決して忘れられないあの日の月。
悲しみも怒りも憂いも喜びも滅却するかのような月でした。
なぜそのような月が必要で、
なぜその日でなければならなかったのかを
すべて知っているような大きな大きな月でした。
すべての人が驚き、言葉を失い見上げるべき対象であったように
思えますが、
その下では、一定のリズムで信号が変わり、
車が飛び交い、
誰一人月にその月に気付くこと無く、
歩み続けているその夜の光景は
目の前に確実にあるはずなのに
どこか嘘のように思えました。
この月も、町ゆく人もです。
どちらも偽物の世界を見ているような不思議な気分に陥りました。
10代に身体ごと飲み込まれるかというほど大きな
真っ赤な太陽に出会ったことがありますが、
それと対を成すような月でした。
林