『医林縄墨』(いりんじょうぼく)
著:方隅(ほうぐう) 1584年
“風寒閉肺、無汗氣逆而生喘也。”
和訓:
風寒肺を閉じ、無汗気逆して喘を生むなり
風邪の侵入によって起こるタイプ
○喘息、咳嗽がきつく、寒冷刺激にて悪化。
○痰があっても白色、あるいは透明。口渇はあまりなし。
○外感風寒の症状(カゼひき症状)を伴う。
治法:
辛温散寒(しんおんさんかん)
寒さの邪気による風邪の場合に体表にある寒邪を追い出す
宣肺平喘(せんぱいへいぜん)
肺の宣発作用を扶け、呼吸困難、喘息を改善する
湯液:
麻黄湯(まおうとう)
表証がない場合は、変法として桂枝を除き三拗湯(さんようとう)を用いる。
小青竜湯(しょうせいりゅうとう)
温肺化飲に優れ、痰が透明や白色で、
量の多い喘息に適するが、止咳作用は弱い。
射干麻黄湯(しゃがまおうとう)
射干は化痰作用が強く、痰の量が多いため、
咽がゴロゴロと鳴る喘息に適する。
小竜湯より止咳作用は強いが、解表作用が弱いので、
表証がみられないものに、より適している。
神秘湯(しんぴとう)
理気作用(気を流す作用)が優れているので、
胸悶(きょうもん)の強い喘息、ストレスによるものに効果的である。
『症因脈治』(しょういんみゃくち)
著:秦昌遇(しんしょうぐう) 1706年
外感喘(がいかんぜん)
“煩悶口渴、喘息気粗、多言身重、
汗出身乃熱、此暑湿之喘症也。”
和訓:
煩悶口渇し、喘息し気粗く、多言し身重く、
汗出で身はすなわち熱す、これ暑熱の喘症なり。
喘息、咳嗽に加え、呼吸が荒くなる。(気急)
○痰が黄色く粘っこい
熱で蒸されるため、
熱が強ければ強いほど
痰は黄色くなり、粘着質になる。
○胸部に不快感がありもだえる(胸悶)、胸痛
痰熱が胸を塞ぐため
○口渇、冷たいものを欲する、発熱、尿色が濃くなる、
便秘する
体が熱に偏るため
治法:
清熱化痰(せいねつけたん)
熱痰に対する治療法。
宣肺平喘(せんぱいへいぜん)
肺の宣発作用を扶け、呼吸困難、喘息を改善する
湯液:
麻杏甘石湯
(まきょうかんせきとう)
五虎湯(ごことう)
麻杏甘石湯に桑白皮を加えることによって
痰熱を下降させ取り除く。
清肺湯(せいはいとう)
清肺、つまり肺熱をよく冷ます。平喘作用はやや弱い。
定喘湯(ていぜんとう)
平喘作用が強い。
『医貫』(いかん)
著:趙献可(ちょうけんか) 1617年
喘論(ぜんろん)
“真気損耗、喘出于腎気之上奔”
和訓:
真気損耗し、腎気奔り上り喘出ず。
一身に生気の弱りがあるために呼吸が弱って、
哮喘(喘息)
をなすものである。
○息切れ(気短)、喘息。
肺気不足によるため。
○痰がうすく、量が多い。
気虚のため脾の運化作用が落ち、痰が内盛する。
また、陽気が
不足するため、
痰も蒸されることなく、うすく、多量なのである。
○疲、食欲不振、軟便
脾気不足の症状である。
○舌色は淡くなり、水湿があふれると
舌がひだひだになる。(胖嫩舌)
脉:
中医書には脉弱とあるが、
私個人的には濡や緩を
呈することが多いのではと感じている。
湯液:
六君子湯(りっくんしとう)(四君子湯、半夏、陳皮)
健脾益気の四君子湯と、燥湿化痰の二陳湯を使用したもので、
気虚湿痰に用いる。但し、止咳平喘作用は弱い。
生脉散(しょうみゃくさん)(人参、五味子、麦門冬)
気と同時に、津液もある程度損傷されたものに用いる。
『景岳全書』(けいがくぜんしょ)
著:張景岳(ちょうけいがく) 1640年
喘促・論証(ぜんそく・ろんしょう)
"若真陰虧損、精不化気、
則下不上交而爲促。促者断之基也。"
和訓:
もし真陰虧損し、精、気と化さざれば、
すなわち下、上と交わざるして促となす。
促はこれを絶つの基なり。
一身の内、陽気を失ったものが気虚、陽虚であり、
逆に陰分を損傷して起こるものが、この陰虚喘である。
陰分不足なので、体はよく干き、肺・気管支を潤すことが
出来ずに
出る乾燥タイプの哮喘といえる。
しかし、あくまで陰虚の症状であり、
熱症状を伴うので、
外感燥邪による実証とは、
よく区別しなければならない。
○喘息、咳嗽(夜間にひどくなる)、痰が少なくきれにくい。
体内の津液が不足し、乾いているため。
○ほてり、寝汗(盗汗)、咽干(咽がイガイガする)。
陰虚のため内熱が生じるため。
○腰痛、耳鳴りを伴いやすい。
脉:
中医の教科書には細・数とあるが、
私はよく臨床で浮・緩脉を
確認している。
陰が虚すれば理論的には細・数を呈してもよいが、
同時に陽が昂ぶるので緩脉になるのであろう。
また裏虚に多く、脉が浮いておさまり難いことがあり、
これがよく浮にして緩を帯びるのであろう。
湯液:
麦門冬湯(ばくもんどうとう)
(麦門冬、人参、粳米、甘草、大棗、半夏)
滋陰降火湯(じいんこうかとう)
(当帰、芍菜、地黄、天門冬、麦門冬、知母、黄柏、陳皮、白朮)
麦味地黄丸(八仙丸)
(六味黄丸+麦門冬、五味子)
いずれも滋陰するが、
各々に細かな工夫がこらしてある。
一身の陽気不足。虚喘の進んだものが、この陽虚喘である。
陽虚ともなると、生気の弱りがかなり目立ち、
喘息(哮喘)が
あるといえども、
一身の弱りに伴う症状の1つに過ぎないので、
臓腑を整えよく扶正しなければならない。
○喘息、動くとすぐにゼーゼーする。
陽虚のため、腎が虚すと息は吐けるが吸いにくい
という症状が出る。
腎が納気を主っているからである。
○腰冷、腰痛、夜間の頻尿を伴いやすい。
腎気が落ちると出る症状である。
○痰の色が薄く量が多い、むくみやすい。
陽気不足で、水湿をさばくことが出来ないので、
むくみ、痰がたまる。
津液がのこり吸収されると、即ち湿痰になるからである。
○舌色は淡く、正気の弱りを示す。
○脉は弱や細を表し、特に尺位が弱る。
湯液:
八味地黄丸(はちみじおうがん)(六味丸+附子、桂枝)、
海馬地黄丸(かいばじおうがん)、
麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)(麻黄、細辛、附子)