こんにちは、為沢です。
今回の傷寒論は弁太陽病脈証并治(上)十五章・十六章を御紹介致します。
十五章では、太陽病を誤って攻下法を施した後について。
十六章では、 太陽病の壊病は桂枝湯で対処ができないことについて述べております。
弁太陽病脈証并治(上)
十五章
太陽病、下之後、其氣上衝者、可与桂枝湯、方用前法。
若不上衝者、不可与之。四。
和訓:
太陽病、之を下して後、其の気上衝する者は、桂枝湯を与うべし。方の前法を用う。
若し上衝せざる者は、之を与うべからず。
・太陽病、下之後
「下」というのは攻下法のこと。
太陽病の治療原則は、辛温解表剤を用いて発汗させることなので攻下法は誤治にあたる。
・其氣上衝者、可与桂枝湯、方用前法。
「其氣」とは太陽の気を指す。
「上衝」とは気がつき上がって来る感じを覚える。
表証が以依然として存在していることを表している。
「前法」とは、前条の桂枝湯の煎じ方と服用法を指している。
・若不上衝者、不可与之。
もし上衝しなければ、方証相対しないのであるから、
桂枝湯を与えないのは当然である。
提要:
太陽病で誤ってこれを下した後、気が上衝する者の治療法。
訳:
太陽病の患者が、誤って攻下法で治療された後、
気が上に衝き上がってくるように感ずるなら、
表証はまだ除かれていないので桂枝湯で治療すれば良い。
煎じ方と服用法については前と同じ。
もし気が衝き上がってくるように感じなければ、桂枝湯を服用させてはならない。
十六章
太陽病三日、已發汗、若吐、若下、若溫鍼、
仍不解者、此爲壊病、桂枝不中与也。
観其脈証、知犯何逆、隨証治之。
桂枝本爲解肌、若其人脉浮緊、發熱、汗不出者、不可与也。
常須識比、勿令誤也。五。
和訓:
太陽病三日(さんじつ)、已に発汗し、若しくは吐し、若しくは下し、若しくは温針し、
仍お解せざる者は、此れを壊病と為す。桂枝与うるに中らざるなり。
其の脈証を観て、何れを犯せるの逆なるかを知り、証に随(したが)いて之を治す。
桂枝は本(もと)解肌(かいき)と為す。若し其の人脈浮緊に、発熱し、汗出でざる者は、与うべからざるなり。
常に須らく此を識り、誤らしむること勿れ。
太陽病を罹って三日 ・已發汗、若吐、若下、若溫鍼
温鍼とは治療方法の一つで、経穴に鍼を刺して艾炷にて鍼体を熱する方法や
鍼を赤く焼いて刺し、火熱の力を以て発汗させようとする焼鍼にあたる。
「若しくは」とあるので、ここに記してある
発汗法、吐法、攻下法、温鍼を全て施した訳ではなく、このうちのどれか一つでも良い。
・ 仍不解者
方証相対していないので、様々な治法を施したところで病は解さない。
・ 此爲壊病、桂枝不中与也
壊病とは医師の誤治により病情が悪化したものをいう。
桂枝不中与也とは、桂枝湯を与うべからず=桂枝湯では治療ができない、
従って「これは壊病の為、桂枝湯では治療ができない」という意になる。
その脈証を診て、どこが犯されており、どのような誤治をしたかをよく考え
証に従って治療を施すべきである。
・桂枝本爲解肌
桂枝とは桂枝湯のこと。
解肌とは肌表にある邪を解除すること。
桂枝湯の本は解肌と為す。
・若其人脉浮緊、發熱、汗不出者、不可与也
「 脉浮緊、発熱、汗出でざる」は太陽傷寒の為、
麻黄湯を与えるべきで、 桂枝湯を与えるべきではない。
・常須識比、勿令誤也
「須」は”すべからく”と読み、
その意味は「すべくあらく(すべきであることの意)」の約。下に「べし」が来ることが多い。
「識」は銘記すること。
「常にこの点を銘記すべきで、決して誤りがないようにせよ」という意になる。
提要:
太陽病の壊病には桂枝湯を与えてはならず、
それは証に従って治療を施すべきである。
訳:
太陽病を罹って三日になり、すでに発汗、或いは催吐、或いは攻下、或いは温鍼などで治療したが
疾病は未だに治癒しない場合、すでに壊病の状態になっており、もう桂枝湯で治療することはできない。
このような場合は患者の脈象と症状を仔細に観察し、治療過程で犯した誤りを理解し、
そして具体的な脈と証に基づいて治療せねばならない。
桂枝湯はもともと肌表に在る邪気を解除するのに用いられるものであるから
もし患者の脈が浮緊で、発汗して汗が無いならば、桂枝湯で治療することはできない。
常にこの点を銘記すべきで、決して誤りがないようにせよ。第五法。
参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』 東洋学術出版社
『増補 傷寒論真髄』 績文堂
『中医臨床家のための中薬学』 医歯薬出版株式会社
為沢