こんにちは、本多です。
今回は腹證奇覧に掲載しております大陥胸湯について
傷寒論を交えて解説して参ります。
大陥胸湯
図の如く、胸高く起り、心下硬満して、手の近づくことを怖れ、
心下より少腹まで、一面に硬満して、纔に身を動揺すれば腹にひびき痛みて、
困むこと甚だしく、舌燥きて胎を生じ、
心中懊悩、脈沈遅なるものを大陥胸湯の證とす。
卒に診ずれば、大承気湯の證に似たり・速やかに下さざれば、死す。
危篤の證なり。此れは、表熱裡に薄るとき、熱水結実して此の證となるなり。
【大陥胸湯:組成】
大黄(だいおう)
タデ科のダイオウ属植物の根茎や根。
性味:苦・寒
帰経:脾・胃・大腸・肝・心包
主な薬効と応用:緩下・駆瘀血
①瀉熱通腸:胃腸の実熱による、
便秘・腹痛・高熱・意識障害などに用いる。
方剤例⇒大承気湯
②清熱瀉火:火熱上亢による、
目の充血・咽喉の腫痛・鼻出血など上部の火熱の症候に用いる。
方剤例⇒三黄瀉心湯
③行瘀破積:血瘀による無月経や腹痛時に用いる。
方剤例⇒復元活血湯
④清火湿熱:湿熱の黄疸時に用いる。
方剤例⇒茵蔯蒿湯
備考:生用すると瀉下の働きが強くなり、
酒を吹きかけ火で焙ると上部の火熱を清し活血化瘀の働きが強くなり、
酒とともに蒸すと瀉下の力が緩やかになり、
炒炭すると化瘀止血に働く。
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芒硝(ぼうしょう)
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天然の含水硫酸ナトリウム。
性味:鹹・苦・寒
帰経:胃・大腸・三焦
主な薬効と応用:緩下・利尿
①瀉熱通便:胃腸の実熱、燥屎内結による、
腹満・腹痛・便秘・高熱・意識障害などに用いる。
方剤例⇒大承気湯
②清熱消腫:咽喉のびらんや腫脹、口内炎などに用いる。
方剤例⇒冰硼散
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甘遂(かんつい)
トウダイグサ科のドウダイグサ属植物の根。
性味:苦・寒・有毒
帰経:肺・脾・腎
主な薬効と応用:消腫散結・去痰
①瀉水除湿:陽実水腫による、
腹水・浮腫・口渇・尿量減少・便秘などの症候時に用いる。
方剤例⇒舟車丸
②逐痰滌飲:胸部の痰飲積聚(胸水)による、
呼吸困難・胸苦しい・胸肋部痛などに用いる。
方剤例⇒十棗湯
③消腫散結:皮膚の化膿症に用いる。
備考:虚弱者や妊婦には禁忌。
【大陥胸湯:効能】
傷寒論に記載されている条文を一部抜粋します。
【条文134】
太陽病、脉浮而動數、浮則爲風、
數則爲熱、動則爲痛、數則爲虛、
頭痛、發熱、微盗汗出、而反惡寒者、
表未解也。醫反下之、動數變遲、
膈内拒痛、胃中空虛、客氣動陷、
短氣躁煩、心中懊憹、陽氣内陷、
心下因鞭、則爲結胸、大陷胸湯主之。
若不結胸、但頭汗出、餘處無汗、
劑頚而還、小便不利、身必發黃。大陷胸湯。
「太陽病、脉浮にして動数、浮は則ち風と為し、
数は則ち熱と為し、動は則ち痛みと為し、数は則ち虚と為し、
頭痛発熱し、微かに盗汗出で、而るに反って悪寒するものは
表未だ解せざるなり。医反って之を下し、動数は遅に変じ、
膈内に拒痛し、胃中空虚に、客気は膈に動き、
短気躁煩、心中懊憹し、陽気内陥して、
心下因って鞭きは、則ち結胸と為し、大陥胸湯之を主る。
若し結胸せず、但だ頭に汗出で、余処に汗なく、
頸を剤えて還り、小便利せずんば、身必ず黃を発す。大陥胸湯」
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【条文135】
傷寒六七日、結胸熱實、
脉沈而緊、心下痛、
按之石鞭者、大陷胸湯主之。
「傷寒六七日、結胸熱実、
脉沈にして際に、心下痛み、
之を按じて石鞭なるものは、大陥胸湯之を主る。
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【条文136】
傷寒十餘日、熱結在裏
復往來寒熱者、與大柴胡湯。
但結胸、無大熱者、此爲水結在胸脇也
但頭微汗出者、大陷胸湯主之。
傷寒十余日、熱結して裏に在り、
復た往来寒熱するものは、大柴胡湯を与う。
此れ水結して胸脇に在りと為すなり。
但だ頭に微汗出ずるものは、大陥胸湯之を主る。
以上のように記載されております。
風寒表邪が加熱して裏に入り、
少陽三焦経で気機を阻滞するとともに水質を停滞させ、
熱と水質飲邪が結びついて心下胸脇で停結して
陽明の裏に影響を及ぼし腑実熱結を伴う状態の
水熱結胸に対して瀉熱逐水の効能がある。
参考文献:
『生薬単』 NTS
『漢方概論』 創元社
『腹證奇覧 全』 医道の日本社
『傷寒雑病論』
『傷寒論を読もう』 東洋学術出版
『中医臨床のための方剤学』
『中医臨床のための中薬学』 神戸中医学研究会
画像:
『腹証奇覧 正編2巻・後編2巻』
京都大学貴重資料デジタルアーカイブより
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00004914
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本多