人参芎軍桃花湯の證
図の如く、腹張満、心下痞硬、食不下、一身悉く浮腫し、
両便利せず、百薬効なきもの。此の腹證、張満甚だしきゆえ、
腹底の毒診察し難し。此の時、浮水を去りて而して后、
旧毒を知って、方證相対の薬剤を以って毒を攻るに非らざれば治し難し。
而れども、又、始めより、本剤極わむることあり。一もみな、
腹診の審らかなればなり。ここに云う人参芎軍桃花湯は、張満、
心下痞硬して、これを按ずれば腹中雷鳴す。此れ大いに白桃花湯の證なり。
余、諸州を遊歴して、浮腫脹満のものは治療数多にして、これを覚ゆ。
この證、或は鼓脹或は中風半身不随、みな難治として衆医手を拱かぬ。
その毒、積年あつまり一時に発するものなり。故に浮水を去って、謹んで、
腹底の旧毒を考うるに、凡そ大承気湯・或は桃軍圓、或は癥痼圓、
或は、大黄牡丹皮湯、この四方、過半・大剤を以って長く攻るに非ざれば治し難し。
内経に曰く、「重きものは因つて之を減ず。故に凡そ、積年の患、豈、
一薬にして愈ゆべけんや。暫く減じて之を去るべし。云々」と。
克、衆病人を療して合するに、此のこと是なり。都べて、
陳寒痼冷のもの皆かくの如し。
又、云く「凡そ、死證のものを考うるに、予めしるもの三あり。一に云く、
臍穴張り出て英の如し。二に云く 、足裏、一面に満ち腫ること甚だしきもの。
三に云く、尸悪臭、下痢するもの。この三つのもの、一つもあれば、必ず死す」と。
又、云く「或は此の三、四の方中、一方の證有って自若として動かざるものあり。
或はこの一、二の證ありて、傍ら他證一、二、若しくは二、四兼ねるものあり。
その知方、先ずその大なるものを攻ることあり。或は先ず、
その小なるものを除き去りて後、大なるもの攻むることあり。又、
相互にその證を顕わすときは、相互にその毒を攻むことあり。」と。
此等の数件、苟も、診腹に審らかなる者に非らざれば、機に臨み変に応ずること能わず。
豈 、一時・筆頭の尽すべきことならんや。親しく口授を受けて、刻意苦慮するに非ざれば、
その奥に入ること能わず。
画像:
『腹証奇覧 正編2巻』
京都大学貴重資料デジタルアーカイブより
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00004913