大原です。
太陽病の表証を取り除くためには、
発汗法を用いて
表で鬱滞している寒邪を発散させることが
必要であることはすでに述べました。
(参考 太陽病 その1)
では、この発汗法が適切でなかった場合、
(あるいは発汗法を用いたことによって
別の症状があらわれた場合)
どのように考え処置すればよいでしょうか?
条文に沿ってみていきます。
・発汗過多で筋肉痛を起こした場合(条文62)
(【古医書】傷寒論を読む: 弁太陽病脈証并治(中)六十二章・六十三章)
発汗法によって
発汗し過ぎたために気血が損傷され、
筋肉が十分に栄養されず
筋肉痛がおこっていると考えます。
このとき、血管の中の気血が不足して
充実した拍動がなされず、
脈は沈遅となるとされています。
この場合、桂枝湯をベースとした
桂枝加芍薬生姜各一両人参三両新加湯
(けいしかしゃくやくしょうきょう
かくいちりょうにんじんさんりょうしんかとう)を用いて
営血を滋養し、気・津液を補うことで
筋肉を滋養します。
・表邪が解消せず、熱化して肺を侵襲した場合(条文63)
(【古医書】傷寒論を読む: 弁太陽病脈証并治(中)六十二章・六十三章)
熱邪のために津液が汗として外に流れ、
肺の呼吸機能が阻害されることで
肺気が上逆して喘や咳を起こすとされています。
この場合、治法は「清熱宣肺」とし、
麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)を用いることで
肺の熱を清し、逆上した肺気を降ろし、
鎮咳・利尿・去痰、さらに脾胃を補います。
・発汗させすぎた結果、心陽が虚して動悸を起こした場合(条文64)
(【古医書】傷寒論を読む: 弁太陽病脈証并治(中)六十四章・六十五章)
心の陽気が虚すと、
心は空虚となり動悸や不安感が生じます。
この場合、桂枝甘草湯(けいしかんぞうとう)を用いて
心陽を補い、心の津液を滋養します。
これは、心の陰陽を補うことに集中した
名処方の方剤であるといわれているようです。
・発汗させすぎた結果、心陽が虚し、
「奔豚」という症状がおこりかけている場合(条文65)
(【古医書】傷寒論を読む: 弁太陽病脈証并治(中)六十四章・六十五章)
「奔豚(ほんとん)」とは、
発作的に下腹から胸に向かって気が衝き上げ
腹が張る、胸が苦しく動悸がする、
喉が塞がったようで息ができなくなる、
目がまわって冷汗が吹き出す
といった症状が出るものをいいます。
この症状は、上焦と中焦の陽気が不足して、
下焦にある水飲を制御することができなくなった結果、
水飲が上焦まで衝き上がってくること
によるものとされており、
自律神経失調症などでみられる発作に似ているそうです。
この場合、茯苓桂枝甘草大棗湯
(ぶくりょうけいしかんぞうたいそうとう)を用いて
水飲の邪を攻めて津液をめぐらし、
心神を養って精神を安定させます。
・もともと脾胃虚弱であった人が
太陽病にかかり、発汗法によって表証は治ったが脾を損傷し、
痰飲が心下部に停滞して腹が張るようになった場合(条文66)
(【古医書】傷寒論を読む: 弁太陽病脈証并治(中)六十六章・六十七章)
これには、脾を温補しながら、
停留した水と気を自然に流通させて排除してやる
補瀉兼治の治療が必要となります。
この場合、厚朴生姜半夏甘草湯
(こうぼくしょうきょうはんげかんぞうとう)を用い、
停留した痰と気の流通を改善させながら、
脾胃の運化の働きをよくさせます。
・発汗法を用いたが、かえって悪寒がひどくなった場合(条文68)
(【古医書】傷寒論を読む: 弁太陽病脈証并治(中)六十八章・六十九章)
これは発汗が強すぎたために
体表の陽気を消耗してしまったためであると考え、
同時に津液も消耗していると考えます。
この場合、営陰を滋養して(白芍)
陽気を助ける(附子)ことを目的に、
芍薬甘草附子湯(しゃくやくかんぞうぶしとう)を用います。
・邪気が非常に旺盛で、
発汗法を行っても病邪が太陽経脈にとどまらず
陽明経脈(裏)に向かった場合(条文70)
(【古医書】傷寒論を読む: 弁太陽病脈証并治(中)七十章・七十一章)
この場合、陽明経病のとしての
内外の熱証があらわれます。
悪寒の症状はなく、
津液が渇くことにより大便が乾燥します。
この場合は調胃承気湯(ちょういじょうきとう)を用い、
胃熱を瀉泄して胃気を調和させます。
発汗法によって
気血津液のバランスなどを崩した場合、
以上の条文のように
五蔵六腑の状態を把握して
処置を行うことが大切ですね。
次回に続きます。
参考文献:
『基礎中医学』 燎原
『傷寒論を読もう』 東洋学術出版社
『中医臨床のための方剤学』 神戸中医学研究会
*画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
ぜひ参考文献を読んでみて下さい。
大原