張仲景の古医書『傷寒論』の解説です。
今回の傷寒論は弁陽明病脈証并治 二百十八章・二百十九章・二百二十章。
二百十八章では、表邪が裏に内伝しているのに、
誤って発汗法を行い変証となった場合の証治について述べている。
二百十九章では、三陽の合病で、熱盛となった場合の証治について。
二百二十章では、二陽の併病で、
陽明腑実に内伝した場合は攻下を行っていけばよいと述べている。
二百十八章
傷寒四五日、脉沈而喘滿、沈爲在裏、而反發其汗、
津液越出、大便爲難、表虚裏實、久則讝語。
和訓:
傷寒四五日、脉沈にして喘満し、沈は裏に在りと為し、
而るに反ってその汗を発し、津液越出し、大便難しと為す。
表虚裏実し、久しければ則ち譫語す。
・傷寒四五日、脉沈而喘滿
傷寒にかかって4〜5日目、脉沈を示し
喘いで腹部に膨満感があるのは裏に邪が内伝したからである。
この喘・満の症状は裏実で阻塞し濁熱となって、
上焦の気機が塞がって滞っているために現れている。
・沈爲在裏
脉沈は裏証を示す。
・而反發其汗、津液越出、大便爲難、表虚裏實、久則讝語
医者がこの病理を知らず、治則に従わず発汗法を行った。
これにより津液は外に漏れ、中焦で燥結して排便困難となり
陽明腑実証になったのである。
汗出により表は虚し、裏はさらに実になった。
この状態が長く続けば譫語を発するようになる。
提要:
表邪が裏に内伝しているのに、誤って発汗法を行い
変証となった場合の証治について述べている。
訳:
傷寒の病に罹り四五日経ち、脉は沈で息が胸悶している。
脉が沈であれば病は裏に在ることを示すが、
これを誤って発汗法を行うと、津液を外に漏れ出させ、大便は出にくくなる。
表気が虚し裏気が実した状態であり、長引くと譫語を発するに至る。
二百十九章
三陽合病、腹滿身重、難以轉側、口不仁、
面垢、讝語遺尿。發汗則讝語、下之則額上生汗、手足逆冷。
若自汗出者、白虎湯主之。方九。
知母六兩 石膏一斤、砕 甘草二兩、炙 粳米六合
右四味、以水一斗、煮米熟湯成、去滓、溫服一升、日三服。
和訓:
三陽の合病、腹満して身重く、以て転側し難く、口不仁し、
面垢れ、譫語尿す。発汗すれば則ち譫語し、
之を下せば則ち額上に汗を生じ、手足逆冷す。
若し自汗出ずるものは、白虎湯之を主る。方九。
知母六兩 石膏一斤、砕 甘草二兩、炙 粳米六合
右四味、水一斗を以て、米を煮て熟して湯成れば、滓を去り、一升を温服し、日に三服す。
・三陽合病、腹滿身重、難以轉側
陽明経は腹部を、太陽経は背部を、少陽経は側部をそれぞれ循行する。
従って、腹部に膨満感があり、身体が重く、寝返りがうてない場合、
一般には三陽経の熱症であるという。
・口不仁、面垢、讝語遺尿
胃中に熱が盛んにあるために食物の味がわからない。
胃経の上方で熱蒸するために顔が垢で汚れている。
甚だしければ神気が朦朧として譫語を発するようになる。
熱気が膀胱に迫り小便の出が悪くなってくる。
これらのことから、三陽経の中でも特に陽明裏熱が顕著である
というのがわかる。
・發汗則讝語、下之則額上生汗、手足逆冷
このような時に発汗法を行えば
必ず熱邪が裏で盛んとなり、譫語は甚だしくなる。
下法を行って裏を攻下すれば、もともと裏は実していないので
必ず陰竭・陽脱となって額に生汗をかき、手足が冷たくなってしまう。
この場合は汗法・下法も治則に該当しない。
・若自汗出者、白虎湯主之
自然に発汗させるという方法が適当で、
それを助けていくのは白虎湯しかない。
白虎湯で陽明を治療することによって、
太陽と少陽も共に治療して三陽の熱を除いていくのである。
白虎湯
・知母
基原:
ユリ科のハナスゲの根茎。
知母は苦寒で質柔性潤であり、上は肺熱を清して瀉火し
下は腎火を瀉して滋陰し、中は胃火を瀉して煩渇を除き、
清熱瀉火と滋陰潤燥の効能をもつので、
燥熱傷陰には虚実を問わず使用できる。
熱病の煩渇・消渇・肺熱咳嗽・
陰虚燥咳・骨蒸潮熱などに適し、
滋陰降火・潤燥潤腸の効能があるため、
陰虚の二便不利にも用いる。
・石膏
基原:
含水硫酸カルシウム鉱石。
組成はほぼCaSO4・2H2Oである。
石膏は辛甘・大寒で、肺・胃の二経に入り、
甘寒で生津し、辛で透発し、
大寒で清熱し清熱瀉火するとともに散熱し、
外は肌表の熱を透発し内は肺胃の熱を清し、
退熱生津により除煩止渇するので、
肺胃二経の気分実熱による高熱汗出・煩渇引飲・脈象洪大、
肺熱の気急鼻扇・上気喘咳、
胃火熾盛の頭痛・歯齦腫痛
口舌生瘡などに、非常に有効である。
・甘草
基原:
マメ科のウラルカンゾウ、
またはその他同属植物の根およびストロン。
甘草の甘平で、脾胃の正薬であり、
甘緩で緩急に働き、
補中益気・潤肺祛痰・止咳・
清熱解毒・緩急止痛・調和薬性などの性能を持つ。
そのため、脾胃虚弱の中気不足に用いられる。
また、薬性を調和し百毒を解すので、
熱薬と用いると熱性を緩め
寒薬と用いると
寒性を緩めるなど薬性を緩和し薬味を矯正することができる。
・粳米
基原:
イネ科イネの種子。玄米。
粳米の性味は平、甘で帰経は脾、胃である。
和胃護津に働き、清熱薬による傷胃を防止すると共に、
石膏との配合で甘寒生津に働く。
提要:
三陽の合病で、熱盛となった場合の証治について述べている。
訳:
三つの陽経が同時に邪を受けて発病すると、
腹部は膨満して身体が重だるく、寝返りが困難、口の中が痺れる、
顔が皮脂で汚れ、譫語、尿を失禁するなどの症状が現れる。
もしこの病態に発汗法を用いると譫語は悪化し、
もし下法を用いれば頭部に汗が出て、手足は逆冷する。
もし患者に自汗が出ていれば、白虎湯で治療する。処方を記載。第九法。
知母六両 石膏一斤、砕く 甘草二両、炙る 粳米六合
右の四味を、一斗の水で、米粒がなくなるまでよく煮て、滓を除き、一升を温服し、日に三回服用する。
二百二十章
二陽倂病、太陽證罷、但發潮熱、
手足漐漐汗出、大便難而讝語者、下之則愈、宜大承氣湯。十。
和訓:
二陽の併病、太陽証罷み、但だ潮熱を発し、
手足に漐漐と汗出で、大便難しくて譫語するものは、
之を下せば則ち愈え、大承気湯に宜し。十。
・二陽倂病、太陽證罷
太陽病と陽明病の併病で、太陽病がまだ解けていなければ
先に太陽病から治療を行うが、この章では太陽病はもうすでに解けている。
・但發潮熱、手足漐漐汗出、
大便難而讝語者、下之則愈、宜大承氣湯
陽明の熱邪が腑に内伝して潮熱を発している。四肢は胃より気を受ける。
燥熱が津に迫り外に漏れ、かくべつ手足から汗がとめどもなく出て甚だしくなっている。
これは胃中ですでに燥実となったためである。
腑気がスムーズに通らず、濁熱が心をかき乱しているので大便難、譫語を現している。
これらはすべて大承気湯証であるから、これにより攻下していけば治っていく。
提要:
二陽の併病で、陽明腑実に内伝した場合は
攻下を行っていけばよいと述べている。
訳:
病が太陽病から陽明に移行し、太陽証はもう消失した。
ただ潮熱だけがあり、手足にうっすらと汗が出て、
大便が出にくくて譫語する場合は、攻下すれば治癒可能で、
大承気湯を用いるとよい。第十法。
参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』 東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』 績文堂
『中医臨床家のための中薬学』
『中医臨床家のための方剤学』 医歯薬出版株式会社
生薬イメージ画像:
『中医臨床家のための中薬学』 医歯薬出版株式会社
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為沢