張仲景の古医書『傷寒論』の解説です。
今回の傷寒論は弁陽明病脈証并治 百八十八章・百八十九章。
百八十八章では、傷寒が陽明に転属したときに現れる症状についての補述。
百八十九章では、三陽の合病に下法は禁忌であることについて詳しく述べております。
百八十八章
傷寒轉繋陽明者、其人濈然微汗出也。
和訓:
傷寒陽明に転繋するものは、其の人濈然と微汗出ずるなり。
・傷寒轉繋陽明者、其人濈然微汗出也
百八十七章で述べたように、小便がよく出れば湿が去り、
湿が去って熱が独り溜まれば、燥気の偏勝となる。
そして熱が陽明本気の燥化に従って実となり、
単に大便硬となるだけでなく、裏熱により津が外に泄れ出て
汗が絶え間なく出る様になる。
太陽傷寒証は本来無汗であるが、
邪が熱化して裏に内伝し陽明に転属すると
病人は必ず汗出して止まらないようになるのである。
提要:
傷寒が陽明に転属したときに現れる症状について補述している。
訳:
傷寒の病に罹ってこれが陽明に転属すると、
患者は絶え間なくうっすらと汗をかくようになる。
百八十九章
陽明中風、口苦咽乾、腹滿微喘、發熱惡寒、脉浮而緊。
若下之、則腹滿小便難也。
和訓:
陽明の中風、口苦く咽乾き、腹満して微かに喘し、
発熱悪寒し、脉浮にして緊。若し之を下さば、則ち腹満し小便難なり。
・陽明中風、口苦咽乾、腹滿微喘、發熱惡寒、脉浮而緊
陽明中風というのは、陽明証が現れ、そして胃熱があり、よく食する場合をいう。
少陽胆の腑気が鬱滞し、相火が上方に昇れば口苦咽乾となる。
腹滿微喘は陽明裏熱証に属する。
發熱惡寒と脉浮緊が同時に出現すれば、
腹満がまだ完全な実証ではなく、
喘もまた表が不解であるために出現したということがわかる。
表証がこのように明確に出現し、
そして裏証もまだ完全な実証でない場合は枢解の方法を用いる。
そして解いたあと、再びその裏証を詳しく診て
清法か下法を用いていけばよい。
・若下之、則腹滿小便難也
もし仮に先に攻下を行えば、表邪が内陥し腹満は癒えるどころか甚だしくなり、
津が傷ついて膀胱の気化作用が失調するので、小便難となるのである。
提要:
三陽の合病に下法は禁忌であることについて。
訳:
陽明の中風証の場合、その症状は口が苦く咽が乾き、
腹部膨満してわずかに喘ぎ、発熱して悪寒があり、脈象は浮で緊である。
もしこれを下法で治療すると、腹部膨満はさらに悪化し小便は出にくくなる。
参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』 東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』 績文堂
『中医臨床家のための中薬学』
『中医臨床家のための方剤学』 医歯薬出版株式会社
生薬イメージ画像:
『中医臨床家のための中薬学』 医歯薬出版株式会社
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為沢