こんにちは、本多です。
今回は腹證奇覧に掲載しております、
麦門冬湯についてです。
前回紹介しました、
腹證奇覧の竹葉石膏湯の後に記載してありますのが麦門冬湯で、
竹葉石膏湯に似た方剤として紹介されております。

麦門冬湯
竹葉石膏湯の證に似て、煩渇の證なく、
痰気肺部を犯し、咳嗽あれども痰出でがたく、
咽喉不利して声朗らかならず。
或は、声唖て出ざるもの。其の腹状は、胸満して腹部上に迫り、
気上衝して、少腹力なきもの、麦門冬湯の證なり。
此の方や、麦門冬湯を以て、主薬として、特に分量多し。
燥きを潤し、煩を解し、疼を去り、
咳をとめて、逆気を低(さげる)するの意を見るべし。
或曰く、「虚労、咳嗽、痰出でがたく、
若しくは、咳血、衄血(はなぢ)のもの、
本方の證に随って、地黄石膏を加う。
若しくは、狂癇にして衝逆するもの、石膏黄連を加う」と。
證に曰く、「大逆上気、咽喉利せず。
逆を止め、気を下すは、麦門冬湯之を主る」
(大逆は、大いに咳嗽、気逆するなり。
上気は、気逆して上部に迫るなり。
衝気、或いは気上衝とは、意、自ら異なるなり。
衝気は、気上って胸をつくなり。
上気は、但、逆気上部にのぼりあつまるなり。
例に曰く、「上気、面浮腫、肩息云々」見るべし。
咽喉不利とは、のどぶえの、かよいあしく、
音声出がたく、痰がかわかず、きれがたきの類をいう。
是れ、虚火炎上して、肺部をおかすゆえ、
咳逆を止め、上気を方の主治する所なり)


【麦門冬湯:組成】

麦門冬(ばくもんどう)

麦門冬
麦門冬

ユリ科のジャノヒゲの塊根。
性味:甘・微苦・微寒
帰経:肺・心・胃
主な薬効と応用:
①清熱潤肺・止咳:
肺熱傷陰や肺陰虚による乾咳・
粘稠で切れにくい痰や血痰などの症候時に用いる。
方剤例⇨麦門冬湯

②養胃生津:
胃陰不足の口渇・舌の乾燥時に用いる。
方剤例⇨益胃湯

③清心除煩:
心陰虚の不眠・焦躁などの症候時に用いる。
方剤例⇨天王補心丹

④潤腸通便:
津虚による腸躁便秘に用いる。
方剤例⇨増液湯

備考:
寒性で潤のため外感風寒や痰飲湿濁による
咳嗽・脾胃虚寒の泄瀉には禁忌となる。



半夏(はんげ)

半夏
半夏

サトイモ科のカラスビシャクの塊茎。
性味:辛・温・有毒
帰経:脾・胃
主な薬効と応用:鎮静・鎮咳・去痰
①燥湿化痰:
湿痰の咳嗽・多痰・胸苦しさ、或いは痰濁上擾による
眩暈・不眠・悪心などの症候時に用いる。
方剤例⇒二陳湯

②降逆止嘔:
胃寒・胃熱・胃虚による嘔吐時に用いる。
方剤例⇒胃寒による嘔吐→小半夏湯
胃熱による嘔吐→黄連橘皮竹筎半夏湯
胃虚による嘔吐→大半夏湯

③消痞散結:
痰熱による心窩部の痞えなどに用いる。
方剤例⇒半夏瀉心湯

備考:
辛散温燥のため、陰虚の燥咳・
傷津の口渇・出血には用いてはならない。



人参(にんじん)

人参
人参

ウコギ科のオタネニンジンの根。
性味:甘・微温・微苦
帰経:肺・脾
主な薬効と応用
①補気固脱:
大病・久病・大出血・激しい嘔吐などで
元気が虚衰して生じるショック状態時に用いる。
方剤例⇒独参湯

②補脾気:
脾気虚による元気がない・疲れやすい・食欲不振、
四肢無力・泥状~水様便などの症候時に用いる。
方剤例⇒四君子湯

③益肺気:
肺気虚による呼吸困難・咳嗽・
息切れ(動くと増悪する)・自汗などの症候時に用いる。
方剤例⇒人参胡桃湯

④生津止渇:
熱盛の気津両傷で高熱・口渇・多汗・
元気がない・脈が大で無力などの症候時に用いる。
方剤例⇒白虎加人参湯

⑤安神益智:
気血不足による心身不安の不眠・動悸・
健忘・不安感などの症候時に用いる。
方剤例⇒帰脾湯

備考:
生化の源である脾気と一身の気を主る
肺気を充盈することにより一身の気を旺盛にし、大補元気の効能をもつ。
すべての大病・久病・大出血・大吐瀉による元気虚衰の
虚極欲脱・脈微欲脱に対して最も主要な薬物。



甘草(かんぞう)

甘草
甘草

マメ科のウラル甘草の根。
性味:平・甘
帰経:脾・肺・胃
主な薬効と応用
①補中益気:脾胃虚弱で元気がない・
無力感・食欲不振・泥状便などの症候に用いる。
方剤例⇒四君子湯

②潤肺・祛痰止咳:
風寒の咳嗽時に用いる。
方剤例⇒三拗湯

③緩急止痛:
腹痛・四肢の痙攣時などに用いる。
方剤例⇒芍薬甘草湯

④清熱解毒:
咽喉の腫脹や疼痛などに用いる。
方剤例⇒甘草湯

⑤調和薬性:
性質の異なる薬物を調和させたり、偏性や毒性を軽減させる。

備考:
生用すると涼性で清熱解毒に、密炙すると温性で補中益気に働く。



大棗(たいそう)

大棗
大棗

クロウメモドキ科の棗(なつめ)の果実。
性味:温・甘
帰経:脾
主な薬効と応用:鎮静・抗アレルギー
①補脾和胃:
脾胃虚弱の倦怠無力・食欲不振・泥状便などの症状に用いる。
方剤例⇒六君子湯

②養営安神:
営血不足による不眠・不安感などに用いる。
方剤例⇒甘麦大棗湯

③緩和薬性:
薬力が強力な薬物に配合し、性質を緩和し脾胃の損傷を防止する。
方剤例⇒十棗湯

備考:
湿盛の脘腹脹満・食積・虫積・齲歯・痰熱咳嗽などには禁忌となる。



粳米(こうべい)
イネ科のイネの穀粒で籾を去った玄米
性味:甘
帰経:脾・胃
主な薬効:
健胃・健脾作用、補気作用


【麦門冬湯:効能】

『金匱要略』には、
大逆上氣、咽喉不利、止逆下氣者、麥門冬湯主之
大逆上気し、咽喉利せず、逆を止め気を下すは、麦門冬湯之を主る
とある。
虚熱に対する方剤と考えられており、
効能は、
滋養肺胃・降逆下気であり、
肺胃を滋潤して上逆した気機を下降させることができる。


参考文献:
『生薬単』 NTS
『漢方概論』 創元社
『傷寒雑病論』 東洋学術出版
『腹證奇覧 全』 医道の日本社
『中医臨床のための方剤学』
『中医臨床のための中薬学』 神戸中医学研究会

画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
是非参考文献を読んでみて下さい。


本多


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