こんにちは、本多です。
今回は腹證奇覧に掲載しております、
桂枝加黄耆湯についてです。

桂枝加黄耆湯

桂枝加黄耆湯
桂枝加黄耆湯

右図の如く衝逆して、頭部より項背に及んで強急し、
胸前缺盆の辺も亦凝結するものあり。
水気、心胸より上頭項に聚り、肌膚潤沢なく滑淖ならず。
甚しきものは、皮膚甲錯枯燥し、
腠理密ならず。
是れ陽気盛んならずして、正気皮膚に達し難く、
却って上升して下降すること少なく、
表虚して下衰えて、諸證ここに見わる。
桂枝加黄耆湯の證なり。
其の腹状は体率、桂枝湯によるべしと雖も、
此の證は特に循按(撫でて診る)の法を用いて、
肌膚の診を審らかにすることを要とす。
但し其の肌膚の診は、図画の貌すべきなく、
文辞も尽くべきに非ず。
之を手に得て心に応じ、黙して識りべきのみ。
古えに所謂「尺の滑濇を循て肉の堅脆を審かにする」もの、
其れ欺の謂いなる哉。
抑、其の略を言わんに、医の掌を平らかに肌に当て、
心胸より腹に至り、軽く循で下ること幾遍もして、
肌膚の正気の旺衰を察すべし。
肌膚温々たる中に、
何となくむっくりとしたる意を含みたるものは、
正気旺ずるものとし、
何となくガサガサとしたるように覚えて肌膚腠理のしまりなく、
別けて胸肺の間は隠然(どこともなく)として水気ありて満(はる)するの状あり。
夫れより肩背項頸より頭中にさしこみたる水気あるもの、
或は項背ににきびの如き細疹を発するもあり。
凡そ此れ等の診に心をつけて、数人に試み得ば、
自ら正気の旺衰虚実の状を了解すべし。
而して脈を対診して衛気の旺盛を察すること、
亦微々の間にありと知るべし。
丹渓が謂う所の
「肥白にして汗多きもの黄耆に宜しく、黒痩のものに用い難し」の説も、
一にして其の要を得たりとは言い難し。
黒痩肥白は皮膚の水気の有無による。
且つ自汗・盗汗は正気の労より出づ。
是れ皆、黄耆の治するところと雖も、偏に水気のみを去るに非ず。
但、正気の労を助けて肌表に旺ぜしむるもの主とする所なり。
故に表和して汗自ら止み、肌実して水自ら去る。
何ぞ啻に、皮膚の水気のみ是れを主とせんや。


【桂枝加黄耆湯:組成】

大棗(たいそう)

大棗
大棗

クロウメモドキ科の棗(なつめ)の果実。
性味:温・甘
帰経:脾
主な薬効と応用:鎮静・抗アレルギー
①補脾和胃:脾胃虚弱の倦怠無力・食欲不振・泥状便などの症状に用いる。
方剤例⇒六君子湯
②養営安神:営血不足による不眠・不安感などに用いる。
方剤例⇒甘麦大棗湯
③緩和薬性:薬力が強力な薬物に配合し、性質を緩和し脾胃の損傷を防止する。
方剤例⇒十棗湯
備考:湿盛の脘腹脹満・食積・虫積・齲歯・痰熱咳嗽などには禁忌となる。



生薑(しょうきょう)

生薑
生薑

ショウガ科のショウガの根茎。
性味:温・辛
帰経:肺・脾・胃
主な薬効と応用:健胃・発汗・鎮咳
①散寒解表:風寒表証に辛温解表薬の補助として発汗を増強する。
方剤例⇒桂枝湯
②温胃止嘔:胃寒による嘔吐に、単味であるいは半夏などと使用する。
方剤例⇒小半夏湯
③化痰行水:風寒による咳嗽・白色で希薄な痰などの症候時に用いる。
方剤例⇒杏蘇散
備考:傷陰助火するので、陰虚火旺の咳嗽や瘡癰熱毒には禁忌である。



黄耆(おうぎ)

黄耆
黄耆

マメ科のキバナオウギ・ナイモウオウギなどの根。
性味:甘・温
帰経:肺・脾
主な薬効と応用:
①補気昇陽:脾肺気虚の元気がない・疲れやすい・無力感・食欲不振・息切れ
自汗・泥状便などの症候時などに用いる。
方剤例⇒参耆膏
②補気摂血:気不摂血による血便・不正性器出血・皮下出血などの症候時に用いる。
方剤例⇒帰脾湯
③補気行滞:気虚血滞による肢体の痺れ・運動障害・半身不随などの症状時に用いる。
方剤例⇒蠲痺湯
④固表止汗:表虚の自汗・盗汗の症状時に用いる。
方剤例⇒当帰六黄湯
⑤托瘡生肌:気血不足のために癰疽瘡瘍(皮下化膿症)の化膿が遅い、排膿しない
薄い滲出が続くなどの症候時に用いる。
方剤例⇒透膿散
⑥利水消腫:気虚の水湿不運による浮腫・尿量減少などの症状に用いる。
方剤例⇒防已黄耆湯
備考:性質が温昇なので、表実邪盛・裏実積滞・気実胸満・陽盛陰虚などには用いてはならない。



桂枝(けいし)

桂枝
桂枝

クスノキ科のケイの若枝またはその樹皮。
性味:辛・温・甘
帰経:肝・心・脾・肺・腎・膀胱
主な薬効と応用
①発汗解肌:風寒表証の頭痛・発熱・悪寒・悪風などの症候時に用いる。
方剤例⇒桂枝湯
②温通経脈:風寒湿痺の関節痛時に用いる。
方剤例⇒桂枝附子湯
③通陽化気:脾胃虚寒の腹痛時などに用いる。
方剤例⇒小建中湯
④平衡降逆:心気陰両虚で脈の結代・動悸がみられるときなどに用いる。
方剤例⇒炙甘草湯
備考:麻黄の発汗作用には劣るものの温経散寒の作用の効力は強く、
解肌発汗して寒邪を散じることができる。



甘草(かんぞう)

甘草
甘草

マメ科のウラル甘草の根。
性味:平・甘
帰経:脾・肺・胃
主な薬効と応用
①補中益気:脾胃虚弱で元気がない・
無力感・食欲不振・泥状便などの症候に用いる。
方剤例⇒四君子湯
②潤肺・祛痰止咳:風寒の咳嗽時に用いる。
方剤例⇒三拗湯
③緩急止痛:腹痛・四肢の痙攣時などに用いる。
方剤例⇒芍薬甘草湯
④清熱解毒:咽喉の腫脹や疼痛などに用いる。
方剤例⇒甘草湯
⑤調和薬性:性質の異なる薬物を調和させたり、偏性や毒性を軽減させる。
備考:生用すると涼性で清熱解毒に、密炙すると温性で補中益気に働く。



白芍(びゃくしゃく)

芍薬
芍薬

ボタン科のシャクヤクのコルク皮を除去し、
そのままあるいは湯通しして乾燥した根。
性味:苦・酸・微寒
帰経:肝・脾
主な薬効と応用
①補血斂陰:血虚による顔色につやがない・頭のふらつき、
めまい・目がかすむ四肢の痺れ・月経不順などの症候に用いる。
方剤例⇒四物湯
②柔肝止痛:肝鬱気滞による胸脇部の張った痛み・憂鬱感・イライラなどの症候時に用いる。
方剤例⇒四逆散
③平肝斂陰:肝陰不足・肝陽上亢によるめまい・ふらつきなどの症状に用いる。
方剤例⇒鎮肝熄風湯
備考:炒用すると補気健脾、生用すると燥湿利水に働く。


【桂枝加黄耆湯:効能】
調和営衛通陽祛湿の効能がある。
表虚があきらかな場合に用いるとよい。


参考文献:
『生薬単』 NTS
『腹證奇覧 全』 医道の日本社
『中医臨床のための方剤学』
『中医臨床のための中薬学』 神戸中医学研究会

画像:
『腹証奇覧翼 二編2巻』
京都大学貴重資料デジタルアーカイブより
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00004922

画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
是非参考文献を読んでみて下さい。


本多

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