こんにちは、本多です。
前回は三承気湯の簡単な概要を御紹介しました。
今回は大承気湯についてです。
【大承気湯:組成】
大黄(だいおう)
タデ科のダイオウ属植物の根茎や根。
性味:苦・寒
帰経:脾・胃・大腸・肝・心包
主な薬効と応用:緩下・駆瘀血
①瀉熱通腸:胃腸の実熱による、
便秘・腹痛・高熱・意識障害などに用いる。
方剤例⇒大承気湯
②清熱瀉火:火熱上亢による、
目の充血・咽喉の腫痛・鼻出血など上部の火熱の症候に用いる。
方剤例⇒三黄瀉心湯
③行瘀破積:血瘀による無月経や腹痛時に用いる。
方剤例⇒復元活血湯
④清火湿熱:湿熱の黄疸時に用いる。
方剤例⇒茵蔯蒿湯
備考:生用すると瀉下の働きが強くなり、
酒を吹きかけ火で焙ると上部の火熱を清し活血化瘀の働きが強くなり、
酒とともに蒸すと瀉下の力が緩やかになり、
炒炭すると化瘀止血に働く。
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枳実(きじつ)
ミカン科のダイダイ、イチャンレモン、カラタチなどの幼果。
性味:苦・微寒
帰経:脾・胃・大腸
主な薬効と応用:
①破気消積:腸胃湿熱積滞による腹痛・便秘あるいは下痢・裏急後重などの症候時に用いる。
方剤例→枳実導滞丸
②化痰消痞:胸脇の痰飲で胸が痞えて苦しい・胸が痞えて苦しい・呼吸困難などを呈する時に用いる。
方剤例→導痰湯
備考:破気に働き正気を消耗するので、体壮邪実に用いる。
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厚朴(こうぼく)
モクレン科のカラホウおよびその変種の樹皮。
性味:苦・辛・温
帰経:脾 ・胃・肺・大腸
主な薬効と応用:
①行気化湿:湿困脾胃・食積気滞の腹満・腹痛・下痢などに用いる。
方剤例→平胃散
②下気除満:熱結や裏実気滞の腹満・腹痛・便秘などに用いる。
方剤例→厚朴麻黄湯
備考:内熱津虚・脾胃気虚には用いてはならない。
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芒硝(ぼうしょう)
天然の含水硫酸ナトリウム。
性味:鹹・苦・寒
帰経:胃・大腸・三焦
主な薬効と応用:緩下・利尿
①瀉熱通便:胃腸の実熱、燥屎内結による、
腹満・腹痛・便秘・高熱・意識障害などに用いる。
方剤例⇒大承気湯
②清熱消腫:咽喉のびらんや腫脹、口内炎などに用いる。
方剤例⇒冰硼散
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【大承気湯:主治と効能】
傷寒論の条文を一部抜粋する。
【陽明病・条文208】
陽明病、脉遲雖汗出、不惡寒者、
其身必重、短氣、腹滿而喘、
有潮熱者、此外欲解、可攻裏也、
手足濈然而汗出者、此大便已鞕也、大承氣湯主之。
陽明病、脉遅、汗出ずと雖も悪寒せざるものは、
其の身必ず重く、短気、腹満して喘し、
潮熱ある者は、此れ外解せんと欲し、裏を攻むべきなり。
手足に濈然と汗出ずるものは、此れ大便已に鞕きなり。大承気湯之を主る。
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【陽明病・条文209】
陽明病、潮熱、大便微鞕者、可與大承氣湯。
陽明病、潮熱し、大便微かに鞕きものは、大承氣湯を与うべし。
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【陽明病・条文212】
傷寒若吐若下後不解、
不大便五六日、上至十餘日、
日晡所發潮熱、不惡寒、獨語如見鬼状。
若劇者、發則不識人、循衣摸牀、惕而不安、
微喘直視、脉弦者生、濇者死。
微者、但發熱讝語者、大承気湯主之。
傷寒若しくは吐し若しくは下して後解せず、
大便せざること五六日、上十余日に至り、
日晡所に潮熱を発し、悪寒せず、独語すること鬼を見たる状の如し。
若し劇しきものは、発せば則ち人を識らず、循衣摸牀し、惕して安からず、
微喘直視し、脉弦なるものは生き、濇なるものは死す。
微かなるもの、但だ発熱譫語するものは、大承気湯之を主る。
以上の条文などから大承気湯は、
「熱結腸胃」に対して「峻下熱結」の効能があるとされる。
病機は、
風寒が化熱して裏に入るか、
あるいは裏に直接侵入した風熱が陽明胃腸経の積滞と結びつき
燥屎を形成して停滞した状態である。
この燥屎に対して、
大黄が主となり芒硝と手を取り熱に絡みつき、
枳実と厚朴で行気・理気に比べ更に強力な破気作用で、
熱の塊を動かし下す。
大承気湯は承気湯類の中では最も峻猛で、
瀉下力が強い方剤である。
次回は小承気湯に続きます。
参考文献:
『生薬単』 NTS
『漢方概論』 創元社
『傷寒雑病論』
『傷寒論を読もう』 東洋学術出版
『中医臨床のための方剤学』
『中医臨床のための中薬学』 神戸中医学研究会
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本多