無題
無題
 

鍼をもって日々と仕事がありえる上で
僕や彼らの知っている鍼をしなければならないという
わだかまりがフッと消え失せた。
これからはもっと素直に鍼が振れると思うし、
縛りものから解放してやることが出来る。
そこで始めて、
鍼というものが呼吸を
始めるし、
わたくしというものも生きとし生けるままに舞うことが出来る。
そこに本当の鍼がある気がした。
おかえりなさいと
温かい声が聞こえる。
自由にやろう。
思うことはいつも他の場所にあったはずだ。
それを開き取りに行く。
手技が鍼師を生かし
哲学が鍼師を生かし
術が鍼師を生かし
名が鍼師を生かす
と、はずが
手技が鍼師を殺し
哲学が鍼師を殺し
術が鍼師を殺し
名が鍼師を殺す

ぼくはそれら一切のものと一定の距離を保ちたい。
そうすれば、
一刻一刻無限にそういうものなど生まれ続ける。
じゃないと、
形のない息吹に対する
冒涜だと僕は考える。
数えることさえ出来ないで程の
星の数ほどの教えや予感があるというのに
その一つ一つに名をつけて
経典のごとく枕元に置き、
一生かけて諳んじる意味がどれほどあるのか。
そこは僕の生きる場所ではない。
僕はあらゆる予感を灯として
歩もうと一つ改めて決めた。  

 鍼師 林

 

 

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