張仲景の古医書『傷寒論』の解説です。
今回の傷寒論は弁陽明病脈証并治 百八十五章・百八十六章・百八十七章。
百八十五章では、太陽病が陽明病に転属する原因、及びその際の弁証上の特徴について。
百八十六章では、陽明病の脉象について。
百八十七章では、太陰が陽明に転属する場合を弁証しております。
百八十五章
本太陽、初得病時、發其汗、汗先出不徹、因轉屬陽明也。
傷寒發熱、無汗、嘔不能食、而反汗濈濈然者、是轉屬者陽明也。
和訓:
本太陽、初めて病を得る時、其の汗を発し、汗先ず出でて徹せず、因りて陽明に転属するなり。
傷寒発熱して汗なく、嘔して食すること能わず、
而るに反って汗出ずること濈濈然たるものは、是陽明に転属するなり。
・本太陽、初得病時、發其汗、汗先出不徹、因轉屬陽明也
太陽病の初期は汗法を行うべきであり、
もし汗法が不充分であったり、発汗してもまだ完治しなければ
津を傷つけて邪を留め、表邪を直接裏に入らせて
熱化させ陽明に転属させてしまう。
・傷寒發熱、無汗、嘔不能食、而反汗濈濈然者、是轉屬者陽明也
傷寒は発汗させるべきであるが、汗出しなければ
陽が鬱滞して熱化し、経に従って半表半裏に入ると、
嘔吐して飲食ができない少陽病が出現する。
少陽病に汗出させるのは不適当であるが、
いま反対に絶え間なく汗出しているのであるから、
この症状が陽明病であるのは間違いない。
提要:
太陽病が陽明病に転属する原因、及びその際の弁証上の特徴について。
訳:
もともと太陽病であったが、病初期に、発汗治療を受けても、
発汗が充分でなければ、陽明に転属する。
傷寒の病に罹り、発熱して汗が出ず、嘔吐して摂食不能となったものが、
かえってダラダラと絶え間なく汗が出るようになれば、陽明に転属している。
百八十六章
傷寒三日、陽明脉大。
和訓:
傷寒三日には、陽明脉大。
・傷寒三日、陽明脉大
傷寒にかかって3日目、少陽が気を主っている。
少陽は枢を主っているが、邪熱がその枢のメカニズムに従って解けなければ
必ず裏に内伝して陽明脉の大脉が出現するようになる。
提要:
陽明病の脉象について。
訳:
傷寒の病に罹って三日目、邪気が陽明に伝入する時期には大脈が出現する。
百八十七章
傷寒脉浮而緩、手足自溫者、是爲繋在太陰。
太陰者、身当發黃、若小便自利者、不能發黃。
至七八日大便鞭者、爲陽明病也。
和訓:
傷寒脉浮にして緩、手足自ら温なるものは、是れ繋りて太陰に在りと為す。
太陰は、身当に黃を発すべし。若し小便自利するものは、黃を発すること能わず。
七八日に至り大便鞭きものは、陽明病を為すなり。
・傷寒脉浮而緩、手足自溫者、是爲繋在太陰
傷寒で無汗であれば脉は浮緊となるが、
いま脉が浮緩で発熱せず、わずかに手足が温かいのは
本来病人が太陰脾虚で水湿が停留し、
表邪が内陥していることを現しているからである。
・太陰者、身当發黃、若小便自利者、不能發黃
表邪が発汗せず内陥し、湿と一緒になり、
湿熱の熱気が内に鬱蒸するために身体は黃色くなる。
このときに小便がよく出るのは
邪の燥化のメカニズムに従って
湿として下方より排出されるからである。
湿が去り熱が溜まるだけでは身体が黃色くなることはない。
・至七八日大便鞭者、爲陽明病也
熱が中に溜まれば、胃熱が次第に盛んになり、
陽気を主る7〜8日目に燥気が偏盛し、邪熱が燥化に伴って実となり
大便硬が見られれば陽明病になったのである。
提要:
太陰が陽明に転属する場合を弁証している。
訳:
傷寒の病に罹って浮で緩の脈象が現れ、
手足が温くなっていれば、太陰が病を受けたことを示唆する。
太陰病では、身体は黃染するのが普通であるが、
もし小便がよく出ていれば、黃染はおこらない。
七八日を経過して大便が乾燥して硬くなっていれば、
すでに陽明病に転属した証拠である。
参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』 東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』 績文堂
『中医臨床家のための中薬学』
『中医臨床家のための方剤学』 医歯薬出版株式会社
生薬イメージ画像:
『中医臨床家のための中薬学』 医歯薬出版株式会社
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為沢