こんにちは、大原です。
太陽経病は、大きく、
太陽経脈病と太陽腑証に分かれます。
太陽経脈病(または太陽経病)とは
これまで述べてきた通り、
表証(表実証・表虚証)を指します。
太陽腑証とは、太陽経脈の病邪が
腑である膀胱へ入ったものであることから、
太陽病ではありますが
裏証であるとする考え方が主のようです。
さて、太陽腑証とは具体的にどのようなものでしょうか。
膀胱の機能とは、体内で不要とされた水分を蓄積し、
再利用できる水分は津液として戻され、
利用できない水分は尿として排泄させるというものです。
(これを「気化作用」といいます。)
この機能が失調すると、
尿が排泄されない「尿不利」や、
利用できる水分が上に蒸騰しないために
「口渇」といった症状が現れます。
この症状が現れる病証を「膀胱蓄水証」といい、
傷寒論の条文71条〜74条に記載があります。
<条文71条>
傷寒の邪に対して発汗法を用いた結果、
邪が解消されず膀胱に達し、
気化作用を傷害した場合について。
(【古医書】傷寒論を読む: 弁太陽病脈証并治(中)七十章・七十一章)
症状としては、脈は浮で、
上述の通り口渇が生じるとあります。
原因が膀胱にあり、
胃中乾燥の場合とは異なるために
いくら水を飲んでも解消しないとされ、
これを消渇(=口渇)といいます。
これには「五苓散」という方剤を用い、
利尿を図り、脾の運化を助け、残った表熱を解し、
水分代謝を正常にするとしています。
すなわち、五苓散の働きは、
膀胱の気化作用を正常にするということのようです。
<条文72>
「煩渇」という、強い口渇の症状を訴える場合について。
(【古医書】傷寒論を読む: 弁太陽病脈証并治(中)七十二章・七十三章)
上述のように、膀胱の気化作用が失調しているために
喉の乾き(消渇、口渇)が起こっていると考え、
条文71と同じく「五苓散」を用いるとしています。
ただし、同じ喉の乾きでも
小便不利が起こっていない場合、
陽明の熱証ととらえ、
五苓散ではなく
肺胃の熱を清する「白虎湯」を用いるとしています。
(条文176、170)
・条文73
膀胱蓄水証と、脾虚による停水証の鑑別について。
(【古医書】傷寒論を読む: 弁太陽病脈証并治(中)七十二章・七十三章)
小便不利があっても口渇がない場合、
膀胱の気化作用とは関係がないので、
膀胱蓄水証ではなく
脾虚による停水証であるといった内容です。
脾虚による停水証には五苓散ではなく
「茯苓甘草湯」を用いて
利尿を図り、脾の運化を助け、また、
胃を温めることで、
水分代謝を正常にするとしています。
・条文74
膀胱蓄水証において、
口渇と並ぶ、もう一つの症状「水逆」について。
(【古医書】傷寒論を読む: 弁太陽病脈証并治(中)七十四章・七十五章)
水逆とは、口渇よりも重篤な蓄水証の症状で、
口渇のために水を飲むが、
吐いてしまうという症状をいいます。
膀胱の気化作用が大きく失調し、
水分が膀胱に停滞しているため、
胃中に水が入って吸収しようとしても
膀胱へ吸収されず、水逆がおこります。
この場合、条文71と同じく
「五苓散」を用いるとしています。
原因が同じである場合には、(膀胱の気化作用)
同じ方剤(五苓散)を用いるという考え方が
貫かれています。
次回に続きます。
参考文献:
『基礎中医学』 燎原
『傷寒論を読もう』 東洋学術出版社
『中医臨床のための方剤学』 神戸中医学研究会
*画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
ぜひ参考文献を読んでみて下さい。
大原