東洋医学では乳幼児の夜泣きのことを
小児啼哭(しょうにていこく)という。
生後6ヶ月以内の乳児が頻繁に泣くことで、
児啼(じてい)と簡略する。
泣くことは乳幼児の本能で、
欲求や苦痛を表現する方法でもあるので、
日常的な飲食・起居・着衣などの夜泣きは含めない。
①脾寒
『諸病源候論』(しょびょうげんこうろん)
「夜啼」
"小児夜啼者、臓冷故也。
夜陰気盛、与冷相搏則冷動、冷動与臓気相并、
或煩或痛、故令小児夜啼也。"
和訓:
小児で夜泣きするものは、臓が冷えているゆえなり。
夜は陰気が盛んになり、相搏し冷動し、
或いは煩し、或いは痛み、故に小児夜に啼するなり。
「躽啼」
"小児在胎時、其母将養、
傷於風冷、邪気入胞、傷児臓腑。
故児生之後、邪猶在児腹内、邪動与正気搏則腹痛、
故児躽張蹙気而啼。"
和訓:
小児胎にある時、それ母将養し、風冷に於いて傷し、
邪気が胞に入り、児の臓腑を傷る。
故に児生まれた後に、邪は児の腹内にあり、
邪と正気が搏し腹痛し、故に児は躽張蹙気し啼する。
世話が不適切で腹を冷やし、
寒邪(かんじゃ)が脾を侵襲したもので、
夜間は陰盛で寒邪が凝滞するために、
夜間に腹痛が生じて夜泣きが発生する。
特徴:
体を屈曲したり腹臥位(ふくがい・うつ伏せのこと)を好み、
顔色が青白い・手が冷たい
乳を少ししか飲まない・泥状便・舌が淡白・脈が沈細
治法:
温肺散寒(おんぱいさんかん)
②心熱・心血虚
『儒門事親』(じゅもんじしん)小児悲哭不止
"夫小兒悲哭、彌日不休、兩手脈弦而緊。
戴人曰、心火甚而乘肺、肺不受其屈、故哭。
肺主悲、王太僕云、心爍則痛甚、故爍甚悲亦甚。
令浴以溫湯、漬形以發汗也。"
和訓:
それ小兒悲哭し、彌日休まず、兩手の脈は弦にして緊。
戴人曰く、心火甚しくして肺に乗じ、肺はその屈を受けず、
肺は悲を主り、ゆえに哭すと。
王太僕いわく、心爍せばすなわち痛甚しく、
故に爍甚しければ悲または甚しと。
温湯をもって浴せしめ、発汗をもって漬形するなり。
心熱
心の病証で、心は神を蔵し、神(しん)が安和であれば
日中の精神状態が安穏で夜間はぐっすり眠るが、
心気不和や心血不足では精神が安寧にならず啼哭する。
心熱の啼哭は、母乳が辛辣・芳香・温熱などの食物を嗜好したり、
温熱薬を多服して熱邪が停積し心に上炎したもので、
夜間は陰盛で陽衰となり、陽衰のために邪熱を抑制することができず、
邪熱が心に乗じて心身安寧となって発生する。
特徴:
むずかって体をよく動かす・顔面紅潮・口唇が紅い・身体が熱い・
尿が濃い・便秘・舌尖が紅・脈が数で有力
治法:
清心導熱(せいしんどうねつ)
心血虚
先天不足や病後の消耗で心血が不足し、
神を濡養できずに発生する。
特徴:
むずかる・眠りが浅い・顔色が白く艶がない・
口唇や舌が淡泊・少苔〜無苔などを呈する
虚火を伴うときは口唇が紅・舌尖が紅・脈が虚数などがみられる
治法:
養血寧神(ようけつねいしん)
その他の文献:
『醫學入門』(いがくにゅうもん)胎驚夜啼
"上夜驚啼多痰熱、仰身有汗赤面頰、
下夜曲腰必虛寒、甚則內釣手足掣、
客忤中惡哭黃昏、飲乳方啼爛口舌。"
和訓:
上夜の驚啼は痰熱多く、身を仰し汗あり面頰赤し、
下夜の曲腰は必ず虛寒、甚しければすなわち內釣し手足掣す、
客忤中惡は黃昏に哭す、飲乳してまさに啼するは口舌爛す。
『幼科釋謎』啼哭原由症治
"兒啼、只宜輕手扶抱、任其自哭自止、
切不可勉強按住、或令吮乳止之。
若無他病、亦不必服藥。"
和訓:
兒啼は、ただ軽手扶抱すべし、その自哭自止に任せ、
切に按住を強いて勉め、あるいは吮乳せしめこれを止むべからず。
もし他病なく、また必ずしも服藥をなさず。