こんにちは、本多です。
今回は腹證奇覧に記載している、
黄土湯の證の記事を掲載致します。


黄土湯

黄土湯
黄土湯

図の如く臍の四辺動気して、
時々奔豚気上り攻めて心胸を衝く者、
或は冷痛し手足不仁(しびれ)、
或は小便不利、
或は吐血衂血、
或は小便膿血の者、
皆此の方を用いて大効あり。
余、此の方を数用数効して云う。
堕胎後に此の證甚だ多し。
凡べて、血を脱すること過多の者、此の證多し。
其の腹診の分ち、
右に記すの方剤、
皆、動気奔豚気を以って眼とすると雖も、
其の動、他に較れば至りて甚だしき者を此の證と知るべし。

黄土湯の方
黄土(二戔六分)
炙甘草・干地黄・唐蒼朮・附子・阿膠・黄芩(各一戔)
右七味、水二盞を以って七分に煮とる。
黄土の真物を得るの伝あり。山野僻地の民家、他土を混えず、
生土を以って竃を作り、毎日炊くこと年を経て凡そ二十年余にして、
其の色紫になるもの可なり。之を水干すること七度。砂石灰を去り、
善く清らかに干して用うべし。
右、黄土一味を龍肝散と云う。
その効能、左に記す。
龍肝散の功能。
心痛・反胃・中悪に可なり。
腋臭(わきが)に頻に塗付けて可なり。
小児臍瘡にも亦可なり。
小児の重舌に酢を加えて塗る。
又、産後に悪血・心を攻めて痛む者は、酒を以って二戔を服す。
崩漏・帯下・吐血・咳血及び催生胞衣(えな)を下すの大効あり。


【黄土湯:組成】

黄土(おうど)

長年焚木で焼かれた黄土製かまどの中央部の焼け土
性味:辛・微温
帰経:脾・胃
主の薬効と応用:
①温中摂血:
虚寒の血便・吐血・鼻出血・不正性器出血などに用いる。
方剤例⇒黄土湯

②和胃止嘔:
脾胃虚寒の嘔吐・反胃(食後数時間経過したのちの食物嘔吐)
あるいは妊娠嘔吐に用いる
備考:熱証の出血や嘔吐には使用してはならない。

炙甘草(しゃかんぞう)

甘草
甘草

マメ科のウラル甘草の根。
性味:平・甘
帰経:脾・肺・胃
主な薬効と応用:去痰・鎮咳・抗炎症

①補中益気:
脾胃虚弱で元気がない・
無力感・食欲不振・泥状便などの症候に用いる。
方剤例⇒四君子湯

②潤肺・祛痰止咳:
風寒の咳嗽時に用いる。
方剤例⇒三拗湯

③緩急止痛:
腹痛・四肢の痙攣時などに用いる。
方剤例⇒芍薬甘草湯

④清熱解毒:
咽喉の腫脹や疼痛などに用いる。
方剤例⇒甘草湯

⑤調和薬性:
性質の異なる薬物を調和させたり、
偏性や毒性を軽減させる。
備考:生用すると涼性で清熱解毒に、
密炙すると温性で補中益気に働く。

干地黄(じおう)

地黄
地黄

ゴマノハグサ科の、またはその変種のカイケイジオウ、
あるいはアカヤジオウの肥大根。
性味:甘・苦・寒
帰経:心・肝・腎
主な薬効と応用:
①清熱滋陰:
温熱病の熱入営血による
夜間の発熱・熱感・口乾・舌質が紅絳などの症候時に用いる。
方剤例⇒清営湯

②涼血止血:
血熱妄行による
吐血・鼻出血・血尿・血便・性器出血などの症候時に用いる。
方剤例⇒四生丸

③生津止渇:
熱盛傷津による
口乾・口唇の乾燥・舌質が紅などの症候時に用いる。
方剤例⇒益胃湯

備考:脾虚有湿で腹満・泥状便を呈する時に用いる。

唐蒼朮(からそうじゅつ)

キク科のホソバオケラ、シナオケラ、の根茎。
性味:辛・苦・温
帰経:脾・胃
主な薬効と応用:
①祛風除湿:
風湿痺・寒湿痺などによる関節や肢体の疼痛に用いる。
方剤例⇒二朮湯

②燥湿健脾:
湿困脾胃の腹満・胸苦しい・
悪心・嘔吐・下痢・舌苔が白膩などの
症候時に用いる。
方剤例⇒平胃散

③散寒解表:
外寒風寒の頭痛・無汗・発熱・悪寒などの症候時に用いる。
方剤例⇒神朮散
④除障明目:
夜盲・青盲(視神経萎縮・中心性網膜炎など外見が正常で視力減退をきたす眼疾患)
外障(角膜混濁)・内障(白内障など透光体の混濁)などに用いる。
方剤例⇒蒼朮丸

備考:苦温燥烈なので、陰虚内熱・気虚多汗には禁忌となる。

附子(ぶし)

附子
附子

キンポウゲ科のハナトリカブトの塊根。
性味:大熱・辛
帰経:肺・心・脾・腎
主な薬効と応用:鎮痛・強心作用・利用

①回陽救逆:
大量の発汗や激しい下痢・激しい嘔吐などによる
亡陽虚脱の時に用いる。
方剤例⇒四逆湯

②補陽益火:
腎陽虚による腰・膝のだるさ・頻尿などの症候が現れた時に用いる。
方剤例⇒八味地黄丸

③温陽利水:
腎陽虚による肢体の浮腫・腰痛や膝痛の時などに用いる。
方剤例⇒真武湯

④散寒止痛:痺証による関節の痛みや痺れ・冷えなどに用いる。
方剤例⇒甘草附子湯
備考:辛熱燥烈なので、陰盛陽衰で服用する。
陰虚内熱時には使用してはならない。

阿膠(あきょう)

阿膠
阿膠

ウマ科のロバやウシなどの
除毛した皮を水で煮て製したニカワ塊。
性味:甘・平
帰経:肺・肝・腎
主な薬効と応用
①補血:
血虚による顔色につやがない・頭のふらつき、
めまい・動悸などの症候に用いる。

②滋陰:
陰虚火旺による焦燥・不眠・熱感などの症候に用いる。
方剤例⇒黄連阿膠湯

③止血:
鼻出血・喀血・吐血・血尿・血便・不正性器出血、
月経過多など多種の出血時に用いる。
方剤例⇒芎帰膠艾湯

④清肺潤燥:
肺陰虚の乾咳・少痰・痰に血が混じるなどの症候に用いる。
方剤例⇒補肺阿膠湯
備考:生で使用すると補血・滋陰潤燥の作用となり、
海蛤殻(かいごうかく)と合わせると清肺潤燥、止咳化痰の作用となり、
蒲黄(ほおう)と合わせると止血の作用となる。

黄芩(おうごん)

黄芩
黄芩

シソ科のコガネバナの周皮を除いた根。
内部が充実し、細い円錐形をしたものを
条芩、桂芩、尖芩などと称し、
老根で内部が黒く空洞になってものを枯芩、
さらに片条に割れたものを片芩と称する。
性味:苦・寒
帰経:肺・脾 ・大腸・小腸・胆

主な効能と応用:
①清熱燥湿:
湿温・暑温初期の湿熱欝阻気機による、
胸苦しい・腹が張る・悪心・
嘔吐・尿が濃いなどの症候に用いる。
方剤例⇒黄芩滑石湯

②清熱瀉火・解毒・凉血:肺熱の咳嗽・
呼吸促迫・黄痰などの症候時に用いる。
方剤例⇒清肺湯

③清熱安胎:
妊娠中の蘊熱による下腹痛などに用いる。
方剤例⇒当帰散
備考:他薬の配合により様々な効用を示す。
柴胡と往来寒熱を除き、
白芍と下痢を抑え、桑白皮と肺火を除き、
白朮と安胎に働き、山梔子と胸膈火熱を除き、
荊芥・防風と肌表の熱を清解する。


【黄土湯:主治】
脾陽不足・気不摂血による、
血便・吐血・鼻出血・不正性器出血・
四肢の冷えなどの症候時に用いる。


参考文献:
『生薬単』 NTS
『腹證奇覧 全』 医道の日本社
『中医臨床のための方剤学』
『中医臨床のための中薬学』 神戸中医学研究会

画像:
『腹証奇覧 後編2巻』
京都大学貴重資料デジタルアーカイブより
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00004918

画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
是非参考文献を読んでみて下さい。


本多

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