夫針に太極と云ことあり
此理は言にのべても心におちず、
心に得ても言に述べがたきことの
万物の上において太極の理あらずと云ことなし。
先づ天地未だ分れざるをいふ、
其太極判て陰陽両儀を生ず、
是より寒暑燥湿風、木火土金水、
千変万化となる。
分けて云ときは虚無より混沌をいだす、
清は上て天となり、濁は下て地となる、
是乾坤の初なり、
針の上において沙汰するときは
針は本、金、虚無の躰、細少無心の物なり、
何によってか千変万化の病を治す、
是針者の術を得るところ、
補潟迎随、温冷寒熱、
病に随ひ明手を施すこと、
太極の口伝あり、
しかれども極めて秘密なれば
分明にあらはしがたし、
針の道にかなふときはなんぞ
なんぞ至らざるべけんや、
一気その中に周流して、
以て其神をなす、
自然にそなはれる理なり、
外にもとむべからず。
(鍼灸重宝記)