張仲景の古医書『傷寒論』の解説です。
今回の傷寒論は弁陽明病脈証并治 二百二十六章・二百二十七章・二百二十八章。
二百二十六章では、胃虚で噦が起こる場合について。
二百二十七章では、陽明経熱により鼻血が生じる脉症について。
二百二十八章では、陽明熱証に誤って下法を行い
熱が胸膈に鬱滞した場合の証治について、それぞれ詳しく述べております。
二百二十六章
若胃中虚冷、不能食者、飮水則噦。
和訓:
若し胃中虚冷し、食すること能わざるものは、水を飲まば則ち噦す。
・若胃中虚冷、不能食者、飮水則噦
胃腸が久しく虚した状態では、必ず水飲が動き冷を生じる。
これは胃虚有寒証のであり、寒証は食穀を消化せず、水飲を気化させない。
食事の回数毎に食は細くなっていき、遂には食べられなくなてしまう。
このとき水を飲むと、水気と寒気が共にくっついて、噦が生じるのである。
提要:
胃虚で噦が起こる場合について。
訳:
もし胃腸が虚冷して、食欲が衰えた患者では、水を飲むとしゃっくりがおこる。
二百二十七章
脉浮、發熱、口乾、鼻燥、能食者則衂。
和訓:
脉浮に発熱し、口乾鼻燥し、能く食するものは則ち衂す。
・脉浮、發熱、口乾、鼻燥、能食者則衂
陽明経熱の邪が表で散じ、脉浮・発熱が現れている。
熱邪が経に沿って上方を犯し、口乾、鼻燥が出現している。
原文の「能食」は胃中有熱のために起こる。
表裏のどちらにも熱があり、
さらにこの経中の熱邪が激しくなって、
勢いが血脈に及び、陽絡を傷つけて鼻血が現れているのである。
提要:
陽明経熱により鼻血が生じる脉症について。
訳:
脉浮で発熱があり、口や鼻が乾燥した患者が、
もし食欲が良好であれば衄血の証を現すことがある。
二百二十八章
陽明病、下之、其外有熱、手足溫、不結胸、
心中懊憹、饑不能食、但頭汗出者、梔子豉湯主之。十五。
和訓:
陽明病、之を下し、其の外に熱あり、手足温かく、結胸せず、
心中懊憹し、飢えて食すること能わず、但だ頭に汗出ずるものは、梔子豉湯之を主る。十五。
・陽明病、下之、其外有熱、手足溫、不結胸、心中懊憹
陽明の熱邪が経にはあるが、腑はまだ実になっていない。
このときに誤って下法を行ったために裏虚になった。
そして熱が除かれないばかりか、邪が胸膈に落ち込んで体表に熱が生じ、
手足が温かくなり、心中が不快で落ち着かない等の症状が出現したのである。
・饑不能食、但頭汗出者、梔子豉湯主之
熱が胸中に鬱滞し、上焦に熱蒸するので「但頭汗出」をみる。
熱邪が胸陽(部位)を塞いでいるのは、
煩熱が胸中を塞いでいるということである。
これは水熱が互いに凝結して生じる結胸証と同じ病理である。
下法を行ったあと胃中が空虚になり、
邪気が動くので空腹感はあるが食べられない。
このように陽明熱証に下法を行ったあと
煩熱が顕著であれば、梔子豉湯で煩熱を除き
熱を清して、鬱を解けばよい。
梔子豉湯
こちらを参照→【古医書】傷寒論を読む: 弁太陽病脈証并治(中)七十六章
提要:
陽明熱証に誤って下法を行い
熱が胸膈に鬱滞した場合の証治について。
訳:
陽明病の患者を、攻下法で治療した後、外表にまだ発熱あり、
ただ手足のみが温かで、結胸証の症状はなく、心中懊憹し、
空腹感はあるが食べられず、頭部にだけ汗が出ている場合は、
梔子豉湯で治療すればよい。第十五法。
参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』 東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』 績文堂
『中医臨床家のための中薬学』
『中医臨床家のための方剤学』 医歯薬出版株式会社
生薬イメージ画像:
『中医臨床家のための中薬学』 医歯薬出版株式会社
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是非参考文献を読んでみて下さい。
為沢