大黄牡丹皮湯

大黄牡丹皮湯
大黄牡丹皮湯

図の如く臍下に毒有りて、之を按ずれば痛むもの、即ち此の証なり。
所謂、経閉、血塊の類。
或は乳岩、男女諸悪瘡を発し腐爛するもの類に此の證多し。
其の余何病を問わず、臍下堅塊ありて之を按ずれば痛むものは皆此の證なり。
又此の方のみに限らず、桃軍圓、或は癥痼圓、或は芎帰膠艾湯、或は葛根加大黄湯の類の諸證に、
世に所謂、腐骨疽、乳岩の類、難治と称するもの。
其の余諸般の悪瘡腐爛するもの多し。
ここに於ては、皆、丸散兼用し證に随って用うること忽せにすべからず。
例えば、悪瘡腐爛するものならば、先ず腹證を審らかにして、本剤を与えること四、五日、
毎夜伯州散二戔或は三戔を兼用し、時々、梅肉散を以って攻むること、毒の厚薄に随って、
或は二分、三分より五、六分。
甚だしきものは一戔以上に至り之を用う。
若くは、其の毒大にして腐爛甚だしく、膿汁出るものの類は、
雲龍散に軽粉を加倍して之を与えれば、口中腐爛して食し能わざるを一旬、或は二旬にして治すべし。
尚愈えざるものは、口中腐爛止みて後、前方を用い、毒の愈ゆるを度とすべし。
然れども、大黄牡丹皮湯を服するうちは、本剤に大黄、芒硝ある故、兼用の方を投ずべからず。
若し、右の如く傍兼用の證のあるときは、本剤を止めて用うべし。
然しながら伯州散は本剤に同じき薬なき故、毎夜兼用して可なり。
梅肉散は峻剤(強き薬)なれば、五日若しくは七日を隔て用うべし。
案ずるに、右の外、臍下に毒あるもの、前に云う所の苓姜朮甘湯及び赤石脂禹余糧湯・八味丸等なり。
赤石脂禹余糧湯は、臍下を按ずるに軟にして痛み、下痢或は膿血を便するものなり。
又、臍の上下左右、按ずれば皆痛むものもあり。
八味丸は、臍下不仁して小便不利なるもの是なり。


【大黄牡丹皮湯:組成】

大黄(だいおう)

大黄
大黄

タデ科のダイオウ属植物の根茎や根。
性味:苦・寒
帰経:脾・胃・大腸・肝・心包
主な薬効と応用:緩下・駆瘀血
①瀉熱通腸:
胃腸の実熱による、
便秘・腹痛・高熱・意識障害などに用いる。
方剤例⇒大承気湯

②清熱瀉火:
火熱上亢による、
目の充血・咽喉の腫痛・鼻出血など上部の火熱の症候に用いる。
方剤例⇒三黄瀉心湯

③行瘀破積:
血瘀による無月経や腹痛時に用いる。
方剤例⇒復元活血湯

④清火湿熱:
湿熱の黄疸時に用いる。
方剤例⇒茵蔯蒿湯

備考:生用すると瀉下の働きが強くなり、
酒を吹きかけ火で焙ると上部の火熱を清し活血化瘀の働きが強くなり、
酒とともに蒸すと瀉下の力が緩やかになり、
炒炭すると化瘀止血に働く。

 

牡丹皮(ぼたんぴ)

ボタン科のボタンの根皮
性味:苦・辛・微寒
帰経:心・肝・腎
主な薬効と応用:
①清熱涼血:
熱入営血の夜間発熱・皮下出血・吐血・鼻出血・舌質が絳などの症候に用いる。
方剤例⇒犀角地黄湯

②活血散瘀:
瘀血による無月経・月経痛・腹腔内腫瘤などの症候に用いる。
方剤例⇒桂枝茯苓丸

③清肝火:
肝鬱化火による熱感・頭痛・目の充血・頬部の紅潮・口が乾く
・月経不順などの症候に用いる。
方剤例⇒加味逍遙散
備考:清熱涼血には生用、活血散瘀には酒炒、止血には炒炭する。

 

桃仁(とうにん)

桃仁
桃仁

バラ科のモモやノモモなどの成熟種子。
性味:苦・甘・平
帰経:心・肝・大腸
主な薬効と応用:
①破瘀行血:
血瘀による無月経・月経痛・
腹腔内腫瘤などを呈するときに用いる。
方剤例⇒桃紅四物湯

②潤腸通便:
腸燥通便による便秘時に用いる。
方剤例⇒五仁湯

備考:桃仁・杏仁は止咳平喘・潤腸通便の効能をもつが、杏仁は気分に偏し降気消痰に優れ、
桃仁は血分に偏し破瘀生新に優れている。

 

冬瓜仁(とうがんにん)

ウリ科のトウガンの成熟種子。
性味:甘・寒
帰経:肺・胃・大腸・小腸
主な薬効と応用:
①清肺化痰・消癰排膿:
肺熱の咳嗽・黄痰などの症候時に用いる。
方剤例⇒前貝杏瓜湯

②清熱利湿:
下焦湿熱による白濁(尿道口からの白色混濁の分泌物と排尿痛)
・帯下・排尿痛・排尿困難などに用いる。
備考:寒滑で上焦では肺の蘊熱を清し下焦では大腸の積垢を道く。

 

芒硝(ぼうしょう)

天然の含水硫酸ナトリウム。
性味:鹹・苦・寒
帰経:胃・大腸・三焦
主な薬効と応用:緩下・利尿
①瀉熱通便:
胃腸の実熱、燥屎内結による、
腹満・腹痛・便秘・高熱・意識障害などに用いる。
方剤例⇒大承気湯

②清熱消腫:
咽喉のびらんや腫脹、口内炎などに用いる。
方剤例⇒冰硼散

備考:天然の鉱物を火熱水解したのち、泥や砂を除き濾液を冷やして、
上面に結した細芒のことをいう。


【大黄牡丹皮湯:主治】

腸癰初起、熱毒が腸に蘊結して気血を瘀滞させ癰を形成した初期の段階で、
虫垂炎などに相当し、
右下腹部の疼痛や圧痛・発熱・汗が出るなどの症状時に用いる。
効能としては瀉熱破瘀・散結消腫となる。


参考文献:
『生薬単』 NTS
『腹證奇覧 全』 医道の日本社
『中医臨床のための方剤学』
『中医臨床のための中薬学』 神戸中医学研究会

画像:
『腹証奇覧 正編2巻』
京都大学貴重資料デジタルアーカイブより
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00004913

画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
是非参考文献を読んでみて下さい。

本多

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