古人は満身に刺すを好とせず、
兪原に刺すを好しとす、
腹に刺すを好しとせず
四肢に刺すを好しとす、
是はただ臓腑にあたらんことを恐れて此のごとし、
たとい兪原を刺すも、
亦四肢を刺すも意を得ざるときは不可なり、
腹を刺すとも意を得て刺すは可なり。
古人腹を刺すことを嫌いたるは、
針深く入ては蔵府を損ず、
蔵府損ずれば忽ち死す。
されば針の鋭、
皮裡膜外に止まって蔵府へ入らざるように刺すべし、
蔵府へ入れば害をなすのみにあらず、
其功なし、その故は四気外感の熱、
七情内傷の火、蒸して盲膜乾き枯れて、
夏の温気に汗多くして身に垢のつもるがごとし、
又竃の上の煤のごとし、
冬の木葉に霜の結ぶがごとし、
況や又膜外乾くときは、
皷の皮を急に張りたるがごとし、
故に膜沈みて裡につき蔵府を押へ元気の途をふさぐ、
此時に当て気滞りて諸病を起す。
〜『鍼灸重宝記』より〜