クロマツ
クロマツ

張仲景の古医書『傷寒論』の解説です。

今回の傷寒論は弁陽明病脈証并治 二百二十二章・二百二十三章。
二百二十二章・二百二十三章では、
二百二十一章に続いて陽明の熱盛津傷のものの証治について詳しく述べております。


二百二十二章

若渇欲飮水、口乾舌燥者、白虎加人参湯主之。方十二。
知母六兩 石膏一斤、砕 甘草二兩、炙 粳米六合 人参三兩
右五味、以水一斗、煮米熟湯成、去滓、溫服一升、日三服。

和訓:
若し渇して水を飲まんと欲し、
口乾き舌燥くものは、白虎加人参湯之を主る。方十二。

知母六兩 石膏一斤、砕 甘草二兩、炙 粳米六合 人参三兩
右五味、水一斗を以て、米を煮て熟して湯成れば、滓を去り、一升を温服し、日に三服す。


若渇欲飮水、口乾舌燥者、白虎加人参湯主之
前章を受け、下法で熱邪が中焦(胃)に入り
口や舌が乾いて水を飲みたがる、熱邪が津を傷つける症候が現れる。
この場合は白虎加人参湯で清熱・益胃・生津を行えばよい。

白虎加人参湯

 

 

知母
知母

知母
基原:
ユリ科のハナスゲの根茎。

知母は苦寒で質柔性潤であり、
上は肺熱を清して瀉火し、下は腎火を瀉して滋陰し、
中は胃火を瀉して煩渇を除き、
清熱瀉火と滋陰潤燥の効能をもつので、
燥熱傷陰には虚実を問わず使用できる。
熱病の煩渇・消渇・肺熱咳嗽・
陰虚燥咳・骨蒸潮熱などに適し、
滋陰降火・潤燥潤腸の効能があるため、
陰虚の二便不利にも用いる。

 

石膏
石膏

石膏
基原:
含水硫酸カルシウム鉱石。
組成はほぼCaSO4・2H2Oである。

石膏は辛甘・大寒で、肺・胃の二経に入り、
甘寒で生津し、辛で透発し、
大寒で清熱し清熱瀉火するとともに散熱し、
外は肌表の熱を透発し内は肺胃の熱を清し、
退熱生津により除煩止渇するので、
肺胃二経の気分実熱による高熱汗出・煩渇引飲・脈象洪大、
肺熱の気急鼻扇・上気喘咳、
胃火熾盛の頭痛・歯齦腫痛
口舌生瘡などに、非常に有効である。

 

甘草
甘草

甘草
基原:
マメ科のウラルカンゾウ、
またはその他同属植物の根およびストロン。

甘草の甘平で、脾胃の正薬であり、
甘緩で緩急に働き、
補中益気・潤肺祛痰・止咳・
清熱解毒・緩急止痛・調和薬性などの性能を持つ。
そのため、脾胃虚弱の中気不足に用いられる。
また、薬性を調和し百毒を解すので、
熱薬と用いると熱性を緩め
寒薬と用いると
寒性を緩めるなど薬性を緩和し薬味を矯正することができる。

粳米
基原:
イネ科イネの種子。玄米。

粳米の性味は平、甘で帰経は脾、胃である。
和胃護津に働き、清熱薬による傷胃を防止すると共に、
石膏との配合で甘寒生津に働く。

人参
人参

人参
基原:ウコギ科のオタネニンジンの根。
加工調整法の違いにより種々の異なった生薬名を有する。

人参は甘・微苦・微温で中和の性を稟け、
脾肺の気を補い、生化の源である
脾気と一身の気を主る肺気の充盈することにより、
一身の気を旺盛にし、
大補元気の効能をもつ。
元気が充盈すると、益血生津し安神し智恵を増すので、
生津止渇・安神益智にも働く。
それゆえ、虚労内傷に対する第一の要薬であり、
気血津液の不足すべてに使用でき、
脾気虚の倦怠無力・食少吐瀉、
肺気不足の気短喘促・脈虚自汗、
心神不安の失眠多夢・驚悸健忘、
津液虧耗の口乾消渇などに有効である。
また、すべての大病・久病・大吐瀉による
元気虚衰の虚極欲脱・脈微欲絶に対し、
もっとも主要な薬物である。

提要:
前章に続いて陽明の熱盛津傷のものの証治について。

訳:
もし口渇があって水を飲みたがり、
口乾舌燥していれば熱は身体の中部にある。
白虎加人参湯で治療する。処方を記載。第十二法。
知母六両   石膏一斤、砕く  甘草二両、炙る  粳米六合  人参三両
右の五味を、一斗の水で、米粒がなくなって
重湯になるまでよく煮て、滓を除く。一升を温服して、日に三回服用する。


二百二十三章

若脉浮、發熱、渇欲飮水、小便不利者、豬苓湯主之。方十三。
豬苓去皮 茯苓 澤瀉 阿膠 滑石砕、各一兩
右五味、以水四升、先煮四味、
取二升、去滓、内阿膠烊消、溫服七合、日三服。

和訓:
若し脉浮に発熱し、渇して飲まんと欲し、小便利せざる者は、猪苓湯之を主る。方十三。

猪苓去皮 茯苓 沢瀉 阿膠 滑石砕く、各一両
右五味、水四升を以て、先ず四味を煮て、
二升を取り、滓を去り、阿膠を内れ烊消し、七合を温服し、日に三服す。


若脉浮、發熱、渇欲飮水、小便不利者、豬苓湯主之
前々章を受け、下法で熱邪が傷陰、気化不利、水熱内蓄を引き起こすために
脉浮、発熱、渇欲飲水、小便不利などの裏熱の症候と、
水気が上焦に上がらず、下焦に降りない症候が出現する。
この場合は猪苓湯で清熱・利水を行えば良い。

猪苓湯

猪苓
猪苓

猪苓
基原:サルノコシカケ科のチョレイマイタケの菌核。

猪苓は甘淡・偏凉であり、
水道を利し主に滲泄し、利水滲湿の常用薬である。
利水消腫・利水止瀉・利湿清熱など
すべての水湿に用いるが、
水湿の偏熱にもっとも適する。
猪苓は茯苓よりも利水滲湿の効力が強いが、
補益心脾の効能をもたない。
淡滲で津液を消耗するので、
水湿がない場合には使用してはならない。

茯苓
茯苓

茯苓
基原:サルノコシカケ科のマツホドの外層を除いた菌核。

茯苓は甘淡・平で、甘で補い淡で滲湿し、
補脾益心するとともに利水滲湿に働き、
脾虚湿困による痰飲水湿・食少泄瀉
および
水湿内停の小便不利・水腫脹満に必須の品であり、
心脾に入って生化の機を助け寧心安神の効能をもつので、
心神失養の驚悸失眠・健忘にも有効である。
茯苓の特徴は「性質平和、補して峻ならず、
利して猛ならず、
よく輔正し、また祛邪す。
脾 虚湿盛、必ず欠くべからず」といわれるが、
性質が緩やかであるところから補助薬として用いることが多い。

沢瀉
沢瀉

沢瀉
基原:オモダカ科のサジオモダカの周皮を除いた槐茎。

沢瀉は甘淡・寒で、寒で除熱し淡で滲湿し、
腎経の虚火を泄し、
膀胱の湿熱を除き、
通利小便・祛湿泄熱・除痰飲の効能をもつ。
湿熱内蘊による小便不利・短赤熱痛・淋瀝尿閉、
心下停飲の頭暈目眩および
水腫脹満・泄瀉、さらには陰虚火旺に用いる。
沢瀉は利水滲湿の効力は茯苓とほぼ同じであるが、
泄熱に働き補益の効能をもたない。
大量で滑精をひきおこし、
久服すると腎陰を損傷するので、
腎虚でも火熱の症候がみられないときや
滑精があるときは
使用しない方がよい。

阿膠
阿膠

阿膠
基原:
ウマ科のロバやウシ科のウシなどの
除毛した皮を水で煮て製したニカワ塊。

阿膠は甘平で粘であり、
「血肉有情の品」で真陰を補い、
滋陰補血・止血の要薬である。
補肝血・滋腎陰かつ潤肺燥に働き、
滋補粘膩の性質により
血絡を凝固して止血の効能をあらわす。
血虚の眩暈心悸・陰虚の心煩失眠・虚労の喘咳あるいは陰虚の燥咳、
さらに喀血・吐血・衄血・便血・
尿血・崩漏・胎漏下血などすべての出血に適する。

滑石
基原:
加水ハロイサイト、Al2 O3・2SiO2・2H2O・4H2Oを正品とする。
今日では鉱物学的な滑石、すなわち天然含水性硅酸マグネシウム
talc3MgO・4SiO2・H2Oを使用することがあるので注意を要する。

滑石は甘寒で滑利であり、
寒で清熱し滑で利竅し、利水通淋・清熱解暑に働き、
夏に常用の清熱利湿薬である。
湿熱蘊結による小便不利・淋瀝熱痛・尿血・尿閉、
暑邪の煩渇・湿温の身熱・湿熱の瀉痢などに適する。
外用すると収湿斂瘡に働き、湿瘡・湿疹・痱子に有効である。

提要:
前々章に続いて陽明の熱盛津傷のものの証治について。

訳:
もし脉が浮で発熱があり、口が渇いて水を飲みたがり、
小便が出にくいなら熱は身体の下部にある。猪苓湯で治療する。処方を記載。第十三法。
猪苓皮を除く   茯苓 沢瀉 阿膠 滑石砕く、各一両
右の五味は、四升の水で、まず四味を煮て、
二升にし、滓を除いてから、阿膠を入れて溶かし、七合を温服し、日に三回服用する。


参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』   東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』  績文堂
『中医臨床家のための中薬学』
『中医臨床家のための方剤学』 医歯薬出版株式会社

生薬イメージ画:為沢

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是非参考文献を読んでみて下さい。

為沢

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