夕焼け空
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張仲景の古医書『傷寒論』の解説です。

今回の傷寒論は弁陽明病脈証并治 二百二十九章・二百三十章。
二百二十九章では、陽明病で少陽病症が出現している場合の証治について。
二百三十章では、小柴胡湯の作用機序について詳しく述べております。


二百二十九章

陽明病、發潮熱、大便溏、小便自可、
胸脇滿不去者、與小柴胡湯主之。方十六。

柴胡半斤 黄芩三兩 人参三兩
半夏半升、洗 甘草三兩、炙 生薑
三兩、切 大棗十二枚、擘
右七味、以水一斗二升、煮取六升、去滓、再煎取三升。溫服一升、日三服。

和訓:
陽明病、潮熱を発し、大便溏、小便自ら可、
胸脇満去らざるものは、小柴胡湯を与う。方十六。

柴胡半斤 黄芩三両 人参三両
半夏半升、洗う 甘草三両、炙る 生薑三両、切る 大棗十二枚、擘く
右七味、水一斗二升を以て、煮て六升を取り、滓を去り、再び煎じて三升を取る。一升を温服し、日に三服す。


陽明病、發潮熱、大便溏、
小便自可、胸脇滿不去者、與小柴胡湯主之
陽明病で潮熱が生じれば、一般に化燥して実証が出現するものである。
しかしいま潮熱は発しているが、大便は溏便で、小便は正常であるのに、
胸脇の膨満が除かれないのは、少陽の半表半裏に病機があるといえる。

邪は胸脇にあるが、いまだ腹部に及んでおらず、
潮熱を発し、手足からの汗出、腹部の膨満感、譫語、大便硬、
小便自利など陽明腑実証は現れていない。

潮熱で溏便であれば、熱性の下痢であることがわかる。
熱が化燥していても実になっていないので
津液に逼迫せず下から浸透し、小便が普通によく出ている。
このような場合は小柴胡湯で枢機を正常にし、少陽を治療していく。

小柴胡湯
こちらを参照→【古医書】傷寒論を読む:弁太陽病脈証并治(中)三十六章・三十七章

提要:
陽明病で少陽病症が出現している場合の証治について。

訳:
陽明病に罹り、潮熱があり、大便は溏便で軟らかいが、小便は正常で、
胸脇の脹悶がとれない場合は、小柴胡湯で治療すればよい。処方を記載。第十六法。
柴胡半斤 黄芩三両 人参三両
半夏半升、洗う 甘草三両、炙る 生薑三両、切る 生薑三両、切る
右の七味を、一斗二升の水で、六升になるまで煮て、
滓を除き、さらに三升になるまで煮る。一升を温服し、日に三回服用する。


二百三十章

陽明病、脇下鞕滿、不大便而嘔、舌上白胎者、可與小柴胡湯、
上焦得通、津液得下、胃氣因和、身濈然而汗出解也。十七。

和訓:
陽明病、脇下鞕満し、大便せずして嘔し、舌上に白く胎するものは、小柴胡湯を与うべし。
上焦通ずるを得、津液下るを得、胃気因りて和すれば、身に濈然と汗出でて解す。十七。


陽明病、脇下鞕滿、不大便而嘔、舌上白胎者、可與小柴胡湯
陽明病で硬く膨満する症状が腹部に現れず、胸脇の下部に現れている。
これは病が半表半裏にある少陽病であるからで、少陽は枢を主る。
正邪の抗争が脇下で結したために枢機に影響が現れている。

上焦得通、津液得下、胃氣因和、身濈然而汗出解也
上焦で気が通じていないと、
下焦を巡る津液が阻まれて気化しないので、
上方では白滑苔が舌上に現れ、下方では不大便となる。
中焦で気が通じないと、胃失和降により吐き気が生じる。
下焦で気が通じないと、膀胱が主る腠理や体毛が調わず、
表裏の津液が交流しなくなる。

これらの原因は邪が少陽に鬱滞したからであり、
小柴胡湯で気息を通して、三焦の気機を調えればよい。
上焦の気が巡ると白苔は自然に消失し、
津液が下方に巡り大便は正常になる。
胃気が和せば吐き気も自然に治まる。
表裏の津液が交流すれば、身体に濈然と汗出して治っていくのである。

小柴胡湯
こちらを参照→【古医書】傷寒論を読む:弁太陽病脈証并治(中)三十六章・三十七章

提要:
小柴胡湯の作用機序について。

訳:
陽明病に罹り、脇下の部位が硬く膨満し、大便が出ずに嘔吐が起こり
舌表面に白苔がある場合は、小柴胡湯で治療すればよい。
服薬すると上焦の気はよくめぐり、すると津液は下に到達することができ、
胃腸の気の働きは順調となり、全身から汗が出て病は治癒する。第十七法。


参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』   東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』  績文堂
『中医臨床家のための中薬学』
『中医臨床家のための方剤学』 医歯薬出版株式会社

生薬イメージ画像:
『中医臨床家のための中薬学』 医歯薬出版株式会社

※画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
是非参考文献を読んでみて下さい。

為沢

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