こんにちは、為沢です。
画像は、往診から帰ってきていつも通る歩道橋から見える風景です。
大阪に帰ってきて一息つく場所なので、なんとなく撮ってみました。
ここからは、張仲景の古医書『傷寒論』の解説です。
今回の傷寒論は弁太陽病脈証并治(下)百七十一章と百七十二章。
百七十一章では太陽と少陽の併病で、経脈に邪が蔓延した場合の鍼灸治療法について。
百七十二章では太陽と少陽の合病で、下痢或いは嘔吐する場合について詳しく述べております。
百七十一章
太陽少陽倂病、心下鞕、當刺大椎、肺兪、肝兪、愼勿下之。三十三。
和訓:
太陽少陽の併病、心下鞕く、頸項強ばりて眩するものは、
当に大椎、肺兪、肝兪に刺すべし。慎んで之を下すこと勿かれ。三十三。
・太陽少陽倂病、心下鞕、當刺大椎、肺兪、肝兪、愼勿下之
表証がまだ解けていないのに、誤って下法を行い
心下硬満が現れる場合、病は少陽に伝わり火欝となる。
この場合に鍼灸治療を行うならば
大椎と肺兪・肝兪を取穴し、直に経脈中の熱邪を瀉していくのである。
提要:
太陽と少陽の併病で、経脈に邪が蔓延した場合の鍼灸治療法について。
>訳:
太陽病証が解消されないのにさらに少陽病証が出現してきて
心下部が硬くなり、頸項部がこわばってめまいがする場合は、
大椎、肺兪、肝兪などの穴位に刺鍼を行い、決して攻下法で治療してはならない。第三十三法。
百七十二章
太陽與少陽合病、自下利者、與黄芩湯、
若嘔者、黄芩加半夏生薑湯主之。三十四。
黄芩湯方
黄芩三兩 芍薬二兩 甘草二兩、炙 大棗十二枚、擘
右四味、以水一斗、煮取三升、去滓、溫服一升、日再夜一服。
黄芩加半夏生薑湯方
黄芩三兩 芍薬二兩 甘草二兩、炙 大棗十二枚、擘 半夏半升、洗 生薑一兩半、一方三兩、切
右六味、以水一斗、煮取三升、去滓、溫服一升、日再夜一服。
和訓:
太陽と少陽との合病、自ら下利するものは、黄芩湯を与う。
若し嘔するものは、黄芩加半夏生薑湯之を主る。
黄芩湯
黄芩三両 芍薬二両 甘草二両、炙る 大棗十二枚、擘く
右四味、水一斗を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服し、日に再夜に一服す。
黄芩加半夏生薑湯
黄芩三両 芍薬二両 甘草二両、炙る 大棗十二枚、擘く 半夏半升、洗う 生薑一両半、一方には三両、切る
右六味、水一斗を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服し、日に再夜に一服す。
・太陽與少陽合病、自下利者、與黄芩湯、若嘔者、黄芩加半夏生薑湯主之
「合病」とは二経或いはそれ以上の病症が同時に出現する場合をいう。
太陽と少陽の合病で自然に下痢をするのは、
熱邪が少陽の半表半裏で盛んになったことで、
枢の作用が失調して、邪を外に追い出させることができず、
逆に内の腸の影響を与えたことにより下痢となっている。
そして太陽表証が出現する段階はすでに済んでいるので、
それらは発病していないことがわかる。
この場合、治療は黄芩湯を用いて
半裏の熱邪を清瀉し、斂陰、緩急、調中するようにする。
そしてこれに嘔吐がある場合は、
少陽の熱邪が枢の作用により、外に送られようとしているのだから、
黄芩加半夏生薑湯を与えて清熱を図り、半表の逆気を調えていくのである。
黄芩湯
・黄芩
基原:
シソ科のコガネバナの周皮を除いた根、
内部が充実し、
細かい円錐形をしたものを
条芩、枝芩、尖芩などと称し、
老根で内部が黒く空洞になったものを枯芩、
さらに片状に割れたものを片芩と称する。
黄芩は苦寒で、苦で燥湿し寒で清熱し、
肺・大腸・小腸・脾・胆経の湿熱を
清利し、
とくに肺・大腸の火の清泄に長じ肌表を行り、安胎にも働く。
それゆえ、熱病の煩熱不退・肺熱咳嗽・湿熱の痞満・
瀉痢腹痛・
黄疸・懐胎蘊熱の胎動不安などに常用する。
また瀉火解毒の効能をもつので、
熱積による吐衄下血あるいは
癰疽疔瘡・目赤腫痛にも有効である。
とくに上中二焦の湿熱火邪に適している。
・芍薬
基原:
ボタン科のシャクヤクのコルク皮を除去し
そのままあるいは湯通しして乾燥した根。
芍薬には<神農本草経>では赤白の区別がされておらず
宋の<図経本草>ではじめて金芍薬(白芍)と木芍薬(赤芍)が分けられた。
白芍は補益に働き赤芍は通瀉に働く。
白芍は苦酸・微寒で、酸で収斂し苦涼で泄熱し、
補血斂陰・柔肝止痛・平肝の効能を持ち諸痛に対する良薬である。
白芍は血虚の面色無華・頭暈目眩・月経不調・痛経などには補血調経し、
肝鬱不舒による肝失柔和の胸脇疼痛・四肢拘孿
および肝脾不和による
腹中孿急作痛・瀉痢腹痛には柔肝止痛し、
肝陰不足・肝陽偏亢による頭暈目眩・肢体麻木には斂陰平肝し、
営陰不固の虚汗不止には斂陰止汗する。利小便・通血痺にも働く。
・甘草
基原:
マメ科のウラルカンゾウ、
またはその他同属植物の根およびストロン。
甘草の甘平で、脾胃の正薬であり、
甘緩で緩急に働き、補中益気・潤肺祛痰・止咳・
清熱解毒・
緩急止痛・調和薬性などの性能を持つ。
そのため、脾胃虚弱の中気不足に用いられる。
また、薬性を調和し百毒を解すので、
熱薬と用いると熱性を緩め
寒薬と用いると
寒性を緩めるなど薬性を緩和し薬味を矯正することができる。
・大棗
基原:
クロウメモドキ科のナツメ。またはその品種の果実。
甘温で柔であり、
補脾和胃と養営安神に働くので、
脾胃虚弱の食少便溏や営血不足の臓燥など心神不寧に使用する。
また薬性緩和にも働き、
峻烈薬と同用して薬力を緩和にし、脾胃損傷を防止する。
ここでは、脾胃を補うとともに芍薬と協同して筋肉の緊張を緩和していく。
また、生薑との配合が多く、
生薑は大棗によって刺激性が緩和され、
大棗は生薑によって気壅致脹の弊害がなくなり、
食欲を増加し消化を助け、
大棗が営血を益して発汗による
傷労を防止し、
営衛を調和することができる。
黄芩加半夏生薑湯
↑上記の四味
+
・半夏
基原:
サトイモ科のカラスビシャクの塊茎の外皮を除去して乾燥したもの。
半夏は辛散温燥し、水湿を行らせ逆気を下し、
水湿を除けば脾が健運して痰涎は消滅し、
逆気が下降すると
胃気が和して痞満嘔吐は止むので
燥湿化痰・和胃消痞・降逆止嘔の良薬である。
それゆえ、脾虚生痰の多痰、痰濁上擾の心悸・失眠・眩暈、
痰湿犯胃の悪心嘔吐・飲食呆滞・心下痞結にもっとも適する。
また、適当な配合を行えば、痰湿犯胃の咳喘・胃虚や
胃熱の嘔吐・
痰湿入絡の痰核などにも使用できる。
このほか、行湿通腸するので老人虚秘にも効果がある。
生半夏を外用すると癰疽腫毒を消す。
・生薑
基原:
ショウガ科のショウガの新鮮な根茎。
日本では、乾燥していない生のものを鮮姜、
乾燥したものを生姜を乾生姜ということもあるので注意が必要である。
生薑は辛・微温で肺に入り発散風寒・祛痰止咳に、
脾胃に入り温中祛湿・化飲寛中に働くので
風温感冒の頭痛鼻塞・痰多咳嗽および水湿痞満に用いる。
また、逆気を散じ嘔吐を止めるため、
「姜は嘔家の聖薬たり」といわれ
風寒感冒・水湿停中を問わず
胃寒気逆による悪心嘔吐に非常に有効である。
提要:
太陽と少陽の合病で、下痢或いは嘔吐する場合について。
訳:
太陽と少陽の病が同時に発病し、下痢が現れた場合は、黄芩湯で治療すればよい。
もしさらに嘔吐が出現すれば、黄芩加半夏生薑湯で治療すればよい。第三十四法
黄芩湯方
黄芩三両 芍薬二両 甘草二両、炙る 大棗十二個、裂く
右の四味を、一斗の水で、三升になるまで煮て、滓を除き、一升を温服し、日中に二回夜間に一回服用する。
黄芩加半夏生薑湯
黄芩三両 芍薬二両 甘草二両、炙る 大棗十二個、裂く 半夏半升、洗う 生薑一両半、別本では三両とする、切る
右の六味を、一斗の水で、三升になるまで煮て、滓を除き、一升を温服し、日中に二回夜間に一回服用する。
参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』 東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』 績文堂
『中医臨床家のための中薬学』
『中医臨床家のための方剤学』 医歯薬出版株式会社
生薬イメージ画像:
『中医臨床家のための中薬学』 医歯薬出版株式会社
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為沢