こんにちは、為沢です。
春っぽくない画ですが、最近撮った万博記念公園のプラタナスの並木道です。
では、張仲景の古医書『傷寒論』の解説に参ります。
今回の傷寒論は弁太陽病脈証并治(下)百七十五章と百七十六章。
百七十五章では風邪と湿邪が身体内に侵入し、裏で衝突した場合の証治について。
百七十六章では白虎湯証の症例をあげ、
表証の寒熱が転化した場合について詳しく述べております。
百七十五章
風濕相搏、骨節煩疼、掣痛不得屈伸、近之則痛劇、
汗出短氣、小便不利、惡風、
不欲去衣、或身微腫者、甘草附子湯主之。方三十七。
甘草二兩 附子二枚 白朮二兩 桂枝四兩
右四味、以水六升、煮取三升、去滓、溫服一升、日三服。
初服得微汗則解。能食、汗出復煩者、
將服五合、恐一升多者、宜服六七合爲妙。
和訓:
風湿相搏ち、骨節疼煩し、
身体疼煩し、掣痛して屈伸するを得ず、
之を近づけば則ち痛み劇しく、汗出で短気し、小便利せず、
悪風して衣を去るを欲せず、
或いは身微かに腫るるものは、甘草附子湯之を主る。方三十七。
甘草二両、炙る 附子二枚、炮ず、皮を去る、破る
白朮二両 桂枝四両、皮を去る
右四味、水六升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服し、日に三服す。
初めて服し微汗を得れば則ち解す。能く食し、汗止み復た煩するものは、
将に五合を服せんとす。恐らく一升の多きものは、宜しく六七合を服するを始めと為すべし。
・風濕相搏、骨節煩疼、掣痛不得屈伸、近之則痛劇
風邪と湿邪が衝突してのち、日数が経過して深く裏に入り、
筋・骨・四肢・関節部の流注がひどく痛んでくる。
気血が凝滞して寝返りがうてなくなるばかりか、
筋骨のひきつり、屈伸時の疼痛による運動不能、
少しの押圧でも激痛となる。
・汗出短氣、小便不利、惡風、
不欲去衣、或身微腫者、甘草附子湯主之
汗出は表陽虚証を現し、
短気・小便不利は少陰心・腎の陽虚を現している。
これは表虚裏寒証で表裏の陽気が虚しているのであり、
それにより風にあたるのを嫌い、衣服を脱ぐのを嫌がる。
また陽虚であるため水湿を運化することができないので、
全身の肌肉に少し浮腫がみられる。
これは甘草附子湯で治療していくが、
その薬力は徐々に持続させながら陽気を補い、風湿を除去していく。
甘草附子湯
・甘草
基原:
マメ科のウラルカンゾウ、
またはその他同属植物の根およびストロン。
甘草の甘平で、脾胃の正薬であり、
甘緩で緩急に働き、
補中益気・潤肺祛痰・止咳・
清熱解毒・
緩急止痛・調和薬性などの性能を持つ。
そのため、脾胃虚弱の中気不足に用いられる。
また、薬性を調和し百毒を解すので、
熱薬と用いると熱性を緩め
寒薬と用いると
寒性を緩めるなど薬性を緩和し薬味を矯正することができる。
・附子
基原:
キンポウゲ科のカラトリカブト、その他の同属植物の子根。
加工・炮製して利用することが多い。
附子は辛熱壮烈であり、
「走きて守らず」で十二経を通じ、
下焦の元陽(命火)を峻補して
裏の寒湿を除き、皮毛に外達して表の風寒を散じる。
それゆえに亡陽欲脱の身冷肢冷・大汗淋漓・
吐利不止・脈微欲脱てんなどには回陽救逆し、
腎陽不足の陽痿滑精・腰膝冷弱には補火壮陽し、
脾腎陽虚・陰寒内盛の心腹冷痛・吐瀉転筋には温裏散寒し、
陽虚不化水湿の身面浮腫・腰以下種甚には助陽行水して冷湿を除き、
風寒湿痺の疼痛麻木には祛風散寒止痛し、
陽気不足の外感風寒で
悪寒発熱・脈沈を呈するときは助陽発表する。
このほか、補益薬と用いると
一切の内傷不足・陽気衰弱に使用できる。
・白朮
基原:
キク科のオオバナオケラの根茎。
この他、日本薬局方ではオケラの周皮を除いた
根茎を規定しており、
日本では一般にこれが流通している。
白朮は甘温で補中し苦で燥湿し、
補脾益気・燥湿利水の効能を持ち、健脾の要薬である。
脾気を健運し水湿を除いて痰飲・水腫・泄瀉を消除し、
益気健脾により止汗・安胎にも働く。
それゆえ、脾虚不運の停痰停湿・泄瀉腫満に対する主薬であり、
表虚自汗および脘腹脹満・胎動不安にも用いる。
・桂枝
基原:
クスノキ科のケイの若枝または樹皮。
桂枝は辛甘・温で、主として肺・心・膀胱経に入り、
兼ねて脾・肝・腎の諸経に入り、
辛散温通して気血を振奮し営衛を透達し、
外は表を行って肌腠の風寒を緩散し、
四肢に横走して経脈の寒滞を温通し、
散寒止痛・活血通経に働くので、
風寒表証、風湿痺痛・中焦虚寒の腹痛・
血寒経閉などに対する常用薬である。
発汗力は緩和であるから、風寒表証では、
有汗・無汗問わず応用でき、
とくに体虚感冒・上肢肩臂疼痛・
体虚新感の風寒痺痛などにもっとも適している。
このほか、水湿は陰邪で陽気を得てはじめて化し、
通陽化気の桂枝は
化湿利水を強めるので、
利水化湿薬に配合して痰飲・畜水などに用いる。
提要:
風邪と湿邪が身体内に侵入し、裏で衝突した場合の証治について。
訳:
風邪と湿邪が互いにぶつかり合うと、
全身の関節の耐え難い痛みが現れる。
四肢はひきつれるように痛んで自在に屈伸できない。
触ったり押さえたりすると痛みは憎悪する。
さらに汗が出て息切れがして、
小便は出にくく、悪風して衣服を脱ぎたがらない。
あるいは全身に軽い浮腫が現れる。
このような場合は甘草附子湯で治療する。処方を記載。第三十七法。
甘草二両、炙る 附子二個、炮じる、皮を除く、割る 白朮二両 桂枝四両、皮を除く
右の四味を、六升の水で、三升になるまで煮て、滓を除き、一升を温服し、日に三回服用する。
一服目を服用して少し汗が出れば治る。食欲が回復し、汗は止まったのに再び痛みが出だしてくるようなら、
五合を服用せよ。一升が多すぎる場合は、六七合から始めるとよい。
百七十六章
傷寒脉浮滑、此以表有熱、裏有寒、白虎湯主之。方三十八。
知母六兩 石膏一斤、砕 甘草二兩、炙 粳米六合
右四味、以水一斗、煮米熟湯成、去滓、溫服一升、日三服。
和訓:
傷寒脉浮滑は、此れ表に熱あり、裏に寒あるを以てす。白虎湯之を主る。方三十八。
右四味、水一斗を以て、米を煮て熟して湯成れば、滓を去り、一升を温服し、日に三服す。
・傷寒脉浮滑、此以表有熱、裏有寒、白虎湯主之
脉浮は熱が外にあること、つまり表熱を意味しており、
滑脉は陽が内に亢進していること、つまり裏熱を意味する。
表裏すべてに熱が存在しているということは、太陽の表邪がすでに熱に化し
陽明に転属していることを示している。
裏に寒ありの寒は盛んな熱邪が裏にあり、
陽気が亢進しているということである。
この時、裏熱が外へも拡散するようであると
表裏全体が熱をもつことになるが、
裏熱が外へ拡散せず、四肢へ到達することができないと
身体は熱いが逆に四肢末端は冷えるといった症状が現れる。
この種の手足厥冷は、陽熱が内においてとても亢進し、
陰を外へ排斥することによって生じるものである。
治療において白虎湯を用いる。
白虎湯
・知母
基原:
ユリ科のハナスゲの根茎。
知母は苦寒で質柔性潤であり、
上は肺熱を清して瀉火し、下は腎火を瀉して滋陰し、
中は胃火を瀉して煩渇を除き、
清熱瀉火と滋陰潤燥の効能をもつので、
燥熱傷陰には虚実を問わず使用できる。
熱病の煩渇・消渇・肺熱咳嗽・
陰虚燥咳・骨蒸潮熱などに適し、
滋陰降火・潤燥潤腸の効能があるため、
陰虚の二便不利にも用いる。
・石膏
基原:
含水硫酸カルシウム鉱石。
組成はほぼCaSO4・2H2Oである。
石膏は辛甘・大寒で、肺・胃の二経に入り、
甘寒で生津し、辛で透発し、
大寒で清熱し清熱瀉火するとともに散熱し、
外は肌表の熱を透発し内は肺胃の熱を清し、
退熱生津により除煩止渇するので、
肺胃二経の気分実熱による高熱汗出・煩渇引飲・脈象洪大、
肺熱の気急鼻扇・上気喘咳、
胃火熾盛の頭痛・歯齦腫痛
口舌生瘡などに、非常に有効である。
・甘草
基原:
マメ科のウラルカンゾウ、
またはその他同属植物の根およびストロン。
甘草の甘平で、脾胃の正薬であり、
甘緩で緩急に働き、
補中益気・潤肺祛痰・止咳・
清熱解毒・
緩急止痛・調和薬性などの性能を持つ。
そのため、脾胃虚弱の中気不足に用いられる。
また、薬性を調和し百毒を解すので、
熱薬と用いると熱性を緩め
寒薬と用いると
寒性を緩めるなど薬性を緩和し薬味を矯正することができる。
・粳米
基原:
イネ科イネの種子。玄米。
粳米の性味は平、甘で帰経は脾、胃である。
和胃護津に働き、清熱薬による傷胃を防止すると共に、
石膏との配合で甘寒生津に働く。
提要:
白虎湯証の症例をあげ、表証の寒熱が転化した場合について述べている。
訳:
傷寒の病に罹って脉が浮滑となれば、
これは表に熱があって、裏に寒がある状態で、白虎湯で治療する。処方を記載。第三十八法。
知母六両 石膏一斤、砕く 甘草二両、炙る 粳米六合
右の四味を、一斗の水で、米粒がなくなるまでよく煮て、滓を除き、一升を温服し、日に三回服用する。
参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』 東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』 績文堂
『中医臨床家のための中薬学』
『中医臨床家のための方剤学』 医歯薬出版株式会社
生薬イメージ画像:
『中医臨床家のための中薬学』 医歯薬出版株式会社
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是非参考文献を読んでみて下さい。
為沢