火と水
火と水

張仲景の古医書『傷寒論』の解説です。

今回の傷寒論は弁陽明病脈証并治 二百二十四章・二百二十五章。
二百二十四章では、猪苓湯の禁忌証について。
二百二十五章では、表熱裏寒証の証治について詳しく述べております。


二百二十四章

陽明病、汗出多而渇者、不可與豬苓湯、
以汗多胃中燥、豬苓湯復利其小便故也。

和訓:
陽明病、汗出ずること多くして渇するものは、猪苓湯を与うべからず。
汗多くして胃中燥き、猪苓湯復た其の小便を利するを以ての故なり。


陽明病、汗出多而渇者、不可與豬苓湯、
以汗多胃中燥、豬苓湯復利其小便故也
猪苓湯は陰虚有熱に加えて、
水蓄があり水気が巡らないために小便不利になった場合に用いる。
この時に口渇して水を飲みたがるのは、
津液が全身に巡らないためで、水を飲んでも口渇は止まらない。

陽明病の口渇は盛熱傷津により
胃燥となったからであり、蓄水証の口渇とは全く異なる病機である。
もしこのとき猪苓湯を与え、小便がよく出るようにさせると、
津液はさらに傷つき、燥熱は癒えるどころか益々激しくなる。
従って陽明病で裏熱があり、津液が外に漏れたために
口渇が現れているときには、猪苓湯を与えてはいけない。

提要:
猪苓湯の禁忌証について。

訳:
陽明病に罹り、汗が多量に出て口渇がある場合は、
猪苓湯を服用させてはならない。
それは多量の汗が出た結果、胃腸が乾燥しており、
このうえ猪苓湯で小便を出させると、さらに津液を不足させるからだ。


二百二十五章

脉浮而遅、表熱裏寒、下利淸穀者、四逆湯主之。方十四。
甘草二兩、炙 乾薑一兩半 附子一枚、生用、去皮、破八片
右三味、以水三升、煮取一升二合、去滓、
分溫二服。強人可大附子一枚、乾薑三兩。

和訓:
脉浮にして遅、表熱裏寒し、
清穀を下利するものは、四逆湯之を主る。方十四。

甘草二両、炙る 乾薑一両半 附子一枚、生で用う、皮を去る、八片に破る
右の三味を、水三升を以て、煮て一升二合を取り、滓を去り、分かち温め二服す。
強人は大附子一枚、乾薑を三両なるべし。


脉浮而遅、表熱裏寒、下利淸穀者、四逆湯主之
脉浮遅で清穀下痢が現れている場合、陰寒内盛の証であり、
この場合は表よりも先に裏を治療しなければならない。
四逆湯で陽を補い、下痢を止めていけばよい。

四逆湯

甘草
甘草

甘草
基原:マメ科のウラルカンゾウ、
またはその他同属植物の根およびストロン。

甘草の甘平で、脾胃の正薬であり、
甘緩で緩急に働き、補中益気・潤肺祛痰・
止咳・
清熱解毒・緩急止痛・調和薬性などの性能を持つ。
そのため、脾胃虚弱の中気不足に用いられる。
また、薬性を調和し百毒を解すので、
熱薬と用いると熱性を緩め
寒薬と用いると
寒性を緩めるなど薬性を緩和し
薬味を矯正することができる。

乾薑
乾薑

乾薑
基原:ショウガ科のショウガの根茎を乾燥したもの。
古くは皮を去り水でさらした後に晒乾した。

乾姜は生姜を乾燥させてもので
辛散の性質が弱まって
辛熱燥烈の性質が増強され、
無毒であり、温中散寒の主薬であるとともに、
回陽通脈・燥湿消痰の効能をもつ。
陰寒内盛・陽衰欲脱の肢冷脈微、
脾胃虚寒の食少不運・脘腹冷痛・吐瀉冷痢、
肺寒痰飲の喘咳、風寒湿痺の肢節冷痛などに適し、
乾姜は主に脾胃に入り温中寒散する。

附子
附子

附子
基原:
キンポウゲ科のカラトリカブト、その他の同属植物の子根。
加工・炮製して利用することが多い。

附子は辛熱壮烈であり、
「走きて守らず」で十二経を通じ、
下焦の元陽(命火)を峻補して裏の寒湿を除き、
皮毛に外達して表の風寒を散じる。
それゆえに亡陽欲脱の身冷肢冷・大汗淋漓・
吐利不止・脈微欲脱てんなどには回陽救逆し、
腎陽不足の陽痿滑精・腰膝冷弱には補火壮陽し、
脾腎陽虚・陰寒内盛の心腹冷痛・吐瀉転筋には温裏散寒し、
陽虚不化水湿の身面浮腫・腰以下種甚には
助陽行水して冷湿を除き、
風寒湿痺の疼痛麻木には祛風散寒止痛し、
陽気不足の外感風寒で
悪寒発熱・脈沈を呈するときは助陽発表する。
このほか、補益薬と用いると
一切の内傷不足・陽気衰弱に使用できる。

提要:
表熱裏寒証の証治について。

訳:
脉象が浮で遅となり、表には熱が、裏には寒があり、
不消化便を下痢するなら、四逆湯で治療する。処方を記載。第十四法。
甘草二両、炙る 乾薑一両半 附子一個、生で用いる、皮を除く、八片に割る
右の三味を、三升の水で、一升二合になるまで煮て、滓を除き、二回に分けて温服する。
頑強な人では、大きな附子一個と乾姜は三両にする。


参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』   東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』  績文堂
『中医臨床家のための中薬学』
『中医臨床家のための方剤学』 医歯薬出版株式会社

生薬イメージ画像:
『中医臨床家のための中薬学』 医歯薬出版株式会社

※画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
是非参考文献を読んでみて下さい。

為沢

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