厚朴
厚朴

張仲景の古医書『傷寒論』の解説です。

今回の傷寒論は弁陽明病脈証并治 二百四十九章と二百五十章と二百五十一章。
二百四十九章では、誤って吐法を用いて、津傷熱実となった場合の証治について。
二百五十章では、誤治のあと津傷・気滞となった場合の証治について。
二百五十一章では、大小の承気湯の使用方法について詳しく述べております。


二百四十九章

傷寒吐後、腹脹滿者、與調胃承氣湯。方三十三。

和訓:
傷寒吐して後、腹脹満するものは、調胃承気湯を与う。三十三。


傷寒吐後、腹脹滿者、與調胃承気湯
表に寒邪があるのに、医者は発汗法を行わず吐法を行ったところ
津傷・胃燥となって胃熱を助長させ、「腹脹満痛」の実証を出現させた。
腑が実証ではないのに誤って吐法を行い、
胃気を不和にさせた場合は、攻下法も適当ではないので
調胃承気湯で胃気を調和しながら瀉熱・通便させればよい。

調胃承気湯
こちらを参照→【古医書】傷寒論: 弁陽明病脈証并治 二百七章・二百八章

提要:
誤って吐法を用いて、津傷熱実となった場合の証治について。

『現代語訳 宋本傷寒論』訳を使用:
傷寒の患者が催吐法で治療された後に、
腹部膨満する場合は、調胃承気湯で治療すればよい。第三十三法。


二百五十章

太陽病、若吐若下若發汗後、微煩、
小便數、大便因鞕者、與小承氣湯、和之愈。三十四。

和訓:
太陽病、若しくは吐し若しくは下し若しくは發汗して後、
微かに煩し、小便数、大便因りて鞕きものは、
小承気湯を与え之を和すれば愈ゆ。三十四。


太陽病、若吐若下若發汗後、微煩、
小便數、大便因鞕者、與小承気湯、和之愈
太陽病で誤って吐法、下法、発汗法を行った後、
熱邪が裏に入り、津液を損傷することによって
化燥して陽明腑証になり、
胃腸は乾燥し潤いを失い、そのため大便も硬くなる。
胃腸の燥熱がとても激しいため
津液は追われるようにして小便とともに滲出し
胃腸に還元できなくなる。
大便は硬く排出困難になるが小便は逆に多くなる。
小便の回数が多くなれば多くなるほど
津液もそれとともに排出されていき
胃腸の燥はさらに悪化し、便秘も甚だしくなる。
また、体内に熱が停滞していると
心にも影響するので煩燥もみられる。

小承気湯
こちらを参照→【古医書】傷寒論: 弁陽明病脈証并治 二百十三章・二百十四章

提要:
誤治のあと津傷・気滞となった場合の証治について。

『現代語訳 宋本傷寒論』訳を使用:
太陽病の患者が、催吐法、或いは攻下法、或いは発汗法による治療を経た後、
依然と軽微な煩燥があり、小便が頻数で、その結果大便が硬くなっている場合は
小承気湯で胃気を調えると治癒する。第三十四法。


二百五十一章

得病二三日、脉弱、無太陽柴胡證、
煩燥、心下鞕、至四五日、雖能食、
以小承氣湯、少少與、微和之、令小安、
至六日、與承氣湯一升、若不大便六七日、小便少者、
雖不能食、但初頭鞕、後必溏、未定成鞕、攻之必溏。
須小便利、屎定鞕、乃可攻之、宜大承氣湯。三十五。

和訓:
病を得て二三日、脉弱、太陽、柴胡の証なく、
煩燥して、心下鞕し。四五日に至り、能く食すと雖も、
小承気湯を以て、少少与え、微かに之を和し、
小し安からしめ、六日に至り、承気湯一升を与う。
若し大便せざること六七日にして、小便少なきものは、
食を受けずと雖も、但だ初頭鞕く、
後必ず溏し、未だ鞕しと成ると定まらず、
之を攻むれば必ず溏す。小便利し、屎鞕しと定まるを須ち、
乃ち之を攻むべし。大承気湯に宜し。三十五。


得病二三日、脉弱
陽明病で脉大が診られず、脉弱を示している場合は
虚実を特に詳しく診る必要がある。

無太陽柴胡證、煩燥、心下鞕
太陽表証、少陽半表半裏証が出現していないことから
煩燥、心下鞕は陽明病であることがわかる。

至四五日、雖能食
4〜5日後、食物がよく食べられれば、
これは胃に熱があるためである。

以小承気湯、少少與、微和之、令小安
小承気湯を少し与えて、胃気を和しながら虚実を判断すればよい。

至六日、與承気湯一升
病に至り、6日目になっても
まだ症状が以前と同じであれば
胃中に熱実があるということなので
さらに小承気湯を一升与えて便を下し熱を除いていく。

若不大便六七日、小便少者、
雖不能食、但初頭鞕、後必溏
陽明病で煩燥し、6〜7日も排便がなく
小便が少ない場合、これは津液が胃中に戻らず
腸に燥尿として残っているためである。
胃腸が膨満して食べられず、
潮熱、譫言の実証もなく、便は初めは硬く
あとは軟便であることにより
水穀を分別できていないことがわかる。

未定成鞕、攻之必溏。
須小便利、屎定鞕、乃可攻之、宜大承気湯
完全な硬い便となっていない時に攻下法を行うと
脾胃の陽気は傷ついて、泄瀉を引き起こしてしまう。
先ず利尿法を検討して完全な燥尿とさせてから
大承気湯で攻下させればよい。

小承気湯
こちらを参照→【古医書】傷寒論: 弁陽明病脈証并治 二百十三章・二百十四章

大承気湯
こちらを参照→【古医書】傷寒論: 弁陽明病脈証并治 二百三十八章・二百三十九章

提要:
大小の承気湯の使用方法について。

『現代語訳 宋本傷寒論』訳を使用:
病に罹って二三日になると、
脈は弱で、太陽証や柴胡湯証はみられず、
イライラして心下部は硬く膨満してくる。
四五日に経つと、食べられるようになるが、
少量の小承気湯を服用させ、胃気を少し調えるだけで
患者に少し爽快感を与えることができる。
六日目に再び承気湯を一升服用させる。
もし六〜七日も大便が出ず、しかも尿が少ないなら
食べることができなくても、大便が硬いのは出始めだけで
後は必ず稀溏な水様便となる。
大便はまだ硬くなっていないので、
この段階で攻下法を用いる大便は必ず溏便となるのだ。
必ず小便をよく出して、大便が完全に硬くなってから、
攻下法を用いるのがよく、これには大承気湯が適している。
第三十五法。


参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』   東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』  績文堂
『中医臨床家のための中薬学』
『中医臨床家のための方剤学』 医歯薬出版株式会社

生薬イメージ画像:
『中医臨床家のための中薬学』 医歯薬出版株式会社

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是非参考文献を読んでみて下さい。

為沢


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