張仲景の古医書『傷寒論』の解説です。
今回の傷寒論は弁陽明病脈証并治 百九十二章・百九十三章・百九十四章。
百九十二章では、太陽病で穀気が水気に勝れば発汗して治っていくことについて。
百九十三章では、陽明病が治る時間帯について。
百九十四章では、胃中が虚冷している者に誤って攻下法を行い、からえずきが生じる場合について
各々詳しく述べております。
百九十二章
陽明病、初欲食、小便反不利、
大便自調、其人骨節疼、翕翕如有熱狀、
奄然發狂、濈然汗出而解者、此水不勝穀氣、與汗共幷、脉緊則愈。
和訓:
陽明病、初め食を欲し、小便反って利せず、大便自ら調い
其の人、骨節疼き、翕翕として熱ある状の如くに、
奄然と發狂し、濈然と汗出でて解するものは、
此れ水穀気に勝らず、汗と共に并び、脉緊なれば則ち愈ゆ。
・陽明病、初欲食、小便反不利、
大便自調、其人骨節疼、翕翕如有熱狀
太陽病が初期で食欲がる場合は、病が熱化して陽明病になる勢いがある。
そして完全な陽明病になれば、小便がよく出て大便が硬くなるはずである。
しかし小便がよく出ず、大便が正常でなおかつ、
骨節が痛み、翕翕と発熱すれば
これは太陽表証がまだあって、陽明裏熱証が完全でないのである。
それがわずかに「初欲食」という症状として現れている。
また「小便反不利」は表が解けていないのが原因するが
これは太陽膀胱の気化がスムーズにいかず
気機の通陽に影響が及んだためと考えられる。
・奄然發狂、濈然汗出而解者、此水不勝穀氣、與汗共幷、脉緊則愈
奄然發狂は瞑眩状態を指す。そして発汗して治っていく。
これは水気が穀気に勝てず、汗と共に体外に追い出されるからである。
提要:
太陽病で穀気が水気に勝れば発汗して治っていくことについて。
訳:
陽明病に罹り、病初はまだ食欲は保たれていたが、
小便は理に反して出にくく、大便は正常、患者は骨節の疼痛を覚え、
少し発熱している様子で、突然に発狂するが、全身に汗が出てから病は癒える。
これは水湿の邪気が水穀の精気に打ち負かされ、
汗とともに体外に排出されるからで、脉の緊象と有痛性の病はともに除かれる。
百九十三章
陽明病、欲解時、從申戌上。
和訓:
陽明病、解せんと欲する時は、申より戌の上に至る。
・陽明病、欲解時、從申戌上
陽明とは二陽が合わさって明るく茂盛という意味がある。
陽明は中央にあって土を主る。
土が旺気するのは申酉戌(16時・18時・20時)の時間帯である。
1日を通して申〜戌は夕方にあたり、そのとき陽明の気が旺盛となる。
そして陽明経病の者はその時間に治っていく。
陽明腑病の者は潮熱、譫語が出現する。
従って、施術者はこの時間帯のことを理解して治療し、
変証になるのを防がなければならない。
提要:
陽明病が治る時間帯について。
訳:
陽明病が治癒し始める時刻は、だいたい午後三時から九時にかけてである。
百九十四章
陽明病、不能食、攻其熱必噦。
所以然者、胃中虚冷故也。以其人本虚、故攻其熱必噦。
和訓:
陽明病、食すること能わず、其の熱を攻むれば必ず噦す。
然る所以のものは、胃中虚冷するが故なり。
其の人本虚するを以て、其の熱を攻むれば必ず噦す。
・陽明病、不能食、攻其熱必噦。
所以然者、胃中虚冷故也。以其人本虚、故攻其熱必噦。
陽明病で食物が食べれなければ、
胃を詳しく診ていくべきである。
そして、出現している陽明病の外症だけ診て、
簡単に攻下法を行ってはいけない。
胃が虚して寒があるために食べられない者に
その熱を攻めたりすると、寒がより強くなって
胃が傷つき、必ず胃腸が虚衰して
カラえずきをするようになる。
提要:
胃中が虚冷している者に誤って攻下法を行い、からえずきが生じる場合について。
訳:
陽明病に罹り、食欲がなくなった患者を、
もし瀉熱の方法で治療するなら、しゃっくりがおこる。
その訳は、胃中が虚冷するからだ。
患者の体質はもともと虚弱であったので、
瀉熱法で治療するとしゃっくりがおこるのである。
参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』 東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』 績文堂
『中医臨床家のための中薬学』
『中医臨床家のための方剤学』 医歯薬出版株式会社
生薬イメージ画像:
『中医臨床家のための中薬学』 医歯薬出版株式会社
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為沢