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便秘症の東洋医学解説

◎東洋医学における便秘症

◉概要

東洋医学では「大便秘結(ダイベンヒケツ)」や
「大便不通(ダイベンフツウ)」と言い、
糞便が腸内で停滞して4~7日もの間、排便がないことを指す。
古くは東洋医学の経典である
『黄帝内経 素問(コウテイダイケイ ソモン)』

「太陰司天、湿淫所勝、則沈陰且布、雨変枯槁。
・・・・、大便難、陰気不用、飢不欲食・・・。」
(「太陰が司天となれば、湿気が旺盛になって雲が広がり
雨が異常に降り、草木を枯らしてしまう。
人々はこの時に・・・大便が出にくい、食欲がない、・・・
等の症状が出てくる。」)

という記載があり、古代から認知され、
その治療方法が確立されていた。
また現代に於いてはWHO(人の健康を人権と考え、健康を達成する為に設立された、世界保健機関の略。)が便秘を鍼灸治療適応疾患として発表している。

ただし、同じ便が出にくいという
「排便困難」との区別は重要である。
こちらは便は毎日、隔日と周期は正常であるが、
排便がスムーズに行われていないことを指し、
数日間排便がない「便秘」とは異なるので要注意である。

ここからは
「便秘」という病の成り立ち(病因病機:ビョウインビョウキ)と、
その治療方法(弁証論治:ベンショウロンチ)に関して記載していく。

◉病因病機・弁証論治

陽明実熱(ヨウメイジツネツ)
(胃腸に熱がこもることによって起こる便秘)

『諸病源候論(ショビョウゲンコウロン)』

「大便不通者、・・・熱気偏入腸胃、
津液渇燥、故令糟粕結。」
(「大便が通じない者は・・・・
熱が腸胃に入り、津液を枯渇させ、
糟粕(便)が通じなくなる。」)

とあり、
胃腸を東洋医学では
陽明(ヨウメイ)胃と陽明大腸とし、
この陽明とは人体の機能に働き、
運動性、熱性に富む陽気(ヨウキ)が最も盛んな所であり、
気と血が多い(多気多血:タキタケツ)と考えられている。
ここに*邪(ジャ)が侵入すると、
気血の流れが停滞して、そこから熱化し、
人体の体液(津液:シンエキ)が消耗し、
その結果 腸胃が乾燥し便秘を発症する。

*邪:人体を侵し、病を起こす風(フウ)・寒(カン)・湿(シツ)・
   熱(ネツ)・燥(ソウ)・火(カ)を指し、六淫(リクイン)と言う。

以下3つが原因となる。
①人体に寒邪が侵入(傷寒:ショウカン)して熱化し、陽明胃に入ったもの。
②人体に熱邪が侵入(温病:ウンビョウ)して、腸胃に溜まったもの。
③普段から辛い物を食べすぎたもの。

【症状】
便秘・お腹の膨満感・腹痛・夕方に熱が出る・多汗・尿が濃い・
冷たい物を欲する・口臭・呼吸が粗いetc.

【治療法】
腸胃の滞りの排除や熱をさばく為に、
下さすように大便を通じさせる。
(攻下泄実:コウカセツジツ)


肝鬱気滞(カンウツキタイ)
肝火上炎(カンカジョウエン)
(感情の起伏によって起こる便秘)

『症因脉治』には

「怒則気上、思則気結、憂悲思慮、諸気怫鬱。
其気壅大腸、而大便之結。」
(「怒りは気を上げ、思いすぎは気を結ぶ。
憂悲思慮は諸気を塞いでしまう。
気が大腸で塞がれば、大便は秘結(出なくなる)する。」)

とあり、
悩みや心配事、イライラが続く事によって
肝の気を動かす働き
(疏泄:ソセツ・肝の生理作用の一つであり、
臓腑と精神活動を円滑に保つ)が
失調して気が滞り臓腑の動きが停滞して便秘になったり、
肝火(カンカ・過度の情緒の乱れから、肝の気が炎上した病態)して、
肺が侵されてしまうことで粛降(シュクコウ・気を降ろす)機能が失調し、
表裏関係の大腸の伝導(デンドウ・便を排泄させる)機能も
失調した結果便秘となる。

【症状】
便秘・抑鬱感・イライラ・胸や腹が張る・頭痛・
目が痛む・咳が出る・胃の不調etc.

【治療法】
気の滞りを散らして気を降ろし、便が出るようにさせる。
(降気通便:コウキツウベン)


脾肺気虚(ヒハイキキョ)
(脾(ヒ)と肺(ハイ)が弱ったことによる便秘)

冒頭の概要の所に記した、
『黄帝内経 素問(コウテイダイケイ ソモン)』

「太陰司天、湿淫所勝、則沈陰且布、雨変枯槁。
・・・・、大便難、陰気不用、飢不欲食・・・。」
(「太陰が司天となれば、湿気が旺盛になって雲が広がり
雨が異常に降り、草木を枯らしてしまう。
人々はこの時に・・・大便が出にくい、食欲がない、・・・
等の症状が出てくる。」)

とあり、また
『陳蓮舫医案(チンレンホウイアン)』には

「肺失宣化、下焦腸液就枯」
(「肺の宣発粛降が失われると、
下焦の腸液は枯れてしまう。」)

という古典の記載から、
五臓の一つで、
栄養物を全身に運んだり、血液を調節したり、
内臓が下垂・弛緩しないようにしたり、
肺に精気(セイキ・食物からつくられた気)を送る
脾が弱ることで、
大腸の伝導力が弱まったり、
肺に精気が送られず肺も弱ってしまい、
結果 肺の表裏関係である大腸が弱って起こる便秘。

【症状】
便秘・排便時に汗が出て疲労する・脱肛・息切れetc.

【治療法】
脾肺を助け、併せて腸を潤す。
(補益脾肺:ホエキヒハイ・潤腸:ジュンチョウ)


脾腎陽虚(ヒジンヨウキョ)
(脾と腎(ジン)が弱ったことによる便秘)

先述した
『黄帝内経 素問(コウテイダイケイ ソモン)』

「太陰司天、湿淫所勝、則沈陰且布、雨変枯槁。
・・・・、大便難、陰気不用、飢不欲食・・・。」
(「太陰が司天となれば、湿気が旺盛になって雲が広がり
雨が異常に降り、草木を枯らしてしまう。
人々はこの時に・・・大便が出にくい、食欲がない、・・・
等の症状が出てくる。」)

と、『蘭室秘蔵(ランシツヒゾウ)』
「・・・腎主大便。」
(「・・・腎は大便を主る。」)

より、
先述した脾の弱りと、
生殖・成長・発育の機能を持ち、
二便を調整する腎が弱ることで、
体の機能全般が弱ってしまい、
結果 大腸の伝導力が弱って起こる便秘。
老年者に多く、
またこの場合は
尿も頻尿多尿となってしまい、
体液(津液:シンエキ)が不足し、
大腸が熱化してしまうのも原因となる。

【症状】
便秘・多尿・寒がる・顔色が青黒いetc.

【治療法】
脾と腎を助けてあげる。
(補益脾腎:ホエキヒジン)


津枯血燥
(出血や熱病後による便秘)

『症因脉治』には

「血燥津渇、則大便干而秘結。」
(「血燥し、津液が枯渇した場合は、
大便乾燥し便秘する。」)

とあり、
熱病に侵され多汗や嘔吐、下痢が続いたり、
不正性器出血や外傷により出血が続くことで、
体液(津液:シンエキ)や
血液が欠乏(津液欠乏が陰虚:インキョ、血液欠乏が血虚:ケッキョ)して
内臓を潤すことが出来なくなり、腸内が乾燥して便が滞り起こる便秘。

【症状】
便秘・体が痩せる・顔色が悪い・皮膚が乾燥する・
女性であれば生理が来ないetc.

【治療法】
陰虚は陰分を補い、津液を生み腸を潤す。
(養陰生津:ヨウインセイシン)
血虚は血を補い、腸を潤す。
(養血潤腸:ヨウケツジュンチョウ)

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◎西洋医学における便秘症

◉概要

西洋医学的には明確な定義はなく、
排便が困難なものとされているが、
症状は
数日排便がなかったり、便が硬くて便量が少なかったり、
腹痛や腹部の膨満感があったりである。
患者は乳幼児から高齢者までで、
男性が約30%、女性が約70%近くと言われている。

西洋医学的(便秘外来的)に患者は
大きく7種のタイプに分けられ、
それぞれ原因、治療方法は異なってくる。

◉原因と治療・改善方法

【大腸の名称】


①直腸・肛門型便秘

上図の直腸、S状結腸に便が溜まり、
便意が起こらない便秘のタイプ。

【原因】
・排便をしたいと体がサインを出している(便意)にも関わらず、
 排便を我慢してしまい、便意がなくなってしまう習慣性のもの。
・加齢により、便を押し出す筋肉(肛門括約筋:コウモンカツヤクキン)の衰え。
・ガンやポリープが直腸にあり、便の通りを塞いでいる。

【治療・改善方法】
便を軟らかくすることが大前提のようで、
・整腸剤の服用
・ヨーグルト等の乳製品の摂取
・納豆、キムチ等の発酵食品の摂取
・水分を多く摂る
・必要ならば浣腸
が解消方法、治療方法とされている。
これは、患者の症状に合わせて決められる。

②大腸の蠕動運動不全
(ゼンドウウンドウフゼン)型便秘

大腸は、便を外に追い出すべく、
縮んだり・緩んだりして(*蠕動運動)いるが、
この動きがしっかりしないために、
大腸の至る所に便が溜まっているタイプ。
*東洋医学における大腸の伝導機能と同じである。

【原因】
・先天的(生まれつき)に、腸の蠕動運動が弱い

【治療・改善方法】
・蠕動運動を促す薬の服用
・整腸剤の服用
・起床時に水を飲み、腸に刺激を与える
・入浴時に、お腹をマッサージする

③ストレス型便秘
ストレスや疲労から、
大腸の蠕動運動に関わる*自律神経が乱れ、
結果的に蠕動運動自体が乱れてしまい、
便秘になるタイプ。
*自律神経:発汗や消化、吸収、血液の循環、代謝など、
無意識に働く体の機能を制御する。

【原因】
・過度のストレスや疲労など

【治療・改善方法】
・乳酸菌を含んだ整腸剤の服用
・ストレスを和らげるように、リラックスするように心掛ける

④直腸・肛門型 + 蠕動不全型便秘
上記①と②の複合タイプ。

【原因】【治療・改善方法】は各タイプを参照下さい。

⑤直腸・肛門型 + ストレス型便秘
上記①と③の複合タイプ。
【原因】【治療・改善方法】は各タイプを参照下さい。

⑥蠕動運動不全型 + ストレス型便秘
上記②と③の複合タイプ。

【原因】【治療・改善方法】は各タイプを参照下さい。

⑦複合型便秘
上記①②③全部の複合タイプ。

【原因】【治療方法】は各タイプを参照下さい。

上記にあげた7タイプは、
大多数の患者に当てはまるようだが、
中には
症候性(ショウコウセイ)便秘
何らかの病気によって起こるもの

薬剤性(ヤクザイセイ)便秘
薬の副作用によるものがあり、
問診や診察、内視鏡(ナイシキョウ)検査をして
鑑別し、それぞれにあった治療を行う必要がある。

ただ便秘は、
日頃から予防が出来るとされ、
食事・水分摂取・適度な運動を意識することが
大切だとされている。

[記事:下野]

参考文献・参考資料:
『中医弁証学』
『中医学の基礎』
『中医病因病機学』
『中医基本用語辞典』
『現代語訳◉黄帝内経素問 下巻』 東洋学術出版社

『基礎中医学』
『症状による 中医診断と治療 上巻』 燎原書店

『中国医学辞典』 たにぐち書店

『中医名言大辞典』 中原人民出版社

『ぜんぶわかる 人体解剖図』 成美堂出版

『病気がみえる vol.1 消化器』 メディックメディア

『わかりやすい 臨床中医臓腑学』
『臨床 医学各論』
『最新 医学大事典』 医歯薬出版株式会社

『みんなの家庭の医学』 幻冬舎
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