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認知症・アルツハイマー病の東洋医学解説

東洋医学では認知症・アルツハイマー病という病名はなく、
認知障害には様々な症状があるが
(鬱証→https://www.1sshindo.com/explanation/depression.html
不眠症→https://www.1sshindo.com/explanation/insomnia.html
も関連してくる。)
ここでは主な症状である健忘について詳しく解説します。


健忘については、東洋医学の古典において
様々な表現で記載されている。

『黄帝内経 素問(こうていだいけい そもん)』
四時剌逆從論篇(しじしぎゃくじゅうろんへん)

“冬刺肌肉、陽氣竭絕、令人善忘。”

訳:冬に肌肉に刺鍼すると陽気は竭絶して記憶力が減退する


『黄帝内経 素問(こうていだいけい そもん)』
調経論篇(ちょうけいろんへん)

“余巳聞虚実之形不知何以生。
 ~血并於下、気并於上、乱而喜忘。”

訳:虚実の状況については聞いたが、
  それらがどのようにして生ずるのかはまだわからない。
  ~血が下部に併し気が上部に併すると
  精神が平静さを欠き、よく物忘れをするようになる。


『黄帝内経 霊枢(こうていだいけい れいすう)』
本神篇(ほんじんへん)

“腎盛怒而不止則傷志、志傷則喜忘其前言、…”

訳:大いに怒り止まなければ腎の蔵する志が傷られ、
  志が傷られれば記憶力が減退し、…


『諸病源候論(しょびょうげんこうろん)』
卷之三十一 癭瘤等病諸候(えいりゅうとうびょうしょこう)(凡一十五論)
著:巢元方(そうげんほう・550年~630年)

多忘候(たぼうこう)

“多忘者、心虛也。
 心主血脈而藏受於神、若風邪乘受於血氣,
 使陰陽不和、時相並隔、乍虛乍實、
 血氣相亂、致心神虛損而多忘。”

訳:多く忘れる者は、心が虚している。
  心は血脈を主り神を蔵する。
  もし血気が風邪を受けて乗ずれば
  陰陽が和せず 時に相しまた隔すれば、
  たちまち虚し たちまち実する。
  血気が相乱れ、心神虚損し健忘に至る。


上記のように古典では
善忘、喜忘、多忘と表記されており、
文献によっては好忘とも表記される。

健忘は精神薄弱の物忘れとは異なり、
精神薄弱は先天的な知能低下で
白痴(はくち・精神遅滞の重度のもの)を呈することもある。
また、老人で体力が衰えたために健忘を伴うことがあるが
多くは生理現象であり、疾病による健忘ではないので
ここでは割愛し、病理的な健忘を東洋医学的に解説する。


虚証


腎精不足(じんせいぶそく)

『医林改錯(いりんかいさく)』にて
著:王清任(おうせいじん・1768年~1831年)

“高年無記性者、脳髄漸空”

訳:高齢で記憶がなくなる者は、
  脳髄がしだいに空虚になるからである。


と指摘されているように、
腎は精を蔵し、骨を主り髄を生じ、脳に通じるので
腎精が不足すると脳髄が空虚になって発症する。
慢性疾患による気の消耗から発生する認知症の多くは腎虚に属する。

特徴:
健忘、痴呆状態、歯の動揺脱落、白髪、筋力が弱い

治法:
塡精補髄(てんせいほずい・体の基礎物質である精の補充と髄液を補充すること)


心腎不交(しんじんふこう)

『張氏医通(ちょうしいつう)』(1695)にて
張璐(ちょうろ)1617年~1700?年

“健忘者、倶責之心腎不交”

訳:健忘は、ともに心腎不交にこれを責す


と指摘されている。
原因は、遺精(いせい・性行為以外の局面で精液が漏れる病証)
滑泄(かっせつ・排便を自制できずもらしてしまう大便失禁のこと)
久病(くびょう・長期間の病気、長患い)
房室不節(ぼうしつふせつ・早産、中絶、勞倦(体の使いすぎ))などで
腎陰(じんいん・腎中の精気を基礎物質にした生体各蔵の陰液の根本)が消耗し、
心陰(しんいん・心臓の陰液であり、多くは営血を指す)を滋潤できないために
心火(しんか・心の機能活動を現すものであり、生体全体の機能活動を推動する作用がある)
が腎陰を消耗したためである。

①心腎陰虚(しんじんいんきょ)
心火旺(しんかおう・心腎陰虚が主で、心火旺が付随している)
不眠・動悸・焦燥感・腰や膝がだるく無力・
盗汗(とうかん・寝汗のこと)・遺精・舌質が紅・無苔・脉が細数

②心火熾盛(しんかいせい)・下却腎陰(かきゃくじんいん)
心火による腎陰虚で、上熱下虚を呈する
健忘・焦燥感・口渇・口内や舌のびらん・顔面紅潮・
腰や膝がだるく無力・尿が濃い・便が硬い

治法:
交通心腎(こうつうしんじん・心腎不交の治療法)
①心腎陰虚
滋陰降火(じいんこうか)・養心安神(ようしんあんじん)を主
心陰虚(しんいんきょ)が主であれば天王補心丹(てんのうほしんたん)
腎陰虚が主であれば六味丸(りくみがん)

②心火熾盛・下却腎陰
清火瀉火(せいかしゃか・熱が過剰な状態を改善すること)
滋補腎陰(じほじんいん・腎陰を補って腎を強くすること)し、
黄蓮阿膠湯(おうれんあきょうとう)を用いる


心脾両虚(しんぴりょうきょ)

『済生方(さいせいほう)』
著:厳用和(げんようか・1200年?~1267年?)

“蓋脾主意與思、心亦主思、思慮過度
 意舎不清、神宮不職、使人健忘。”

訳:思うに脾は意と思を主り、心また思を主り、
  思慮過度なれば、意舎は清ならず、神宮は職さず、
  これをして健忘する。


『類証治裁(るいしょうちざい)』 卷之四・健忘
著:林珮琴(りんはいきん・1772年~1839年)

“健忘者、陡然忘之、盡力思索不來也。
 夫人之神宅於心、心之精依於腎、而腦為元神之府、
 精髓之海、實記性所憑也。”

訳:健忘は、陡然(とうぜん・急に、突然、不意に)としてこれを忘れ、
  力を尽くし思索しても思い出せない。
  それ人の神は心に宅し,心の精は腎に依りて、
  腦は元神の府、精髓の海で、
  実に記性(記憶する能力)の凭(たよ)るところである。


心は神(しん・神志、人の意識・精神・思惟活動を指す)を蔵し、
脾は思(し・思考、思慮のこと。 思うこと)を主る。
思慮過度・疲労などは心脾を損傷し、脾が虚すると
水穀の精微(すいこくのせいび・飲食物の消化によって胃で生成され、
脾で運ばれる滋養物質のこと)
を化生できず血を産生しないので
心血(しんけつ・心臓が統轄する血を指し、脈管内を流動する血液のこと)が虚し、
心血が虚すと脾を充養できない。
心火(しんか・心の機能活動を現すものであり、生体全体の機能活動を推動する作用がある)
が不足しても、脾を温めることができず脾の運化が衰える。
以上のようなことから心脾両虚(しんぴりょうきょ)が生じ、
心脾の気血が不足して
神明(しんめい・人の精神、意識、思惟活動を指す)を守れず、
健忘が発生する。

特徴:
健忘・動悸・驚きやすい・多夢・眠りが浅いなどの
心の気血不足の症状とともに、食欲不振・膨満感・泥状~水様便
倦怠無力などの脾気虚の症状がみられることである。

舌質は淡・舌苔が白・脈が細弱などは
気血両虚(きけつりょうきょ・気虚と血虚が同時に存在する証候)を示す。

治法:
補益心脾(ほえきしんぴ・心と脾の気を補う)



実証


痰濁擾心(たんだくじょうしん)

『丹渓心法(たんけいしんぽう)』
著:朱震亨(しゅしんてい・1281年~1358年)
  別名:朱丹渓(しゅたんけい)

“健忘、精神短少者多、亦有痰者。…
 健忘者、此証皆由憂思過度、
 損其心胞、以致神舍不清、遇事多忘”

訳:健忘は精神短少によるものが多く、また痰を有するもの…
  この証多くは思憂過度により、その心包を損し、
  もって神舎不清を致し、事に遇いて忘れること多し。


痰濁擾心の健忘は、
情緒の抑うつ肝気鬱結が生じ、
このために脾の運化が失調して水湿が化さず痰濁が生じ、
痰が気とともに上逆し神明を擾乱して発生する。

特徴:
健忘が短期間のみ発生し、
頭のふらつき、回転性眩暈などの痰濁上擾の症候、
胸苦しい、悪心(おしん・嘔気を催すが胃の内容物を吐けず、酸水のみを吐き出す症状)など
の気滞の症候、痰や涎(よだれ)が多い、
喘鳴(ぜんめい・呼吸が促迫し、呼吸時にのどに痰鳴音が生じる症候)などの
痰涎壅塞の症候、
言語錯乱、泣いたり笑ったりするなどの痰迷心竅の症候を伴うことである。
舌苔が膩・脉が弦滑は痰の存在を示す。

痰が長期間停滞し鬱して化熱するか、情緒の激動で化火し、
痰火となって神明(しんめい・人の精神、意識、思惟活動を指す)を
擾乱(じょうらん・入り乱れて騒ぐこと)した場合には
健忘、イライラ、眩暈、頭痛、顔面紅潮、
咽の乾燥感、胸苦しい、呼吸促迫、咳嗽、黄痰、
舌苔が黄膩、脈滑などを呈する。

治法:
化痰寧心(けたんねいしん・痰を除き、精神不安状態を安定させること)
清化熱痰{せいかねったん・熱化した痰
(長期間鬱して化火 又は情緒の激動で化火した場合)を除去する}


瘀血衝心(おけつしょうしん)

『傷寒論(しょうかんろん)』弁陽明病脉証并治 二百三十七章
著:張機(ちょうき・150年~219年)
  別名:張仲景(ちょうちゅうけい)

“陽明証、其人喜忘者、必有蓄血。
 所以然者、本有久瘀血、故令喜忘。…”


訳:陽明の証があり、患者に健忘がある場合は必ず蓄血がある。
  その患者にはもともと瘀血があり、
  これが患者に健忘をおこさせている。…


瘀血衝心の健忘は、
瘀血(おけつ・体内の血液が流通しない状態)が停滞して
脈絡を阻滞したために、
気血が行らず心神(しんしん・心には人の精神・意識・思惟活動をコントロールする働きがある)
が栄養を受けないか、神識が擾乱(じょうらん・入り乱れて騒ぐこと)されて発生する。

特徴:
健忘が突然発生して治療しがたいことが多く、
腫瘤、疼痛、出血、口をすすぐだけで飲みたくない、
便は黒く硬いが排便はスムーズ、
舌質が紫暗で瘀点
(舌面に生じた青紫、暗いシミのような斑点で隆起していない)がある、
脈が細渋あるいは結代などの血瘀の証候を呈することがある。

治法:
活血化瘀
(かっけつかお・血流を良くして、流れの悪くなった状態を改善すること)
攻逐蓄血(こうちくちっけつ・血の滞りを追い払うこと)


西洋医学的見解

認知症とは
「生後いったん正常に発達した
種々の精神機能が慢性的に減退・消失することで、
日常生活・社会生活を営めない状態」をいいます。
つまり、後天的原因により生じる知能の障害である点で、
知的障害(精神遅滞)とは異なるのです。

多彩な認知欠損。
記憶障害以外に、失語、失行、失認、遂行機能障害のうちのひとつ以上。
認知欠損は、その各々が社会的または
職業的機能の著しい障害を引き起こし、
病前の機能水準から著しく低下している。
認知欠損はせん妄の経過中にのみ現れるものではない。
痴呆症状が、原因である
一般身体疾患の直接的な結果であるという証拠が必要。

もっとも近年では、
認知症早期診断の進歩により、
こうした診断基準を満たす状態は、かなり進行した認知症であり、
早期治療にはつながらないという意見があります。
そこで、早期診断を可能にする新たな診断基準も作成されています。

認知症の原因としては
アルツハイマー病が最も多いとされますが、
様々な疾患が認知症の原因になりえます。
とくに、中枢神経系に病巣をもつ次の疾患が代表的です。

ピック病など前頭側頭型認知症は、
記憶障害よりも性格・行動面の変化が目立ちます。

レビー小体型認知症は、
アルツハイマー病とパーキンソン病の特徴を併せもつ疾患です。

脳血管性認知症には様々なタイプがありますが、
その診断には認知症状態・脳血管疾患の存在、
認知症症状が現れることと
脳血管障害発症の時間的関連性が必要となります。
治りうる認知症、つまり可逆性認知症もあります。
うつ病の仮性認知症と薬物惹起性の認知症様状態が有名です。

スピロヘータ、HIVウイルス、プリオンなどによる
感染症が認知症の原因となることもあります。

患者数
2010年では200万人程度といわれてきましたが、
専門家の間では、すでに65歳以上人口の
10%(242万人程度)に達しているという意見もあります。
(その後の厚生労働省の調査結果では
2012年に約462万人の認知症の患者数と推計されており、
2025年には700万人を超えるとの推計値を発表。
65歳以上の高齢者の内、5人に1人が認知症に罹患する計算となる。)

症状
どの認知症にも共通する症状は、
中心的な記憶などの認知機能障害と、
かつては辺縁症状と呼ばれた
行動異常・精神症状に大別されます。

前者では、
記憶障害(新しい情報を学習したり、
以前に学習した情報を思い出したりする能力の障害)が基本になります。
それに失語、失行、失認、実行機能の障害も重要です

記憶面
記憶力の中でもとくに記銘力障害、
いい換えれば「さっきのことが思い出せない」ことが目立ちます。
たとえば「夫婦で会話中に電話が鳴ったので、
奥さんがそれに対応して数分後に再び席についた。
そこで先刻の話題に戻ろうとしても、ご主人はその内容を思い出せなかった」
というような例が典型です。
また、すでに冷蔵庫にたくさん入っている
食品を繰り返して買うような記憶障害の現れ方も少なくありません。

失語、失行、失認
失語とは、言葉の理解ができないこと、
しゃべりたい言葉がしゃべれないことです。
失行とは、運動機能に関する障害はないのに、
意味のある動作、たとえば
「くわえたタバコにライターの火をつけること」
ができないような障害をいいます。
失認とは、感覚に関した機能は損なわれていないのに、
対象を正しく認知・認識できないことです。
よくあるのは、方向感覚の悪さ、
何度も行ったことのある
娘の自宅を訪ねようとして道に迷うような例です。

実行機能障害
計画をしてその準備をし、首尾よくこなしてゆく能力、
いい換えると「段取り能力」のことを実行機能といいます。
そのような障害の典型例として、
女性なら、料理のレパートリーが減り、
限られたメニューを繰り返しつくる傾向がみられます。

認知症の精神症状・行動異常
多くの家族は、記憶など認知機能の障害ではなく、
こうした問題ゆえに受診を決心されます。
暴言・暴力、徘徊・行方不明、
妄想などが問題になりやすいものです。
こうした問題は数カ月から数年にわたって持続し、
在宅介護ができなくなる直接因になりがちです。
なお、それぞれの認知症性疾患には特徴的な症状があります。
たとえばレビー小体型認知症では
特徴的な幻視や寝ぼけ症状、
ピック病なら万引きなど反社会的などが特徴的です。

治療法
現時点での認知症の治療薬とは、
基本的にアルツハイマー病に対するものです。
なお、脳血管障害の治療薬は多いのですが、
脳血管性認知症自体を対象にする薬剤はありません。
アルツハイマー病には、
塩酸ドネペジルなど抗コリンエステラーゼ阻害薬が有効です。
また、適応は今のところありませんが、
レビー小体型認知症には有効なことがあります。
もっともアルツハイマー病に対する塩酸ドネペジルは、
あくまで対症療法薬であって、多少進行を抑えるにすぎないのです。
さらに本剤は、そのほかの変性性認知症には無効です。
なお従来、代表的な可逆性認知症とされてきた
正常圧水頭症については、
脳外科的なシャント術の有効性が示されています。

認知症を根治できる薬物療法が存在しない現状では、
効果的な非薬物療法により
薬物療法を補って治療効果を高める必要があります。
認知症への心理・社会的な治療アプローチ(非薬物療法)の標的は、
認知、刺激、行動、感情、の4つに分類されます。
有名な回想法は、認知症患者さんでも
比較的保たれている長期記憶を生かせることや、
一人ひとりの経験や思いを
尊重できることから注目されています。
認知症の精神症状・行動異常の中には、
対応の仕方で改善できるものもあれば、
どうしても薬物に頼らざるをえないものもあります。
忘れてならないのは、
デイケアなど各種の非薬物治療も不可欠だということです。
これに関しては、日々の介護で
心身ともに疲れきっている介護者への介護という視点も大切です。
そのためには、介護保険など
社会的支援制度の概要を知る必要があります。

(出典:厚生労働省より)

[記事:為沢]

参考文献:
『黄帝内経 素問』
『黄帝内経 霊枢』
『中医弁証学』
『[標準]中医内科学』
『いかに弁証論治するか 【続編】』
『中医基礎用語辞典』    東洋学術出版社
『症状による中医診断と治療』 燎原書店
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