こんにちは、本多です。
今回は腹證奇覧に記載している、
廣済奔豚湯の證の記事を掲載致します。
廣済奔豚湯
図の如く、臍底に動気あり。
又、心胸に奔豚気少しく客すること暗然たり。
吸々として気急速迫、人語を聞くことを欲せず、或は心下煩乱して安からず。
発作時にあり。或は四支煩疼、手足厥冷。或は気上りて心胸を衝くもの。此の證、
世に癪気と号する者に甚だ多し。諸薬投ずるに効なし。
此の方に非ざれば治せざるなり。
廣済奔豚湯の方
李根皮(一戔六分)
半夏(一戔四分)
乾姜・桂心(各八分)
茯苓(六分)
炙甘草・竹節人参(各四分)
炮附子(二分)。
右八味、水一盞八分を以って六分に煮とる。
【廣済奔豚湯:組成】
半夏(はんげ)
サトイモ科のカラスビシャクの塊茎。
性味:辛・温・有毒
帰経:脾・胃
主な薬効と応用:鎮静・鎮咳・去痰
①燥湿化痰:
湿痰の咳嗽・多痰・胸苦しさ、或いは痰濁上擾による
眩暈・不眠・悪心などの症候時に用いる。
方剤例⇒二陳湯
②降逆止嘔:
胃寒・胃熱・胃虚による嘔吐時に用いる。
方剤例⇒胃寒による嘔吐→小半夏湯
胃熱による嘔吐→黄連橘皮竹筎半夏湯
胃虚による嘔吐→大半夏湯
③消痞散結:
痰熱による心窩部の痞えなどに用いる。
方剤例⇒半夏瀉心湯
備考:辛散温燥のため、陰虚の燥咳・傷津の口渇・出血には用いてはならない。
・
乾姜(かんきょう)
ショウガ科のショウガの根茎を乾燥したもの。
性味:大辛・大熱
帰経:心・肺・脾・胃
主な薬効と応用:解熱・鎮痛・鎮咳・抗炎症
①温中散寒:
脾胃虚寒で腹が冷えて痛む・腹鳴・
不消化下痢・嘔吐などの症候時に用いる。
方剤例→理中湯
②回陽通脈:
陽気衰微・陰寒内生による亡陽虚脱で、
四肢の冷え・脈が微弱などの症状時に用いる。
方剤例→四逆湯
③温肺化痰:
肺の寒陰による咳嗽・呼吸困難・
希薄な多量な痰・背部の冷感などの症候時に用いる。
方剤例→小青竜湯
備考:辛熱燥烈のため、陰虚内熱・妊婦には禁忌とする。
・
桂心(けいしん)
クスノキ科のケイの若枝またはその樹皮。
性味:辛・温・甘
帰経:肝・心・脾・肺・腎・膀胱
主な薬効と応用
①発汗解肌:
風寒表証の頭痛・発熱・悪寒・悪風などの症候時に用いる。
方剤例⇒桂枝湯
②温通経脈:
風寒湿痺の関節痛時に用いる。
方剤例⇒桂枝附子湯
③通陽化気:
脾胃虚寒の腹痛時などに用いる。
方剤例⇒小建中湯
④平衡降逆:
心気陰両虚で脈の結代・動悸がみられるときなどに用いる。
方剤例⇒炙甘草湯
備考:
麻黄の発汗作用には劣るものの温経散寒の作用の効力は強く、
解肌発汗して寒邪を散じることができる。
・
茯苓(ぶくりょう)
サルノコシカケ科のマツホドの外層を除いた菌核。
性味:甘・淡・平
帰経:心・脾・肺・腎・胃
主な薬効と応用
①利水滲湿:
水湿停滞による尿量減少・浮腫などに用いる。
方剤例⇒四苓散
②健脾補中:
脾虚の食欲不振・元気がない・腹鳴・腹満、
泥状便や水様便などの症候に用いる。
方剤例⇒四君子湯
③寧心安神:
心神不寧の不眠・不安感・驚きやすい・心悸などの症候に用いる。
方剤例⇒帰脾湯
備考:性質が緩やかであるところから補助薬として用いることが多い。
・
炙甘草(しゃかんぞう)
マメ科のウラル甘草の根。
性味:平・甘
帰経:脾・肺・胃
主な薬効と応用:去痰・鎮咳・抗炎症
①補中益気:
脾胃虚弱で元気がない・
無力感・食欲不振・泥状便などの症候に用いる。
方剤例⇒四君子湯
②潤肺・祛痰止咳:
風寒の咳嗽時に用いる。
方剤例⇒三拗湯
③緩急止痛:
腹痛・四肢の痙攣時などに用いる。
方剤例⇒芍薬甘草湯
④清熱解毒:
咽喉の腫脹や疼痛などに用いる。
方剤例⇒甘草湯
⑤調和薬性:
性質の異なる薬物を調和させたり、偏性や毒性を軽減させる。
備考:生用すると涼性で清熱解毒に、密炙すると温性で補中益気に働く。
・
人参(にんじん)
ウコギ科のオタネニンジンの根。
性味:甘・微温・微苦
帰経:肺・脾
主な薬効と応用
①補気固脱:
大病・久病・大出血・
激しい嘔吐などで元気が虚衰して生じるショック状態時に用いる。
方剤例⇒独参湯
②補脾気:
脾気虚による元気がない・疲れやすい・食欲不振、
四肢無力・泥状~水様便などの症候時に用いる。
方剤例⇒四君子湯
③益肺気:
肺気虚による呼吸困難・
咳嗽・息切れ(動くと増悪する)・自汗などの症候時に用いる。
方剤例⇒人参胡桃湯
④生津止渇:
熱盛の気津両傷で高熱・
口渇・多汗・元気がない・脈が大で無力などの症候時に用いる。
方剤例⇒白虎加人参湯
⑤安神益智:
気血不足による心身不安の不眠・
動悸・健忘・不安感などの症候時に用いる。
方剤例⇒帰脾湯
備考:生化の源である脾気と一身の気を主る
肺気を充盈することにより一身の気を旺盛にし、
大補元気の効能をもつ。
すべての大病・久病・大出血・大吐瀉による元気虚衰の
虚極欲脱・脈微欲脱に対して最も主要な薬物。
・
附子(ぶし)
キンポウゲ科のハナトリカブトの塊根。
性味:大熱・辛
帰経:肺・心・脾・腎
主な薬効と応用:鎮痛・強心作用・利用
①回陽救逆:
大量の発汗や激しい下痢・激しい嘔吐などによる
亡陽虚脱の時に用いる。
方剤例⇒四逆湯
②補陽益火:
腎陽虚による腰・膝のだるさ・頻尿などの症候が現れた時に用いる。
方剤例⇒八味地黄丸
③温陽利水:
腎陽虚による肢体の浮腫・腰痛や膝痛の時などに用いる。
方剤例⇒真武湯
④散寒止痛:
痺証による関節の痛みや痺れ・冷えなどに用いる。
方剤例⇒甘草附子湯
備考:
辛熱燥烈なので、陰盛陽衰で服用する。
陰虚内熱時には使用してはならない。
・
李根皮(りこんぴ)
バラ科のスモモの根皮の甘皮部分を乾燥したもの
性味:苦・鹹
帰経:肝・脾・心
主な薬効と応用:清熱降火
参考文献:
『生薬単』 NTS
『腹證奇覧 全』 医道の日本社
『中医臨床のための方剤学』
『中医臨床のための中薬学』 神戸中医学研究会
画像:
『腹証奇覧 後編2巻』
京都大学貴重資料デジタルアーカイブより
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00004913
・
本多