こんにちは、本多です。
今回は腹證奇覧に記載している、
当帰四逆湯の證の記事を掲載致します。
当帰四逆湯
図の如く腹皮拘攣すること、
桂枝加芍薬湯、小建中湯の腹状に似たり。
且つ左の臍傍天枢の上下に攣痛するものあること、
当帰芍薬散・当帰建中湯の證に似たり。
右の少腹腰間に於いて結聚するものあり。
手足冷え、脈細にして力なきもの、当帰四逆湯の證とす。
案ずるに、此の方は桂枝湯方中の生姜を去りて細辛に代え、
更に当帰・通草を加え、大棗を増したるものなり。
下焦の寒気上りて心下にあり。
正気抑塞せられて、肌表に充ずして四肢に及ばず、
血脈渋滞して駃流の勢なきものとす。
細辛、能く中焦の冷気を散じ、胃口に抑塞せる水気を排く。
通草、能く其の水を引いて小便に利し、
関節を通じて、陽気を導くに便りす。
余は血脈を和し、正気を滋達すること、
桂枝湯の皆意なるものと知るべし。
但、当帰は之が主となりて、芍甘の二味に和し、
腹中の結血攣引するものを解くことを能くす。
【当帰四逆湯:組成】
当帰(とうき)
セリ科の根をいう。根頭部を帰頭、主
根部を当帰身、支根を当帰尾、
帰身と帰尾を含めて全当帰という。
性味:甘・辛・苦・温
帰経:心・肝・脾
主な薬効と応用:
①補血調経:
血虚による顔色につやがない・
頭のふらつき・眩暈・目がかすむ
月経不順・月経痛・心悸などの症候時に用いる。
方剤例⇒四物湯
②活血行気・止痛:
気滞血瘀の疼痛や腹腔内腫瘤などに用いる。
方剤例⇒桃紅四物湯
③潤腸通便:
腸燥便秘時に用いる。
方剤例⇒潤腸丸
備考:
補血には当帰身、活血には当帰尾、
和血には全当帰を使用するのが好ましい。
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桂枝(けいし)
クスノキ科の桂(ケイ)の樹皮。
性味:温・甘・辛
帰経:心・脾・肺・膀胱
主な薬効と応用:発汗・鎮痛・解熱
①温中補陽:
腎陽虚による四肢の冷え・
腰や膝が無力・頻尿・夜間尿などの症状に用いる。
方剤例⇒桂苓丸
②散寒止痛:
虚寒による腹痛・疝痛などに用いる。
方剤例⇒理陰煎
③温通経脈:
皮膚潰瘍・慢性炎症などに用いる。
方剤例⇒陽和湯
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白芍(びゃくしゃく)
ボタン科のシャクヤクのコルク皮を除去し、
そのままあるいは湯通しして乾燥した根。
性味:苦・酸・微寒
帰経:肝・脾
主な薬効と応用
①補血斂陰:
血虚による顔色につやがない・頭のふらつき、
めまい・目がかすむ四肢の痺れ・
月経不順などの症候に用いる。
方剤例⇒四物湯
②柔肝止痛:
肝鬱気滞による胸脇部の張った痛み・
憂鬱感・イライラなどの症候時に用いる。
方剤例⇒四逆散
③平肝斂陰:
肝陰不足・肝陽上亢によるめまい・ふらつきなどの症状に用いる。
方剤例⇒鎮肝熄風湯
備考:
炒用すると補気健脾、生用すると燥湿利水に働く。
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細辛(さいしん)
ウマノスズクサ科のケイリンサイシン、
または、ウスバサイシンの根をつけた全草
性味:辛・温
帰経:肺・腎
主な薬効と応用:
①散寒解表:
風寒表証の発熱・悪寒・頭痛・
身体痛・鼻閉・脈が浮などの症候に用いる。
方剤例→九味羗活湯
②温肺止痛:
寒飲による咳嗽・呼吸困難・希薄な痰などの症候に用いる。
方剤例→小青竜湯
③祛風止痛:
風寒の頭痛などの症候時に用いる。
方剤例→川芎茶調散
備考:
気虚による多汗・陰虚火旺・血虚内熱・乾咳無痰などには用いてはならない。
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炙甘草(しゃかんぞう)
マメ科のウラル甘草の根。
性味:平・甘
帰経:脾・肺・胃
主な薬効と応用:去痰・鎮咳・抗炎症
①補中益気:
脾胃虚弱で元気がない・
無力感・食欲不振・泥状便などの症候に用いる。
方剤例⇒四君子湯
②潤肺・祛痰止咳:
風寒の咳嗽時に用いる。
方剤例⇒三拗湯
③緩急止痛:
腹痛・四肢の痙攣時などに用いる。
方剤例⇒芍薬甘草湯
④清熱解毒:
咽喉の腫脹や疼痛などに用いる。
方剤例⇒甘草湯
⑤調和薬性:
性質の異なる薬物を調和させたり、偏性や毒性を軽減させる。
備考:
生用すると涼性で清熱解毒に、密炙すると温性で補中益気に働く。
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通草(つうそう)
ウコギ科のカミヤツデの茎髄
性味:甘・淡・寒
帰経:肺・胃
主な薬効と応用:
①清熱利水:
湿熱下注の排尿痛・排尿困難時に用いる。
方剤例⇒通草湯
②通気下乳:
乳汁の分泌不全に用いる
方剤例⇒通乳湯
備考:妊婦には使用してはならない。
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大棗(たいそう)
クロウメモドキ科の棗(なつめ)の果実。
性味:温・甘
帰経:脾
主な薬効と応用:鎮静・抗アレルギー
①補脾和胃:
脾胃虚弱の倦怠無力・食欲不振・泥状便などの症状に用いる。
方剤例⇒六君子湯
②養営安神:
営血不足による不眠・不安感などに用いる。
方剤例⇒甘麦大棗湯
③緩和薬性:
薬力が強力な薬物に配合し、性質を緩和し脾胃の損傷を防止する。
方剤例⇒十棗湯
備考:
湿盛の脘腹脹満・食積・虫積・
齲歯・痰熱咳嗽などには禁忌となる。
【当帰四逆湯:主治】
血虚受寒・寒滞肝脈などによる、
手足の冷え・下腹部や下肢の冷え、痛みなどの症候時に、
温経散寒・養血通脈の効能がある。
参考文献:
『生薬単』 NTS
『漢方概論』 創元社
『腹證奇覧 全』 医道の日本社
『中医臨床のための方剤学』
『中医臨床のための中薬学』 神戸中医学研究会
画像:
『腹証奇覧翼 初編2巻』
京都大学貴重資料デジタルアーカイブより
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00004921
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本多