張仲景の古医書『傷寒論』の解説です。
今回の傷寒論は弁陽明病脈証并治 二百章・二百一章・二百二章。
二百章では、陽明病に誤って火法を用いたために黄疸となった場合について。
二百一章では、陽明経に熱実がある場合の脉証について。
二百二章では、陽明経熱が鼻血を引き起こす予兆について述べている。
二百章
陽明病、被火、額上微汗出、而小便不利者、必發黃。
和訓:
陽明病、火を被り、額上に微汗出で、而るに小便利せざるものは、必ず黃を発す。
・陽明病、被火、額上微汗出、而小便不利者、必發黃
陽明病で湿熱が鬱滞して場合は、
弁証論治によって治法をよく考察し、
発黄の変証を防いでいかなくてはいけないが、
医者が間違って無汗に対して火法を用いれば
裏の熱邪はこの法によって必ず盛んとなり、
内で熱蒸して外に出ず、経に沿って上方を攻めるために額に少し汗をかく。
また湿と火熱が鬱蒸して下方から漏れ出さないので小便不利となる。
湿熱相搏し、無理矢理胆汁を溢散させて
身体中に蔓延させるので必ず発黄となる。
提要:
陽明病に誤って火法を用いたために黄疸となった場合について。
訳:
陽明病に罹り、火を用いる治療法を受けた後に、
額にうっすらと汗が出て、そして小便の出が悪ければ
やがて身体は黃染するはずだ。
二百一章
陽明病、脉浮而緊者、必潮熱發作有時、但浮者、必盗汗出。
和訓:
陽明病、脉浮にして緊なる者は、
必ず潮熱して発作時有り、但だ浮なる者は、必ず盗汗出ず。
・陽明病、脉浮而緊者、必潮熱發作有時
陽明病で脉浮緊の場合、浮脉は有熱、緊脉は胃腸の実を現すので
陽明経腑が熱実となっていることを現している。
従って必ず潮熱が起こるが、これは定時に満ちてひくように生じる。
・但浮者、必盗汗出
ただ浮脈だけで緊脉を示していなければ、
邪熱が経にあるだけで腑はまだ実になっていない。
陽明経表が不和になり、邪熱が陰液に逼迫して外に溢れるために
盗汗をかくようになる。
提要:
陽明経に熱実がある場合の脉証について。
訳:
陽明病に罹り、脉象は浮緊であれば、定期的に発作する潮熱が必ず現れる。
もし脉象が浮だけで緊でないなら、その場合は必ずや盗汗の証をみるだろう。
二百二章
陽明病、口燥但欲漱水、不欲嚥者、此必衂。
和訓:
陽明病、口燥いて但だ水を漱がんと欲し、嚥むことを欲せざる者は、此れ必ず衂す。
・陽明病、口燥但欲漱水、不欲嚥者、此必衂
陽明経脈は鼻根に起こり、眼下を経て上歯に入り、貫通して出たあと口角に至る。
熱邪が経に沿って上行し、上方を炎がすので口が乾くが、
口を水ですすぐだけで、その乾きは治まる。
そして水ですすいだあと必ず吐き、水を飲みたくないことから
熱が胃にはないことがわかる。
これは気分にバラバラでまとまりのない熱があるのではなく、
経中に熱が盛んで、その勢いにより血脈を傷つけて鼻血となっているのである。
提要:
陽明経熱が鼻血を引き起こす予兆について述べている。
訳:
陽明病に罹って、口の中が乾燥するが水が口を漱ぐだけで、
水を飲み込もうとしない場合は、必ず衄血という変証が現れるはずだ。
参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』 東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』 績文堂
『中医臨床家のための中薬学』
『中医臨床家のための方剤学』 医歯薬出版株式会社
生薬イメージ画像:
『中医臨床家のための中薬学』 医歯薬出版株式会社
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為沢