部に不揃いの黄褐色の斑が左右対象に生じる。
常に頭昏[めまい]・不眠・耳鳴り・
目眩[目がくらくらして見えない]
腰や膝がだるくて力が入らない・月経不順などの症状を伴う。
適応範囲:
本法は肝腎両欠よってひき起される皮膚病に適用する。
斑禿・黄褐斑[肝斑]などで肝腎不足の症状が見られる場合は、
いずれも本法の施術を参考にすることができる。
配穴処置の意義
肝兪・腎兪:
肝兪と腎兪は肝・腎両臓の経気が注輸する場所なので、両穴に鍼灸を施すと
補肝益腎をはかることができる。
太谿:
足少陰腎経の「輸」穴なので、
同穴に鍼灸を施すと、滋腎精が可能となる。
三陰交:肝・脾・腎三経の会であり、
補法を用いると、三陰を調補して、
神機[生命の働き]を旺盛にし、
精血を双補するので、正に固本の治になる。
皮膚疾患の西洋医学的見解
接触性皮膚炎外来性の物質の接触によって生じる皮膚炎をいう。
俗に「かぶれ」ともいう。
一次刺激性接触生皮膚炎は接触条件が十分であれば
誰にでも生じ得るものなので
酸、アルカリ、有機溶剤、洗剤、金属、植物、果物、
日用品、化粧品、医薬品など
日常の生活で接触しうるほとんどすべての物質が接触原となりえる。
主婦の手荒れが代表的である。
化学薬品などによる極端なものが「ただれ」である(毒物生皮膚炎)。
〔疫学〕
発生頻度は高い
〔症状〕
急性期には、接触部位にかゆみ、紅斑、浮腫を生じ、
紅色丘疹、漿液性丘疹。慢性期になると、それぞれの個疹が癒合して
浸潤病変、苔癬化病変に移行する。
〔診断〕
特徴的な皮膚所見から診断する。
原因物質は無数で、ウルシ、ニッケル、ゴム製品
添加物など日常生活環境中に多数存在する。
〔治療〕
接触原を洗い流し、局所を清潔に保つ。
症状に応じて、副腎皮質ステロイド薬、亜鉛華単軟膏などを塗布する。
かゆみ防止には抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬を投与する。
〔経過・予後〕
経過は良いが、接触原を特定して回避しておかないと再発する。
アトピー性皮膚炎アトピー素因の個体に発生しやすい湿疹様変化である。
乳幼児では滲出傾向の強い鮮紅色斑で始まり、
頭、顔、頚などから体幹、四肢へと拡大する。
漿液性丘疹、痂皮などを伴うが、重症例ではびらん、浸潤などをきたす。
加齢とともに鮮紅色調は薄れ、乾燥傾向、
毛孔性角化などが目立つようになる。
慢性に経過し、完成された病巣では苔癬化が著明であるが、
機械的刺激を受けやすい
部位が侵されやすい。痒みは常に著しく、しばしば発作的である。
皮疹は季節的消長を示すことが多い。
多くは思春期前に軽快するが、10〜20%の症例は
成人後に持ち越すことになる。
多くは乳幼児期に乳児湿疹として発症し、年齢が進むとともに
異なった皮膚症状を呈する広範囲の湿疹性皮膚疾患である。
〔疫学〕
罹患率は、学童で6~8%、一般人口で1~3%である。
〔成因〕
成因は不明である。
アレルギー性鼻炎や気管支喘息との合併が多いこと、
血清IgE値が高いこと、特異的IgE抗体が存在することなどから、
I型アレルギー機序の関与が考えられる。
〔症状〕
季節変動があり、
冬から春にかけて悪化することが多い。
年齢的に症状に差異がある。
①乳幼児期(3歳頃まで)顔面、頭部に紅斑、
丘疹が出現し頸部や体幹、四肢へと拡大する。
湿潤傾向が強く、痂皮を伴う。
②幼少期(4~10歳)湿潤傾向は減弱し、乾燥傾向を示す。
頸部や関節窩などに苔癬化局面ができる。
③思春期、成人期思春期頃までに軽快する症例が多い。皮疹は乾燥傾向が強く、
関節窩に苔癬化局面が限局していることが多い。
〔診断〕
特徴的な皮膚症状、家系内発症などで診断する。
〔治療〕
日常の生活環境や全身を清潔に保つことが大切である。
薬物療法としては、保湿剤やステロイド外用薬を
適宣使用し、必要に応じて抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬などを服用する。
〔経過・予後〕
本来は思春期頃までに軽快するが、
成人まで持ち越すことや、
成人で発症することもある。
蕁麻疹(じんましん)蕁麻疹(じんましん)は局所の発赤、かゆみを伴う膨疹で、
数分から数時間後に跡形なく消失する
一過性の、表在性、局所性の真皮上層の浮腫である。
膨疹、発斑とも呼ばれる。
肥満細胞からの化学伝達物質の遊離により
毛細血管の透過性が亢進した結果発生する。
その遊離にはアレルギー反応による場合と非特異的刺激による場合がある。
1ヵ月以内に消失するものを急性蕁麻疹、
1ヵ月以上続くものを慢性蕁麻疹という。
〔成因〕
蕁麻疹を起こす原因は、食物、薬物、吸原、感染、物理的刺激、心因
など、多岐にわたる。発生メカニズムは、
①IgEを介するI型アレルギー
②補体活性化を介する肥満細胞(マスト細胞)かた化学伝達物質遊離
③非特異的刺激による化学伝達物質遊離
④アスピリンなど非ステロイド抗炎症薬などによる。
〔症状〕
皮膚の発赤、かゆみが先行し、その部分に丘疹状膨疹を生じ、
線状、円形、地図上に拡大し、数時間のうちに消失する。
〔診断〕
臨床経過、皮疹の性状から診断する。
アレルギー機序を疑うときには、それを回避する。
〔経過・予後〕
急性蕁麻疹には原因がなくなれば消失する。
原因不明の慢性蕁麻疹は長期間にわたることが少なくない。
参考文献:
『医学辞典』医学書院
『医学辞典』南山堂
『いかに弁証論治するか』
『中医弁証学』
『中医病因病機学』
『針灸学 〔経穴篇〕』
『針灸学 〔臨床篇〕』
『中医針灸学の治法と処方』東洋学術出版社
『中医臨床のための方剤学』
『中医臨床のための中薬学』神戸中医学研究所