張仲景の古医書『傷寒論』の解説です。
今回の傷寒論は弁陽明病脈証并治 二百十三章・二百十四章。
二百十三章では、多汗出により津液が傷つき、譫語が現れた場合の証治について。
二百十四章では、陽明腑実証の脉症について詳しく述べております。
二百十三章
陽明病、其人多汗、以津液外出、胃中燥、大便必鞕、
鞕則讝語、小承氣湯主之。若一服讝語止者、更莫復服。五。
和訓:
陽明病、其の人多く汗し、津液外出し、胃中燥くを以て、
大便必ず鞕く、鞕ければ則ち譫語し、小承気湯之を主る。
若し一服して譫語止むものは、更に復た服すること莫かれ。五。
・陽明病、其人多汗、以津液外出、胃中燥、大便必鞕、鞕則讝語
陽明病では多汗出となり、津液が外に出ると胃中では乾燥し、
さらに胃では熱実、腸では燥結するので、大便は必ず硬くなる。
腑気は通らなくなり、濁熱が心神をかく乱させるので譫語が現れる。
・小承氣湯主之。若一服讝語止者、更莫復服
これらは全て陽明腑実証であるが、
潮熱・腹痛・拒按など、大熱大実の症状はないので、
硬便・譫語の程度は比較的軽度であることがわかる。
また証候の原因にしても複雑でないので
他の変証になることもない。
従ってこの場合は、小承気湯を使い熱を除いて、
便通をよくすれば譫語を治すことができる。
それが治ればそれ以上服用してはいけない。
なぜなら正気を傷つける恐れがあるからである。
小承気湯
・大黄
基原:タテ科のダイオウ属植物、
およびそれらの種間雑種の根茎。
しばしば根も利用される。
大黄は苦寒沈降し気味ともに厚く、
「走きて守らず」で下焦に直達し、
胃腸の積滞を蕩滌するので、
陽明腑実の熱結便秘・壮熱神昏に対する
要薬であり
攻積導滞し瀉熱通腸するため、
湿熱の瀉痢・裏急後重や食積の瀉痢・大便不爽にも有効である。
このほか、瀉下泄熱により血分実熱を清し
清熱瀉火・凉血解毒に働くので
血熱吐衄・目赤咽腫・癰腫瘡毒などの上部実熱にも用い、
行瘀破積・活血通経の効能をもつために、
血瘀経閉・産後瘀阻・癥瘕積聚
跌打損傷にも適し、
湿熱を大便として排出し清化湿熱にも働くので、
湿熱内蘊の黄疸・水腫・結胸にも使用する。
外用すると清火消腫解毒の効果がある。
・厚朴
厚朴は苦辛・温で、
苦で下気し辛で散結し温で燥湿し、
下気除満・燥湿化痰の効能を持ち、
有形の実満を下すとともに無形の湿満を散じる。
それゆえ、食積停留・気滞不通の胸腹脹満・大便秘結、
湿滞傷中の胸腹満悶・嘔吐瀉痢に適する。
また、燥湿化痰・下気降逆にも働き、
痰湿壅肺・肺気不降による喘咳にも有効である。
・枳実
基原:ミカン科のダイダイ、イチャンレモン、カラタチなどの幼果。
枳実は苦寒で下降し、
気鋭力猛で破気消積・化痰除痞に働き、脾胃の気分薬である。
積滞内停・気機受阻による痞満脹痛・便秘・瀉痢後重には、
気血痰食を問わず用いる。
薬力が猛烈であることから、
「衝墻倒壁の功あり」
「消痰癖、祛停水、破結胸、通便閉、これにあらざれば能わざるなり」
といわれている。
提要:
多汗出により津液が傷つき、譫語が現れた場合の証治について。
訳:
陽明病に罹ると患者は多量に発汗し、
それで津液は外に排出され、胃腸中は乾燥するので、
大便は必然的に乾燥して硬くなる。
大便が硬くなることによって譫語する場合は、小承気湯で治療する。
もし第一服目を服用して譫語が止めば、燥熱は解消されたので
二服目は服用しなくてよい。第五法。
二百十四章
陽明病、讝語、發潮熱、脉滑而疾者、
小承氣湯主之。因與承氣湯一升、腹中轉氣者、更服一升。
若不轉氣者、勿更與之。明日不大便、脉反微澀者、裏虚也、
爲難治、不可更與承氣湯也。六。
和訓:
陽明病、譫語して潮熱を発し、脉滑にして疾きものは、小承気湯之を主る。
承気湯一升を与うるに因りて、腹中に転気するものは、更に一升を服せ。
若し転気せざるものは、更に之を与うること勿れ。
明日に又大便せず、脉反って微濇なるものは、裏虚するなり。
難治と為し、更に承気湯を与うべからざるなり。六。
・陽明病、讝語、發潮熱、脉滑而疾者、小承氣湯主之
陽明病で譫語・潮熱を発していれば、
大便は燥結し、脉は沈実の有力な脉を示しているはずだが、
脉が滑疾であるのは、腑での熱実の程度が甚だしくなり、
大便も秘結しているとはいえ、完全な燥結の状態ではない。
この場合、小承気湯で主治する。
・因與承氣湯一升、腹中轉氣者、更服一升
湯が腹中に入ったあと放屁が起これば、
燥尿が結し始めた初期なので、さらにもう一升服湯して除けばよい。
・若不轉氣者、勿更與之
放屁が起こらなければ、小承気湯を再び服湯をさせてはいけない。
・明日不大便、脉反微澀者、裏虚也、爲難治、不可更與承氣湯也
もし翌日になっても排便がなく、脉が滑疾ではなく微渋を示していれば、
これは気血が虚弱になっていることを示す。
邪気が去らないうちに正気がすでに虚して衰えているのであるから、
いま邪気を攻下すれば益々正気は虚してしまうので治療は大変難しい。
提要:
陽明腑実証の脉症について。
訳:
陽明病に罹り、譫語と潮熱が出現し、
脉象は滑利で数である場合は、小承気湯で治療する。
小承気湯を一升服用して、腹の中で気が動けば、さらに一升を服用してよい。
もし腹の中で気が動かなければ、もう小承気湯は服用いない。
第二日目に再び大便が出ず、脉象がかえって微渋になれば、
裏気が已に虚している微候で、治療は難しく、
もう承気湯を服用させてはならない。第六法。
参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』 東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』 績文堂
『中医臨床家のための中薬学』
『中医臨床家のための方剤学』 医歯薬出版株式会社
生薬イメージ画像:
『中医臨床家のための中薬学』 医歯薬出版株式会社
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為沢