足跡
足跡

こんにちは、本多です。
今回は腹證奇覧に記載している、
桃核承気湯の證の記事を掲載致します。


桃核承気湯

桃核承気湯
桃核承気湯

図の如く、小腹に急結有りて上衝し悪血深し。
諸々の久病を患うる者に此の證多くあり。
数多の病名に拘らず、
只、此の腹證を眼として此の方を本剤と極め、
小腹急結の病毒を攻るなり。
其の毒浅き者は、此の一方にして治することも有れども、
毒深き者は日を追うて重ね進むる時は、其の毒動き変じて諸證交り起こるものなり。
其の時、怠らず兼用して旁の諸證を去りて後、
又、本剤に復して重ね進む。
此の如くにして月を重ね年を経る時は、
何如なる難病痼疾たりとも治せずと云うことなし。
然れども、又、其の方法、是れのみに限らず、
悉く腹中を探り知りて、毒の状に依りて天然自得の腹診あり。
是れ余が臆見短智を以って知るものに非ず。
実に力を尽し功を積みて得る所なり。
諸君子、狐疑することなく、
この術に深く志し努めて以って其の自得なることを知るべし。
且つ、経文に云う。
「但だ小腹急結者は、乃ち之を攻むべし、云々」と。
余、案ずるに、此の十字の語、天然自得の腹診にして、
病毒を去るの妙術を教うる事を知れり。
然る所以は皆、余が諸州遊歴二十余年の間、
並に門人も此の腹診を以って病痾を治すること、
挙げて数え難きを以ってなり。

桃核承気湯の方
大黄(一戔)
芒硝(六分)
桃仁・桂枝・甘草(各五分)
右五味水一盞半を以って六分に煮とり、
滓を去りて芒硝を入れ一度に服す。


【桃核承気湯:組成】

大黄(だいおう)

大黄
大黄

タデ科のダイオウ属植物の根茎や根。
性味:苦・寒
帰経:脾・胃・大腸・肝・心包
主な薬効と応用:緩下・駆瘀血
①瀉熱通腸:胃腸の実熱による、
便秘・腹痛・高熱・意識障害などに用いる。
方剤例⇒大承気湯
②清熱瀉火:火熱上亢による、
目の充血・咽喉の腫痛・鼻出血など上部の火熱の症候に用いる。
方剤例⇒三黄瀉心湯
③行瘀破積:血瘀による無月経や腹痛時に用いる。
方剤例⇒復元活血湯
④清火湿熱:湿熱の黄疸時に用いる。
方剤例⇒茵蔯蒿湯
備考:生用すると瀉下の働きが強くなり、
酒を吹きかけ火で焙ると上部の火熱を清し活血化瘀の働きが強くなり、
酒とともに蒸すと瀉下の力が緩やかになり、
炒炭すると化瘀止血に働く。



桃仁(とうにん)

桃仁
桃仁

バラ科のモモやノモモなどの成熟種子。
性味:苦・甘・平
帰経:心・肝・大腸
主な薬効と応用:
①破瘀行血:血瘀による無月経・
月経痛・腹腔内腫瘤などを呈するときに用いる。
方剤例⇒桃紅四物湯
②潤腸通便:腸燥通便による便秘時に用いる。
方剤例⇒五仁湯
備考:桃仁・杏仁は止咳平喘・潤腸通便の効能をもつが、
杏仁は気分に偏し降気消痰に優れ、
桃仁は血分に偏し破瘀生新に優れている。



桂枝(けいし)

桂枝
桂枝

クスノキ科のケイの若枝またはその樹皮。
性味:辛・温・甘
帰経:肝・心・脾・肺・腎・膀胱
主な薬効と応用
①発汗解肌:風寒表証の頭痛・発熱・悪寒・悪風などの症候時に用いる。
方剤例⇒桂枝湯
②温通経脈:風寒湿痺の関節痛時に用いる。
方剤例⇒桂枝附子湯
③通陽化気:脾胃虚寒の腹痛時などに用いる。
方剤例⇒小建中湯
④平衡降逆:心気陰両虚で脈の結代・動悸がみられるときなどに用いる。
方剤例⇒炙甘草湯
備考:麻黄の発汗作用には劣るものの温経散寒の作用の効力は強く、
解肌発汗して寒邪を散じることができる。



甘草(かんぞう)

甘草
甘草

マメ科のウラル甘草の根。
性味:平・甘
帰経:脾・肺・胃
主な薬効と応用
①補中益気:脾胃虚弱で元気がない・
無力感・食欲不振・泥状便などの症候に用いる。
方剤例⇒四君子湯
②潤肺・祛痰止咳:風寒の咳嗽時に用いる。
方剤例⇒三拗湯
③緩急止痛:腹痛・四肢の痙攣時などに用いる。
方剤例⇒芍薬甘草湯
④清熱解毒:咽喉の腫脹や疼痛などに用いる。
方剤例⇒甘草湯
⑤調和薬性:性質の異なる薬物を調和させたり、偏性や毒性を軽減させる。
備考:生用すると涼性で清熱解毒に、密炙すると温性で補中益気に働く。



芒硝(ぼうしょう)

天然の含水硫酸ナトリウム。
性味:鹹・苦・寒
帰経:胃・大腸・三焦
主な薬効と応用:緩下・利尿
①瀉熱通便:胃腸の実熱、燥屎内結による、
腹満・腹痛・便秘・高熱・意識障害などに用いる。
方剤例⇒大承気湯
②清熱消腫:咽喉のびらんや腫脹、口内炎などに用いる。
方剤例⇒冰硼散


桃核承気湯:主治】

下腹部が張る・うわごと・夜間の発熱などの症状を呈する、
蓄血証を治する。


参考文献:
『生薬単』 NTS
『漢方概論』 創元社
『腹證奇覧 全』 医道の日本社
『中医臨床のための方剤学』
『中医臨床のための中薬学』 神戸中医学研究会

画像:
『腹証奇覧 後編2巻』
京都大学貴重資料デジタルアーカイブより
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00004918

画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
是非参考文献を読んでみて下さい。


本多

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