こんにちは、本多です。
今回は腹證奇覧に記載している、
当帰建中湯の證の記事を掲載致します。
当帰建中湯
図の如く、
腹中拘攣急迫して腹底に数縄引張るが如くにして、
小腹腰背より引痛む者。
或は手足疼痛して浮腫する者。
或は卒に手足攣痛し、
俗に筋戻と云うもの。
或は血症にして虚羸、
気息急々として将に絶せんとする者。
皆、此の方を用いて其の効著し。
余・案ずるに、
凡そ重病にして世医その療を失うもの、
或は大承気湯、
或は桃仁承気、
或は大黄牡丹皮などの證の全く備わりて久しく攻むるもの、
時として其の毒瞑眩して動き諸症を発す。
其の発する症を詳らかにして、
赦さず攻め追い去りて、
また本の備わりたる症を攻めて、
月日を経て全く治すべし。
凡そ、
下剤を以って攻め下す時は、
忽ち上衝拘攣し或は急迫などするは、桂枝加桂湯。
或は面浮腫し、手足攣痛などする者は、当帰建中湯。
或は上衝頭眩、小便不利をなすは、苓桂朮甘湯。
或は上衝胸脇苦満するは柴胡桂枝湯等の諸證を発すること、
挙げて数うべからずと雖も、本・血症にして動くものなり。
凡そ、旁ら・当帰建中湯の證多し。
学ぶ者、
謹んで考え用いて、
詳なることを知るべし。
或る伝に云う。
「当帰建中湯の證にして、脱血崩漏のもの、
此の法内に於て、劉寄奴を大いに加えて可なり」と。
当帰建中湯の方
当帰(伊吹可なり、一戔四分)
芍薬(一戔二分)
桂枝・生姜(各六分)
甘草(四分)
右五味、水一盞半を以って六分に煮とる。
若しくは、大虚の者には、飴糖(かたあめ)三戔を加う。
或は、血を去ること過多の者、
或は崩症(崩れる如く血出る)にして止まざる者には、
地黄(一戔二分)、阿膠(八分)を加えて可なり。
伝に云う、「この證、広東人参二戔を濃煎にして、時々用いて可なり」と。
【当帰建中湯:組成】
当帰(とうき)
セリ科の根をいう。
根頭部を帰頭、主根部を当帰身、支根を当帰尾、
帰身と帰尾を含めて全当帰という。
性味:甘・辛・苦・温
帰経:心・肝・脾
主な薬効と応用:
①補血調経:
血虚による顔色につやがない・頭のふらつき・眩暈・目がかすむ
月経不順・月経痛・心悸などの症候時に用いる。
方剤例⇒四物湯
②活血行気・止痛:
気滞血瘀の疼痛や腹腔内腫瘤などに用いる。
方剤例⇒桃紅四物湯
③潤腸通便:
腸燥便秘時に用いる。
方剤例⇒潤腸丸
備考:補血には当帰身、活血には当帰尾、和血には全当帰を使用するのが好ましい。
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芍薬(しゃくやく)
ボタン科のシャクヤクのコルク皮を除去し、
そのままあるいは湯通しして乾燥した根。
性味:苦・酸・微寒
帰経:肝・脾
主な薬効と応用
①補血斂陰:
血虚による顔色につやがない・頭のふらつき、
めまい・目がかすむ四肢の痺れ月経不順などの症候に用いる。
方剤例⇒四物湯
②柔肝止痛:
肝鬱気滞による胸脇部の張った痛み・
憂鬱感・イライラなどの症候時に用いる。
方剤例⇒四逆散
③平肝斂陰:
肝陰不足・肝陽上亢によるめまい・ふらつきなどの症状に用いる。
方剤例⇒鎮肝熄風湯
備考:炒用すると補気健脾、生用すると燥湿利水に働く。
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桂枝(けいし)
クスノキ科のケイの若枝またはその樹皮。
性味:辛・温・甘
帰経:肝・心・脾・肺・腎・膀胱
主な薬効と応用
①発汗解肌:
風寒表証の頭痛・発熱・悪寒・悪風などの症候時に用いる。
方剤例⇒桂枝湯
②温通経脈:
風寒湿痺の関節痛時に用いる。
方剤例⇒桂枝附子湯
③通陽化気:
脾胃虚寒の腹痛時などに用いる。
方剤例⇒小建中湯
④平衡降逆:
心気陰両虚で脈の結代・動悸がみられるときなどに用いる。
方剤例⇒炙甘草湯
備考:
麻黄の発汗作用には劣るものの温経散寒の作用の効力は強く、
解肌発汗して寒邪を散じることができる。
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生姜(しょうきょう)
ショウガ科のショウガの根茎。
性味:温・辛
帰経:肺・脾・胃
主な薬効と応用:健胃・発汗・鎮咳
①散寒解表:
風寒表証に辛温解表薬の補助として発汗を増強する。
方剤例⇒桂枝湯
②温胃止嘔:
胃寒による嘔吐に、単味であるいは半夏などと使用する。
方剤例⇒小半夏湯
③化痰行水:
風寒による咳嗽・白色で希薄な痰などの症候時に用いる。
方剤例⇒杏蘇散
備考:傷陰助火するので、陰虚火旺の咳嗽や瘡癰熱毒には禁忌である。
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甘草(かんぞう)
マメ科のウラル甘草の根。
性味:平・甘
帰経:脾・肺・胃
主な薬効と応用
①補中益気:
脾胃虚弱で元気がない・
無力感・食欲不振・泥状便などの症候に用いる。
方剤例⇒四君子湯
②潤肺・祛痰止咳:
風寒の咳嗽時に用いる。
方剤例⇒三拗湯
③緩急止痛:
腹痛・四肢の痙攣時などに用いる。
方剤例⇒芍薬甘草湯
④清熱解毒:
咽喉の腫脹や疼痛などに用いる。
方剤例⇒甘草湯
⑤調和薬性:
性質の異なる薬物を調和させたり、偏性や毒性を軽減させる。
備考:生用すると涼性で清熱解毒に、密炙すると温性で補中益気に働く。
【当帰建中湯:主治】
産後の血虚による衰弱・腹痛などに用いるとされているが、
特に産後にこだわる必要は無く、血虚が明らかであれば使用出来る。
参考文献:
『生薬単』 NTS
『腹證奇覧 全』 医道の日本社
『中医臨床のための方剤学』
『中医臨床のための中薬学』 神戸中医学研究会
画像:
『腹証奇覧 後編2巻』
京都大学貴重資料デジタルアーカイブより
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00004918
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本多