大黄
大黄

張仲景の古医書『傷寒論』の解説です。

今回の傷寒論は弁陽明病脈証并治 二百六十一章と二百六十二章。
二百六十一章では、身体に黄疸が現れ、しかも発熱している場合の証治について。
二百六十二章では、身黄と表証が同時に出現した場合の証治について
それぞれ詳しく述べております。


二百六十一章

傷寒、身黄、發熱者、梔子蘗皮湯主之。方四十三。
肥梔子十五箇、擘 甘草一兩、炙 黄蘗二兩
右三味、以水四升、煮取一升半、去滓、分溫再服。

和訓:
傷寒身黄ばみ、発熱するは、梔子蘗皮湯之を主る。方四十三。
肥梔子十五箇、擘く   甘草一両、炙  黄蘗二両
右三味、水四升を以て、煮て一升半を取り、滓を去り、分かち温め再服す。


傷寒、身黄、發熱者、梔子蘗皮湯主之
傷寒証で身黄、発熱しているのは
湿熱が内で鬱滞し外に熱蒸しているために発熱しているのである。
これは表証として発汗させることも裏証として攻下させることもできない。
湿熱が鬱滞し、三焦の気機が失調した場合は
梔子柏皮湯で清熱・利湿・袪黄を行うとよい。

梔子柏皮湯

山梔子
山梔子

山梔子
基原:
アカネ科のクチナシ、
またはその他同属植物の成熟果実。

球形に近いものを山梔子、
細長いものを水梔子として区別する。
山梔子は苦寒で清降し緩除に下行し、
心・肺・三焦の火を清して利小便し
気分に入って瀉火除煩・泄熱利湿するとともに、
血分に入り凉血止血・解毒に働く。
熱病の熱蘊胸膈による心煩懊憹、
熱欝血分による吐衄下血・瘡癰熱毒、
湿熱蘊結による淋閉黄疸などの要薬である。

甘草
甘草

甘草
基原:
マメ科のウラルカンゾウ、
またはその他同属植物の根およびストロン。

甘草の甘平で、脾胃の正薬であり、
甘緩で緩急に働き、補中益気・潤肺祛痰・止咳・
清熱解毒・緩急止痛・調和薬性などの性能を持つ。
そのため、脾胃虚弱の中気不足に用いられる。
また、薬性を調和し百毒を解すので、
熱薬と用いると熱性を緩め
寒薬と用いると
寒性を緩めるなど薬性を緩和し薬味を矯正することができる。
ここでは甘緩和中と諸薬の調和に働く。

黄柏
黄柏

黄柏
ミカン科のキハダまたはその他同属植物の周皮を除いた樹皮。
南方に産するものほど樹皮が厚く良品とされる。

黄柏は苦寒で沈降し、清熱燥湿・解毒療瘡に働き
腎経相火を瀉し下焦の湿熱を清泄する効能に優れている。
湿熱蘊結による黄疸・尿閉・淋濁・帯下・熱痢・
泄瀉・便血・痔漏・足膝腫痛、および陰虚火旺の骨蒸労熱・盗汗遺精・
癰腫瘡毒・湿瘡瘙痒などに用いる。

提要:
身体に黄疸が現れ、しかも発熱している場合の証治について。

『現代語訳 宋本傷寒論』訳を使用:
傷寒の病に罹って身体の黄染と発熱がある場合は、梔子蘗皮湯で治療する。
処方を記載。第四十三法。
肥梔子十五個、裂く   甘草一両、炙る  黄柏二両
右の三味を、四升の水で、一升半になるまで煮て、滓を除き、二回に分けて温服する。


二百六十二章

傷寒、瘀熱在裏、身必發黄、麻黄連軺赤小豆湯主之。
麻黄二兩、去節 連軺二兩、連翹根是 杏仁四寸箇、去皮尖
赤小豆一升 大棗十二枚、擘 生梓白皮切、一升  生薑二兩、切 甘草二兩、炙
右八味、以潦水一斗、先煮麻黄再沸、去上沫、
内諸薬、煮取三升、去滓、分溫三服、半日服尽。

和訓:
傷寒、瘀熱裏に在れば、
身必ず黄ばみ、麻黄連軺赤小豆湯之を主る。

麻黄二両、節を去る  連軺 二両、連翹根是れなり  杏仁四十箇、皮尖を去る
赤小豆一升   大棗十二枚、擘く 生梓白皮切る、一升  生薑二両、切る   甘草二両、炙る
右八味、潦水一斗を以て、先ず麻黄を煮ること再沸、上沫を去り、
諸薬を内れ、煮て三升を取り、滓を去り、
分かち温め三服し、半日に服し尽す。


傷寒、瘀熱在裏、身必發黄、麻黄連軺赤小豆湯主之
傷寒証で表邪があるが無汗である。
これは熱が内に鬱して外に発散せず、
湿と蘊結、熱結して、身黄が出現したのである。
表邪がまだ治っていないだけなので
麻黄連軺赤小豆湯を与え、表解、清熱、除湿を行えば良い。

麻黄連軺赤小豆湯

麻黄
麻黄

麻黄
基原:
マオウ科のシナマオウをはじめとする
同属植物の木質化していない地上茎。
去節麻黄は節を除去したもの。

辛温・微苦で肺・膀胱に入り、辛散・苦降・温通し、
肺気を開宣し腠理を開き
毛窮を透して風寒を発散するので、
風寒外束による表実無汗や肺気壅渇の喘咳の常用薬である。
また、肺気を宣発して水道を通調するとともに、
膀胱を温化して利水するので、水腫に表証を兼ねるときにも適する。
辛散温通の効能により、散風透疹・温経散寒にも使用できる。

連翹
連翹

連翘
基原:
モクセイ科のレンギョウなどの果実。
韓国産はチョウセンレンギョウで
同様に利用する。

連翘は苦寒で軽清上浮で、
苦で瀉火し寒で清熱し、表裏を透達し、
清心瀉火と上焦の熱の解散に長じている。
それゆえ、外感 風熱・温邪発熱・発斑発疹や
外感熱病の煩熱神昏に常用する。
また、瀉火するとともに気血を宣暢して
血積気聚を消散し、瀉火解毒・消腫散散の効能をもち
癰瘍腫毒・瘰癧結核に有効であり、瘡家の要薬になっている。
このほか、清熱利小便にも働くので、
熱結尿閉は清瀉心火に長じ、
邪入心包の煩熱神昏に対する良薬である。

杏仁
杏仁

杏仁
基原:
バラ科のホンアンズ、アンズなどの種子。
苦味のあるものを苦杏仁、
苦味がなく甘味があるものを甜杏仁と称するが
植物形態的な違いはない。

杏仁は苦辛・温で、肺経気分に入り、
苦降・辛散により下気・止咳平喘するとともに
肺経の風寒痰湿を疏散するので、
外邪の侵襲や痰濁内阻による
肺気阻塞で
咳喘・痰多を呈するときに適する。
熱には清熱薬を、寒には温化薬を、
表邪には解表薬を、燥邪には潤燥薬を、
それぞれ加えることにより邪実に対処することができる。
また、質潤で油質を含み、
滑腸通便の効能をもつので、腸燥便秘にも有効である。

赤小豆
基原:
マメ科のツルアズキ、またはアズキの成熟種子。

赤小豆は甘酸・偏凉で下行し水道を通利し
水湿を下出して消腫し、湿熱を外泄して退黃し、
かつ心経に入って降火行血して清熱解毒する。
利水消腫・利湿退黃・清熱解毒の効能により、
水腫・脚気・小便不利・黄疸・瘡毒などに適する。

大棗
大棗

大棗
基原:
クロウメモドキ科のナツメ。またはその品種の果実。

甘温で柔であり、補脾和胃と養営安神に働くので、
脾胃虚弱の食少便溏や営血不足の臓燥など心神不寧に使用する。
また薬性緩和にも働き、峻烈薬と同用して薬力を緩和にし、脾胃損傷を防止する。
ここでは、脾胃を補うとともに
芍薬と協同して筋肉の緊張を緩和していく。
また、生薑との配合が多く、
生薑は大棗によって刺激性が緩和され、
大棗は生薑によって気壅致脹の弊害がなくなり、
食欲を増加し消化を助け、大棗が営血を益して
発汗による
傷労を防止し、営衛を調和することができる。

提要:
身黄と表証が同時に出現した場合の証治について。

『現代語訳 宋本傷寒論』訳を使用:
傷寒に罹って瘀熱が裏にある場合は、
やがて身体が黄染するが、麻黄連軺赤小豆湯で治療する。
麻黄二両、節を除く  連軺 二両、連翹根のことである  杏仁四十個、皮尖を除く
赤小豆一升   大棗十二個、裂く 生梓白皮切る、一升  生薑二両、切る   甘草二両、炙る
右の八味は、一斗の潦水で、まず麻黄をしばらく煮て、浮かんだ泡を除き、
残りの諸薬を入れて、三升になるまで更に煮て、
滓を除き、三回に分けて温服するが、半日で全部服用する。


参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』   東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』  績文堂
『中医臨床家のための中薬学』
『中医臨床家のための方剤学』 医歯薬出版株式会社

生薬イメージ画像:
『中医臨床家のための中薬学』 医歯薬出版株式会社

※画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
是非参考文献を読んでみて下さい。

為沢

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